第280話「ゲットだぜ」
「成程。つまり、お前らは財団が数百年後から寄越した部隊だと」
「そうだ……」
「ええと、お前らの年号だと半年後から4年で第三次大戦は終結。その後、オレ達ファースト・クリエイターズの諸々のせいで世界は強制的に変わる事を強いられたと」
「そうだ……」
「環境は回復したが国家間闘争が無くなったせいで大国と中小国の差が固定化。科学研究は進んだが、人類の闘争本能が低減した結果として何処も精神的なハングリーさを失いまくり。世界統一まで後一歩まで迫ってるが、戦争が無くなった結果として殆どの国家が資源の浪費を抑えたローコスト生活の現状に満足するか諦めるかの二極化しつつあり、人間同士の争いが野蛮に見られる風潮のおかげで一部の未だ闘争本能が高い連中は野蛮人扱い。でも、差別もされないから大抵無視される時代であると」
「そうだ……」
「鬱屈した連中は文化的な儀式化、遊戯化された先兵との戦いでそれらを発散出来て英雄視されるのを夢見て蜘蛛狩りだか神狩りだか適当な名前の職業になってて。生産人口は縮小しつつあり、一部では原始的で牧歌的な暮らしを逆に好む人類が文明レベルを下げて20世紀初頭の生活をスマートに行っていると」
「そうだ……」
「科学技術の向上で人間の仕事が極端に減ったせいで行き場を失った人口の活動は多くが人類の知能が求められる宇宙になりつつあると」
「そうだ……」
「その結果として人類は宇宙進出を成し遂げつつあるが、闘争を意に介さないボンクラばっかりでつまらないと」
「そうだ……」
「で、そんな人類が多数派になったせいで財団の管轄してきたオブジェクトの管理人員が減って、極端な世界滅亡シナリオが進行しまくり、Dになる人間も人口比で少数点以下、今にも滅びちゃうかもって事でOK」
「そうだ……」
「お前らは努力って言葉を知らんのか?」
「努力、とはあの努力の事か?」
「何?」
「我々は財団所属のオブジェクトの統合研究成果だ。完成された能力とシステムとしての完全動作は人間の感情的な成果による訓練に帰結しない」
「ええと……お前らの動作を保証してくれるのは財団の研究部門って事か?」
「そうだ」
「お前ら、一応人間だよな?」
「当たり前だ。そして、同時に我々は貴様を倒し、人類に元の健全な状態を取り戻させねばならない。貴様が人類の遺伝的淘汰を行ったせいで最終的に人は悪意との戦いに弱い存在となってしまった。悲劇こそが人類を鍛え、悲劇こそが人類を救う。それが財団の出した最終的な結論だ」
「悲劇ね……だが、この時間軸を変えたからってお前らの未来が救われるのか? パラドックスはどうなってんだ?」
「……パラドックスは起こらない。我々は帰還しない」
「何?」
「我々は人類への警鐘だ。そして、この時間軸の人類を救う為にやってきた」
「―――」
言葉が出なかったのは相手がその意味を完全に理解していたからだ。
「お前らは片道切符で来たのか?」
「そうだ……」
「はは、ああ……そうかい。お前らはその時点で本当にお前らの時代を象徴するくらいの馬鹿だろうよ」
「何!? 我々を侮辱するのか!!?」
日本人の女子大生が目を怒らせる。
「いや、褒めてるんだ。それはお前が嫌いな平和ボケした連中と同じくらい、道義的で倫理的で闘争とは掛け離れた行為なんだぞ?」
「何……?」
相手は困惑中だ。
だが、それも未来人だからこそなのかもしれない。
だって、そうだろう。
その闘争マシマシな技術やらオブジェクトを統合した結果として生み出されたはずの能力者がこんなにも善人なのだから。
「誰かの為に。それは財団にとっての意地なのか。それとも本当にただの滅びる寸前からの善意なのか。それは分からないが、一つだけ理解した」
「……何だ?」
「ちょっと、世界の救い方教えてやるから、ウチで働け」
「何、だと?」
「その超能力だかオブジェクトだか知らない力で変えてる顔も元に戻せ。別に取って食やしねぇから」
「な、と、取って喰う!? やはり、この時代の人類は野蛮なのか!?」
ビクッとした様子の相手に思わず苦笑が零れた。
「食わない喰わない。後ろの連中も開放してやる。付いてくるかどうかは五人で話し合って決めるといい。オレを殺すのもオレの邪魔をするのも、もうお前らには不可能だ。それはお前らが一番よく知ってるだろう?」
「……付いて行けばどうなる。黒蒼将カシゲェニシ」
「お前らが人類の希望として送り出されたのか。それとも箱舟のつもりだったのか。それとも未来へのパラドックスの鍵辺りにされるのか。それはお前らの話だが、一つだけお前らを送り出した奴らは間違えなかった」
「何を、だ?」
「お前らそのものがオレを動かすに足るだけの理由だって事だ」
「???」
首を傾げられる。
「お前らは好きにするといい。この時代に残るも良し。オレがやれるものを持って未来へ帰るも良し」
「何を、言っている……我々が帰る方法など」
「在るんだよ。生憎とな」
「―――ッ」
「さて、話はお終いだ。オレが買い物済ませるまでに答えをくれ」
開放した連中が能力で聞き耳を立てているのを横目に棺を開放しておく。
その合間にコンビニのフードコートから立って、本日の昼食と大喰らいのHENTAIの為、せっせとツマミと菓子類をカゴを二つ持って放り込んでいく。
こっちの買い物の量に山間にあるコンビニの店員は目を丸くしていた。
コンビニのドアの先からやってきた男女が女子大生の傍に駆け寄って来ると何やら喧々諤々話し始める。
(メインシナリオの修正完了……これでこの時間軸はまぁ大丈夫だろう。さて、丁度良い感じに悪の秘密結社にとって必要不可欠な人員も出来そうだし……此処からは暗躍でも始めようか……)
菓子とツマミと弁当が溢れるカゴをレジ横に置きながら、明日の予定を組む事にした。
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