Interlude ~池崎馨の夢 Ⅲ~
コンコン。
僕の自室の扉をノックする音だ。
「はい」
編み物の手を休めずに返事をすると、ギイッと重い扉が開いて、給仕係のココがアフタヌーンティーを持ってきた。
「ありがとう。後でもらうから、ワゴンのまま置いといてくれるかな?」
「はい……」
いつもの明るい声色ではない。
僕はふと手を休めてココを見た。
「元気がないみたいだね。どうかしたの?」
「実は……。王宮の近衛兵の一人、セージさんのことで困っているのです」
「セージのことで?」
「はい。最近、セージさんが私の仕事帰りにいつも王宮の門の前で待っていて、一緒に帰ろうとか、今度の休みは空いてるかとか、うるさいんです」
セージは僕の友人でもある。
彼がココに恋をしたということだろうか。
「なんだ、喜ばしいことじゃないか。
彼は強くて優しい、頼りになる男だ。
精悍で城内で働く女性達にも人気があると聞く。
一度彼の誘いを受けて、デートしてみてもいいのではないかな?」
「王子! どうしてそんなことをおっしゃるのですか……?」
「どうしてって……。この国の民、この王宮で働く皆の幸せを願うことが僕の務めだからだよ。
セージならばきっと君を幸せに……」
「だって……!」
僕の言葉を遮ったココの瞳が潤んだ。
「だって……」
肩と尻尾がわなわな震えている。
僕は何か悪いことを言っただろうか?
「だって、セージさんでは、もふもふできないじゃないですかあぁっ!!」
ココはそう叫びながら、ワゴンを残し部屋を走り去った。
僕は呆気にとられて、バタンと閉まる扉を見つめる。
確かに。
セージは黒い精悍なラブラドール・レトリバーだ。
短毛で、もふもふはできないが……
彼女の恋する基準はそこなのか?
────
──…
……
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