第六十四話 救出編【64】
女子生徒も最後の白いプリンを食べ終えた。
「あの前にも聞いたんですけど、次の子の見つけた方を改めて教えてくれませんか?」
「前に話さなかったっけ?」
「聞きました。けど、もう一度、確認しておきたいんです」
「わかったわ」
私は水を一口飲んだ。
「全ては夢に現れるわ」
「寝ている時に見る夢ですか」
「そう。就寝している時に、夢によって全てが伝えられる。誰から伝えられるのか、私にもわからないけど」
「確か、映像だったり、音声だったりするんですよね?」
「そうね。橋の上でも話したけど、私は私自身を夢の中で見て、あなたを見つけたわ。私の前任者の話によると、映像だけじゃなくて、音や言葉が文字で現れる夢もあるそうよ」
「普通の夢とはちょっと違いますね」
「そうね。私の場合、吉田さんが高田さんから告白される時のお告げは音だったわ。人の声で吉田さんが告白されると知ったわ」
「その時には高田さんが女子であるという事はわからなかったんですよね?」
「今、考えればヒントはあったわ。言葉の中に、『意外』というものがあったから」
「でも、まさか、その『意外』というものが女子からの告白であるとはわからないですよね」
私は肩を落とした。
「わからなかったわね。夢に見た当初はそれ程、意識もしていなかったし」
「あたしも音声で夢のお告げみたいなのがあるんでしょうか?」
「こればかりはわからないわね。私の前任者も全てを教えてくれたわけじゃないし。それに、私自身が吉田さんの導き手になって、わかった苦労もあるし」
「どんな苦労です?」
「ごめんなさい。それは言えないわね。何がいけない行為なのか、私にもはっきりとはわからないの。もしかしたら、吉田さんの問題が片付いた後に、こうしてご飯を食べているのも本当はいけない事なのかもしれないし」
「長岡さんにも全てがわかるわけじゃないんですね」
「その通り。私も未だにわからない事だらけだわ。私の前任者もきっと同じ思いをしてるでしょうね」
女子生徒が
「わからなくて当たり前」
女子生徒の小さな声に私は反応した。
「そ、わからなくて当たり前なの。きっと吉田さんには吉田さんなりの導き方があるんだわ。そう信じるしかないわね」
女子生徒が背筋を伸ばした。
「わかりました。あたし、自分なりに頑張ってみます」
「応援だけはしてるわ」
私は笑顔で答えた。
それから、女子生徒と私は喫茶店を出た。店の出入り口で私達は足を止めた。
私は言う。
「ここでさよならにしましょ。もう、私が伝える事はないわ。後は吉田さん次第よ」
「はい」
女子生徒が力強くうなずいた。
それを見て、私も
「じゃ、元気でね」
「吉田さんも」
女子生徒と私は背を交互に向けた。お互いの道をそれぞれ歩き出す。
私は振り返る事なく、女子生徒と反対方向へ足を進めた。女子生徒が私の背中を見送ったのかはわからない。しかし、女子生徒も私と同じように真っ直ぐ自分の道を進んでいると信じた。
(大丈夫。あなたならきっとうまくやれる)
私は心の中で女子生徒に言うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます