第五十八話 救出編【58】

 私は缶の底に残ったカフェオレを飲み干した。女子生徒もならうようにコーヒーの缶を空にする。

「そろそろ出ましょう」

「はい」

 私達はイートインスペースから席を立った。

 自動ドアを出て、ゴミ捨て場に空き缶を二人 そろって捨てる。

「じゃあ、また今度、連絡を頂戴。いつでもいいから」

「わかりました。あたしもよく考えて返事を出したいと思います」

 私と女子生徒はコンビニエンスストアの前で別れた。

 私の足取りは軽かった。

(あの子は――吉田さんはきっと私の跡を継いでくれるだろう。あの子は頭がいい。勉強が出来るとか、そういう意味ではなく、地頭がいいのだ。あの子なら安心して私の後任を託せる)

 私は鼻歌を歌いたい気分で家に帰った。


 家に着くとそっと玄関の鍵を開けた。しかし、鍵が立てる「ガチャリ」という音は自棄やけに大きく聞こえた。

 私は靴を脱ぐと、上がりかまちに足を乗せた。

 耳を澄ます。

(誰も起きてないようだ)

 私は胸をなでおろすと、静かに階段を上がった。そのまま自室に入る。

 自室の電灯をけると、私は安堵あんど溜息ためいきをついた。

 リュックを床におろし、服を脱ぐ。そして、中学の時に着ていたジャージに着替えた。

 私はそのままベッドに潜り込んだ。

(明日は遅刻だな)

 私は心で愚痴りながら眠りの世界に入っていった。


 翌日。

 私は当然のように遅刻をした。

 私が教室に入ったのは二限目の授業が始まった時だった。

 それから私は普段通りの学校生活を送った。

 私にはわかっていた。女子生徒が必ず私の跡を継いでくれることであろうと。

 これと言った根拠はない。が、私がそうであったように、きっと、女子生徒も恩返しをしたいと感じているはずだ、という思いがあった。

 女子生徒からの報告は私が思っていた以上に早かった。

 私が高校から帰宅し、自室に入るとスマートフォンの着信音が鳴った。番号は女子生徒のものだ。

 私は震える手で通話のアイコンを押した。

「もしもし」

「もしもし。吉田ですけど」

「こんにちは」

「こんにちは。あの、今、お時間、空いてます?」

「大丈夫よ」

「あたし、決めました。私、長岡さんの跡を継ぎたいと思います」

 私は心の中でガッツポーズをした。しかし、私は喜びを声に出すことなく、淡々と事務作業をするようにスマートフォンに向かって話した。

「それを聞いて安心したわ。吉田さんが跡を継いでくれるってことは薄々わかっていたの。あなたは人助けができない自己中心的ではない人間だって」

「そんなことないですよ。あたしは我儘わがままな女子ですよ」

「そんなことはないわよ」

 その言葉は私の本心から生まれた言葉だった。

 


 

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