第四十四話 救出編㊹
図書室には相変わらず誰もいなかった。
私は図書室に入り、カウンターの向こうの部屋に目を向けた。目的の人物はそこにいた。
頭髪の薄い男性の司書の先生はコンビニで買ってきたであろうおにぎりを食べている。そばにはお茶が入ったペットボトルもある。
私はカウンターから身を乗り出し、声を出した。
「すみません」
私の声に反応して、司書の先生がおにぎりから視線を上げた。私と目が合う。
司書の先生はおにぎりをモサモサと
「あの、中に入ってもいいですか?」
私がそう言うと、司書の先生はおにぎりを飲み下すと、うなずいた。
「いいよ。遠慮しないで入って」
「ありがとうございます」
私がカウンターを抜けると、司書の先生は椅子を一脚、用意してくれた。
私は一礼すると、椅子に腰掛けた。
司書の先生がペットボトルのお茶で口を
「で、今日は何があったのかな?」
「あの、私に何かあったわけじゃなく、お願いがあって来たんです」
「お願い?」
「はい。もし、可能ならここのパソコンを使わせてもらえないでしょうか? どうしても見たいサイトがあるんです」
「ふん」
司書の先生は少し考え込んだ。いじめとは関係のない事柄でインターネットを使わせていいものか判断しているようだった。
しかし、司書の先生の先生の決断は早かった。ものの三十秒も
「わかった。ここにあるパソコンを使ってもいいよ。ただし、お昼休みが終わる前までには教室に戻るんだよ」
私は嬉しくなった。
「わ、ありがとうございます。」
司書の先生が机の
私はノートパソコンの電源を入れた。静かにノートパソコンが
ノートパソコンが起動すると、私はマウスを握り、ブラウザをクリックした。
初めてこの図書室の隣の部屋に来た時はわからなかったが、目の前にあるノートパソコンのスタートページもヤフージャパンであった。
私は検索ボックスにサイト名を入力した。即座に目的のサイトがノートパソコンの上部に現れる。
私はハンドルネームとログインパスワードを入力した。
ノートパソコンの画面上にがらんとした部屋に地味な服を着た女の子のアバターが現れる。が、今はそんなことは関係ない。
私は〈フレンドを探す〉というアイコンにカーソルを合わせ、「モミカ」と入力した。
私のアバターが綺麗な
私はこの華美なモミカさんのマイルームも無視をして、〈ブログ〉と表記された箇所をクリックした。〈モミカのブログ〉と記された文字がノートパソコン表示される。
タイトルは、
『モミカの様態が落ち着きました』
というものだった。
次に、モミカさんの母親が書いたであろう文章が載っていた。
『モミカのフレンドの皆様へ。いつも、お世話になっております。単刀直入にお話をします。モミカの様態が落ち着き、無事、峠を越えることができました。モミカは頭を強く損傷しており、脳圧が非常に高い状態でしたが、今朝、私が緊急治療室へ行くと、モミカはケロッとした顔で私を見ました。それまで、意識がなかったのに、突然、脳圧が下がり、意識も鮮明になったのです。病院の先生は、『どうして急に脳圧が下がって回復したのかわからない。お子さんはとても運が良かったのでしょう』と言われました。何はともあれ、皆さんにこのように嬉しい形でブログを更新できたことを心から感謝しています。モミカを気遣って下さった皆さん、本当にありがとうございました』
私は文章を読み終えると、右手の人差し指で目尻を拭いた。涙がこぼれそうになったからだ。
司書の先生は三つ目のおにぎりを口にしながら、そんな私を不思議そうに見つめるのだった。
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