151~160
151
精緻な細工の額縁に、伏し目の女性の肖像画が収まっている。この女性を、
だが私は違う、彼女は真に私の母だ。幼少の頃の遊びも、自分の誕生の瞬間も、羊水の中の音だって記憶にある。
残りの人生を母と過ごすのだ。頼む、我々を引き離さないで。
―母の肖像画
152
つまり旬が過ぎたのだ。
俺は俳優の肩書きを失いつつある。顔で持て
何年もスルーしてきたのに、ある同級生だけが定期的に遊ぼうぜと誘ってくる。今の俺に、応える資格があるだろうか。
―旬を過ぎても
153
またフラれたから慰めて、と涙の跡も痛々しい
――自分なら泣かせたりしない。
この子と恋愛ができれば良かったかも、とさえ思う瞬間がある。でも、恋愛より強い友情もあると、私は私の人生を懸けて示したいんだ。
―友情に人生を懸けて
154
人生のクリーニング屋なる
「実は僕、数年前に窃盗をしたんです。綺麗になりますかね」
相談すると、少々お待ちを、と椅子を示される。
「うちでは難しいんで、彼らに綺麗にしてもらって下さい」
振り返ると、制服姿の警察官が二人、店に入ってきた。
―人生のクリーニング屋
155
雪の王国が寒冷期に陥った時、王は国民生活を締め付けて乗り切った。
彼は死の間際、私でなければ皆死んでいたぞと不遜に笑った。
かの王国は幾年もせずに亡び、後の歴史家は
―偽王から賢王へ
156
解体作業を
「物事にケリをつけるのにも意味がある。俺たちが土地をまっさらにすることで、無限の可能性が戻るんだ」
先輩に言われ、僕ははっとした。
―祭りの後に
157
「これが真実の姿なんだ、ごめん」
友達の男の子は、迫り来る車に立ち尽くすぼくを路肩へ突き飛ばし、代わりに衝突されて地面を跳ねた。一瞬で三倍ほどに膨らみ、もさもさの毛で覆われた彼の体には目がたくさん。
申し訳なさそうに立つ彼の体に我慢できず抱きつく。格好いいと言うと、友達ははにかんだ。
―
158
正確に繊細に、時に力強く躍動する指が好きだった。
ピアニストの彼、ヴァイオリニストの私。指だけが好き、と割り切っていたはずなのに、音楽だけでなく人生のパートナーになってと言われた私はその場に
私は彼の笑顔を見る度、胸の
―指だけが
159
浜に漂着した缶詰には触らないことだよ。
海で
―悪しきもの
160
猫の耳って可愛いな。三角でもふもふでぴこぴこ動いて、と思っていたら私の頭にも猫耳が生えてきた。帽子で隠して生活していたら尻尾も体毛も生えてきた。混乱して引きこもっていたある朝、私はどこぞのお宅の
そうか、猫ってこうやって生じるんだ、と感心したがそのうち全て忘れた。
―猫の生じ方
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます