幕間 7
1
『野薔薇の聖女』セレナの祈り
正面のモニターに、コクピットへ迫り来る剣の切っ先が見え、私は己の運命を悟りました。
身体が危機を感じているからか、それは妙にゆっくりと見えています。
こちらの
元々残り短い命ではあったからか、この状況にも不思議と恐怖は感じません。
もとより覚悟はできていて、天に召されるのが少し早まっただけですし、それも当然かもしれませんが。
兄様の悲しむお顔を見ずに済むのは、私としては好都合なのですが、兄様は間違いなく酷く悲しまれますね。
早めにレイラさんへ、私亡き後の兄様の事をお任せしておいて良かったです。彼女も兄様もお互いへ強く好意を持たれている様ですし、支えてくださるはずでしょう。
……これは『聖女』たるものの、考える事ではありませんね。神々よ愚かな私めをお許しください。
天命と分かっていても、兄様の事をもう少しお側で見ていたかった、という心残りがないと言えば嘘になります。
ですがここを乗り切っても、私を失った兄様が、無茶な行動をとられてしまうかもしれませんし、そうでなくても不運で、という事もあるかもしれません……。
『聖女』が近くにいると死ににくい、というお話を耳にしますし、それは十分考えられることです。
私がいなくなったとしても、せめて加護だけでも残せれば……。
そう考えた私は、私の残りの命を全て使って、兄様へのそれにつける事にしました。
胸元にぶら下がる自分のロザリオを握り、私は禁術になっている、生命力自体を元にした加護の祝詞を唱えました。
すぐにメキメキ、という音が身体の中からし始めて、全身が壊れていくのが分かる様に痛みが走ります。
それにひるまない様に堪えながら、私はもうほんの限られた時間を余さない様、全力で加護を完成させに行きました。
9割ほどの段階で、神経が焼き切れたのか何も感じなくなり、その直後、ついにモニターが割れ、本物の切先が現われました。
前の大佐殿をそれが引き裂いたとき、なんとか加護は完成しました。
もう私は五感の内、視覚と聴覚のみしか機能しておらず、恐らく心臓の鼓動は止まっているはずです。
やがてその2つも、剣が私を切り裂く前に消えて無くなってしまいました。
ですがそれで良かったのかもしれません。私の脳裏に、兄様達との幸せな日々が駆け巡って行くのですから。
1つ未練があるとすれば、出撃前に言い損ねていた、兄様とレイラさんの3人でゆったりとお茶をする事が叶わなかったこと、ですね。
――ああ、兄様。どうかどうか、あなたの
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