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総火演そうかえんが大変だったみたいだけど、ちゃんと休めてるかい?」

「ええはいまあ! しっかり睡眠はとれていますので!」

「ん。それはよかった。――あ、ご飯もね」

「あっ、そっ、それはしばらくクッキーバーだけです……」

「それは良くないね。一杯のスープを飲む時間は惜しんではいけないよ」

「お気遣い感謝しますです。はい……」


 動揺しすぎてアップアップになっているレイラの様子を、今度はマリーとサラがニヤニヤ見つめる番になっていた。


「今のが、新たなレオン語録誕生の瞬間ですかね……!」

「あんがいさらっというんだな」

「ですね。あ、少将すごくうれしそう」

「れおんはじんしんしょうあくがうまい」

「も、もう少し手加減してあげて下さいね」

「こころえた」


 彼女らがひそひそとそう話している事に、顔を真っ赤にして表情をほころばせるレイラは、全く気がついていなかった。


「あ、そうそう本題に入るんだけど、ベイル中将から君に縁談の取り次ぎを頼まれてね」

「……。……はい?」


 レオンの言葉を聞いて、一瞬、何を言われたか分からない、という表情で固まったレイラを見て、


「えっ」

「わぁー」


 サラとマリーは顔を見合わせて、相変わらず小声でざわつく。


「あ、お見合いだよ。後で写真とか送るから」

「そ、それは分かっていますが……」

「日取りは明日以降なら、相手方がいつでも調整付けてくれるそうだ」

「あっ、はあ……」


 そういうことが言いたいのでは無いが、を口に出すわけには当然いかず、レオンの詰め込むような言い方に流されてしまった。


「いや、結婚だけが幸せじゃないのはもちろんだけどね。もしかしたらこの人が、君の「運命の人」だったりするかもしれないし」

「……」

「あー……」

「まじやばい」


 レイラの表情から、すう、っと感情が抜けて凍り付いた様子を見て、レオンが完全にやらかしたのを察した2人は青ざめる。


「レイラ?」

「そうですね」

「……レイラ?」

「そんな事もあるかもしれませんね。最短の日取りで構いません、と言っておいて下さい。それでは」


 レオンもレイラの硬い反応でそれに気がついたが、弁解をする前に彼女は淡々とそう言って通信を切ってしまった。


「あの、少将……」

「ああ。そろそろ休憩も終わりですね」


 先程の通信について、レイラは何も言わずに端末をしまいつつ、何ごともなかったかの様に自分のデスクについた。





 終業後。


 兵士達でにぎわう食堂にやって来たレイラは、表には一切出していないが、何となく近寄り難いオーラを放っていた。


 そのせいで、定位置にしている窓際の席に座ったレイラの周りには、半径6メートル程の空席が自然発生していた。


 元レオン中隊の面々ですら、その空間の外縁部から中には入れないでいた。


「おい見ろよ! これ水かけると伸びるぞ!」

「おおー。マジじゃねーか、すっげえ」

「それ、そんなに感心するほどの事……?」


 3メートル圏内のボックス席に陣取る、ポール、ウィル、リサの問題児3人組を除いては。


 男2人は完全に気がついておらず、リサは気がついているものの、それで動揺する程度の肝の据わり方をしていないのがその理由だった。


「……」


 無言でヌードルを食べるレイラと、外縁部にいて、彼女の様子を落ち着かない様子で見ているサラを順に見たリサは立ち上がって、


「ん? どしたリサ」

「おっ。おかわりか?」

「違うわ。あんたらみたいな大飯喰らいじゃないわよ。私は」


 脳天気な馬鹿2人にそう言うと、サラの元へとやって来た。


「……准将。また少将は何か悩み事ですか。正直、不気味で仕方が無いのですが」


 彼女への質問の際、BLTサンドを頬張ほおばるマリーと目が合い、誰だコイツ、といった視線を1秒ほど彼女に向けつつ、リサは声を潜める。


「いやまあ、あると言えばあるのですが……」

「あー。また例の人絡みですか」

「の、ノーコメントでお願いします」


 サラのあからさまな動揺に、リサはその答えが是だと理解した。


「するどい。なみのごじんではないとみうけられる」


 その勘の良さにマリーは、ぴっ、と彼女を指差して何故なぜか古くさい言い回しで称賛した。


「どこで覚えたんですか、その言い回し」

「れきししょうせつだ。なかなかおもしろい」

「お、通ですね」

「『しまぐに』のやつはとくにしんせんだぞ」

「なるほど。後でおすすめ教えて下さい」

「まかせろ」

「あの」

「はい?」

「なんだ」

「この子は一体?」


 年齢離れした小難しいしゃべりをするマリーに、若干動揺気味な様子を見せてリサは訊く。


「マリーだ。うまれついての『せいじょ』をやっている、げんきなななさいじだ」

「ご丁寧にどうも……」

「そうだ。ここであったのもなにかのえん。いまろざりおをもってるなら、かごをつけるぞ」

「お願いしたいところですが、口を拭いてからにして貰えます?」

「むっ。あいすまぬ」


 独特の語り口に圧倒されるリサだったが、ロザリオがマヨネーズまみれは勘弁願いたかったので、それだけは躊躇ちゅうちょせずに言った。

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