第14話 敵対勢力

「ごめんね、ハードゴム弾とはいえ痛かったでしょ?実弾なら気を失うほど痛いわよ。でもこのスーツがあれば死にはしないわ。」


 藤堂さんは銃をホルスターにしまうと僕の手を引いて起こしてくれた。


「昔はね、日本国内では銃の携帯はしてなかったの。我々に敵対する組織が公安庁くらいしかなかったのと、上が政治家や警察庁とパイプを持ってるからね。それが今はゴム弾とはいえ携帯を義務づけられている。どうしてか分かるかしら?」


 シャドウが元々は外敵に対する備えとして始まった組織であるため装備武器の製造と備蓄はされているものの、国内での使用に関しては最低限の装備に限られていた。それは公安や内閣調査室などの公的機関を不用意に刺激しないためだ。それが武装の強化を義務づけたとなると……。そう、それは敵対する組織が出来たと言うことだ


「僕たちの組織に敵……がいると?」


「そう!彼らは聖正義ジャスティス教団と名乗っているわ。聞いたことくらいあるわよね?」


 ジャスティス教団……信者たちの悩みや苦悩を解決する事で急速に信者数を増やし、その信者数は10万人にも上ろうかという巨大新興宗教だ。ただそのやり方の強引さや金に関する闇の部分も取りざたされてはいるものの、警察が民事不介入としている事象への【救い】が彼らを【正義ジャスティス】と呼ばしめる結果となっていた。


 彼らはその最大の武器である信者数を使ったネットワークを構築し、大罪司教と呼ばれる実動部隊が正義を遂行していた。


 警察も黙っていた訳ではないのだが情報提供等の民間協力もさることながら、死傷者が出ず、被害届も上がらない事からなかなか手を出すことが出来なかった。


「死傷者が出ていないと言っても表面上の事だからね。貴方の事故の時みたいに彼等の関与が証明出来なかった件がどのくらいあることか。」


「えっ、あっ……えぇっっ!藤堂さん、僕の事故の事を知ってるんですか?」


 事故の時入院させられた病院ではドライバーの不注意による事故だと説明されていた。だが、事故車両のタイヤとフロント部分に子供の手形のような物が無数に残されていたと聞いてなんとなく原因を想像していたのだが、まさかジャスティス教団まで関与していたとは全く知らなかった。


「当日現場にいたからね。キミには公園の入口で『何かあったんですか?』…って、いきなりナンパされたし。」


「えっ……えぇっっ!あぁ、あの時……えぇっっ!!?」


 あの時の警備員がまさか藤堂さんだったとは…余裕で笑う藤堂さんに対して僕は思いもよらぬ事で必要以上にあたふたしてしまった。


 以前から細かい衝突いざこざはあったものの、本格的な衝突はあの事故が初めてであったらしい。以後、細かい衝突は起こっているのだが、教団の意図が今一つ図れないため、シャドウとしては警戒レベルの引き上げにとどまっているようだ。


「じゃあコレが明日以降のスケジュール表ね。新人の研修室は5階だから。明日からの研修がんばってね。」


 書類を受けとると、送迎バスのあるターミナルと向かう。受け取った書類の中にあった送迎バスの時刻表と研究所の見取り図を見ながら歩き出す。『こーゆーのあるなら先に言って欲しい。』そう思いながら、今日は本当に疲れたと思う。まさか自分が悪の秘密結社に入社するなんて思いもしたかった。ただ、自分以外にも特殊な力を持った人がいて、自分の使えない能力でも必要と初めて言われた事が嬉しかった。明日からの研修にも何となく期待を馳せていた。




「藤堂ちゃん、どうよ彼は?」


「目は悪くないみたいですけど、動きはお話になりませんね。たぶん実技はオール【ランクE】ってところじゃないですかね。瞬間の判断力、発想力は悪くない。上手く噛み合えば化けるかも知れませんが……って、お尻を撫で回すのやめて下さいませんか、伊達係長!今度は私が右腕斬り落としますよ。」


「すまんすまん、まだ機械の腕に慣れてなくてね。操作が上手くいかないんだ。」


 黒縁メガネの男、伊達は笑いながら右腕の機械の指をギコギコ動かして見せた。


「ま、御茶柱教授の御推薦だ、暖かい目で見守るとしよう。ところで教団の方の動きはどうよ。」


黒蝙蝠ブラックバット隊が調査に当たってるらしいですけど、まだ大した情報は得られてないみたいですね。大罪司教にも僅かではありますが、動きもあるようです。ですが基本的にはイラが単独で動いてる可能性が高いみたいですが。」


「『私はお前達を許さない』……か。正義の味方っぽいねぇ。まぁ、あんな化物どう考えてもうちの研究機関のいづれかが関与してる可能性が高いけど。茶柱教授は何か知ってるようだけど何にも教えてくれないし……出来ることならもうやり合いたくはないな。」


 伊達は公園での一件を思い出して顔を曇らせた。純粋な戦闘力ではむこうが上だ。糸や毒によるからめ手なら効果は有るものの、あの超甲武装をも溶かす高温の全身火だるまヘル・ファイアーには手も足も出なかった。


 これから先の時代、我々のような非合法組織は必ず必要になると伊達自身は思っている。だが、それでも大規模な戦争などによる殺し合いは起きて欲しくないと考えてしまうのは日本人であるからなのかも知れない。


 戦う事に迷いはない、だが前の戦いで多くの部下を負傷させてしまった事には責任を感じている。守る為の戦いを信念とする彼にとってはシャドウも教団も日本人同士、出来ることなら闘わずに済ませたいと思わずにはいられないのであった。



 伊達の思いとは裏腹に教団内ではシャドウに対する警戒が強まっていた。


「最近イラちゃん、落ち込んでない?」


「ベルさんほどお気楽じゃないですからね、この前の事故の事を気にしてんスよ。」


「ゆーねぇ、マモちゃん!……で?奴等の情報どうなってん??」


「近々なんか大きい動きがあるみたいっスよ。ルクスさん情報ですけどね。」


「ルクスさん情報って……。使えねー!マモちゃん使えねーなぁ。天才ハッカーが聞いてあきれるねぇ。レヴィさんもなんか言ってやって下さいよ。」


「………」


「怖っ!すんません。グラ、お前も食ってばかりいないで一緒に謝れ!」


「モグモグ……すんません。モグ。」


「はー……っ『すんません。モグ』ってなにさ? ま、いいや。ルーさんはまた講演かい?好きだねあの人。まぁ、がんばってグラの集めてもらわないとね。」


「世界樹復活の為に……スね。」


「そうそう。それにしてもシャドウ……か。とりあえずイラちゃんに任して置くけど………。邪魔になるようなら全力で潰すぜ!皆殺しだ。」


「……スね。」


「………」


「モグモグ……」


 ーつづくー

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