第14話 体育のテストはお嫌いだったかい?

城の中庭。


実技試験、なんて何年ぶりだろうか。

高校の体育でレイアップシュートしたくらいじゃなかろうか。


庭には俺と、フレアを含む5名の審査官がいた。

その中に先ほどのお姫様もいらっしゃる。

日の下に出て分かったが彼女の髪は青というより藍色のように美しい髪をしていた。


あとは見物人だろうか、城内の窓から数人覗いている。

そのうちの一人が手を振っていた。メディだ。一緒にシャーリーもいる。

メディさんも城内の医者だったんだっけか…


フレアが高らかに宣言する。

〈では実技試験を始める!これからは学術の使用を許可する。必要な紙とペンや物質があれば可能な限り手配しよう。まずはっ〉


ほっ と木の棒を投げて渡される。

あわてて右手を出して、両手でキャッチした。

野球バットよりも短いくらいの、ボロボロの木だ。


〈まずはこの木の先端に火をつけてみて。〉


…ええっ!どうするんだろ。

困った顔をして立ち尽くしていると、フレアが呆れた顔をして言った。


〈一番簡単なのは摩擦熱だ、物理で考えなさいな。指で火花を出すように、弾いて。〉


言われた通り、左手で木を支え右手で指パッチンする。

木の先端にこすりつけるように、2度、3度。

だが何も変化が起こらない。


セント姫に呆れた顔をされる。


〈うぅん…ちゃんと火のつく原理を頭で考えてね?もしくは木の棒が大きいのかな。 じゃあ手のひらで木の先端を覆って。 手のひらから熱を伝えて。〉


人体の熱で火が付くかよと疑いつつも言われた通りにやってみる。


〈そう。最初は表面を焦がすように、煙がたってくすぶっているのをイメージして。そう。それでそのともしびを大きく、イメージして。火を広げて、炎へ、火炎へ。〉


ボウッ!


「うおおおっ!」


慌てて右手を放す。先ほどまで握っていたそこには火がついていた。


おー、とギャラリーが感心した声をあげる。


〈じゃあ次、その火を消してみて。〉


「えーっと、水は…?」


【水で火を消したら試験にならないでしょう?】


まーた冷たい目でローズ姫に蔑まれた。


空を見あげる。雲一つない青い空。

これは…湿度なさそうだなぁ。

日本のような気候だったら幾分か楽だったけど、水分がなければしょうがない。


・・・そういえば人体の60%は水なんだっけか。

熱をひねり出せたんだ。

身体の、水を、手のひらへ集めて…


右手で炎を握りこむ。

ジュゥという情発音の後、白い僅かな煙とともに火が鎮火した。


周りがどよめく中、これくらいは出来て当然だろうと笑みを浮かべる者が2人。

フレアとローズ姫だ。


2人が互いに聞こえる声で話し合う。

【どうやって消した?】

〈空気中の窒素を集めたわけじゃなさそうですね。〉

【水か。…だが空気は乾いている。どこからだ?】


今度は皆に聞こえる大声を出す。

〈クー!どうやって消したっ!?〉

「えと…体内の水を吐き出して…」


〈くっ・・・あははは!〉

声高らかにフレアが笑う。

〈人体の水ですってよ姫!どうですこの子面白いでしょ?〉

【利口なのか阿呆なのか分からんな…】

〈200ccくらいかな?まぁ人体に影響ないだろうけど後で水飲んど来なさいよ。〉


なんなんだあの2人は。…羨ましい。


〈次!自由だ!好きなこと見せてくれ!〉

フレアが言い放った。


何でもいいが一番困るってお母さんいつも言ってるでしょ。


シンデレラローズ姫が俺を見つめて言った。

【何を悩む?地学者なのだろう。雨を降らし地震を起こし、天体を廻し重力に逆らうのがそなたの力だろう?見せてくれ。】


…そうだ、重力に逆らえばいい。


「少し離れててください!」


ひょっとしたら、もしかしたらだ。

この世界なら、多分。

空を、思うまま、駆け抜けられるかもしれない。


すぅー、はぁー。


深呼吸。

深く、深く。


ひょっとしたら大事故になって大けがするかもしれないな。集中しなければ。


【フレア、あの者は何をするつもりだ?】

〈さぁ?何をするつもりなのか私にも。〉

【何を言う、お前の一番弟子だろう?】

〈いえ、一番弟子ですが私が彼に教えたのは酒の飲み方くらいですよ〉

にこりとフレアがセント姫に微笑む。

【…喰えぬものだな】

2人はじっとクーの動作を見つめていた。


「落ち着け、落ち着け・・・」


重力を消す、のは多分無理だろう。

こっちの世界でも俺の体重や物質の質量は変わっていない。

つまりこの世界は地球と同じ大きさ、同じ重力ってことだ。


重力加速度が一緒なら、大きさを持たない点Aの自由落下速度なんて何度求めた事だろう。

跳べるか?いや、人体には限界がある。

風だ。

雨を降らせる力があったんだ。

風を吹かせることくらいたやすいだろう。

考えろ、思い出せ、式を立てろ。

風の原理、風速から規模に至るまで。

波動方程式を立てて。

重力に逆らうんだ、第二宇宙速度の式を思い出せ。

空気抵抗を忘れるな、自分の体積を数値化しろ。


足元に風が集まってくるのを感じた。

地面の砂を巻き上げて、草木を揺らす。

風が強くなる。

髪がなびく。服がめくれる。


【…風を操れるのか。なるほど、クード・ヴァンは良い名かもな。】

めくりあがるスカートと、たなびく髪を抑えながらセント姫が言う。

〈いえ、もしかしたらそれ以上かもしれませんよ。〉

まくれ上がる髪も服も気にせずフレアは面白そうにクーを見つめていた。


…今だ、いける!


「…飛べっ!」


大地を蹴り上げた




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る