第12話 All you have to do is smile…with us.

三人で街を歩く。


〈ねぇクー。ごめんね、昨晩は。みっともないところ見せちゃって。〉

「いやいやお互い様ですよ。ていうか少し安心しました。」

{何々?何の話?}


興味深そうに、シャーリーが聞く。


「あのね、昨日の晩フレアは酒飲んで泣いちゃったんだよ。」

{えー、お姉ちゃんも泣いたんだね}

〈あ、コラ、言わないのっ。〉


町で3人の衣服、食べ物、家具を買いそろえた。

この辺り詳細に明記したり映像化したら楽しそうだなと思ったけどまぁいいや。


〈そういえば君はさっきから物珍しそうな顔をしてるねぇ。この世界はそんなに不思議か?〉

「えぇ、僕らの世界は人間以外にこういう文明的な生活をしている種族はないんです。」

〈へぇ、珍しい。エルフもビーストもアンドロイドもいないってか。〉

「はい。だからこの国はいいなぁって。僕らは肌の色や髪の色瞳の色で人種差別がありますからね。」

〈はぁ?人種差別?種族差別するような馬鹿はまだ聞いたことがあるけど人間同士で差別するってのか?君の世界は馬鹿だねぇ。〉

{私ね、獣耳やエルフ耳の人たちも好きだよ!}


なんだかこう聞くと自分のいる世界がちっぽけなものに感じる。

チェスをやってきた外国人が、将棋に触れるような。

将棋をずっとやってきた人が、大将棋の対局を見るような。


こうやってフードをかぶっている人たちがいっぱいいる中で、

もしかしたら太陽に顔をさらして自由に歩き回れる町が作れるのだろうか。


〈大丈夫。フードは別にそういう意味じゃないよ。服を着るのと一緒さ。その耳や毛には自信があってそれで隠してるのよ。私たち人間もかぶる人多いからね、マナーみたいなものよ。〉

「へぇー、そういうものなのか。」


町中を歩いていると城壁が見えた。


〈お、見えたね。ちょっと私、城に用事があるからシャーリーと一緒に帰っててくれる?これも持てる?〉


2人分の荷物を抱えているんだけど…なんてことをしてくれるんだ。


「えっと…場所ちょっと覚えてないです。」

{大丈夫!私が道覚えてるよ!荷物も持たせて!}

〈おー、えらいね、シャーリーは。よしよし。〉


フレアがぽんぽんとシャーリーの頭を撫でる。


〈じゃぁシャーリー、家に戻ったらクーに文字教えてあげてくれ。〉

{うんわかった!いってらっしゃい!}


城内にフレアが消えていった。


☆ ☆ ☆


家。


{はい、これが五十音だよ!}

「うーん、めんどくさい。」


○と☆と5角形の組み合わせで文字を作っているようだ。法則らしい法則はなくて、多分使用頻度順に画数の少ない字を当てているんだろう。

こういうのは本当にめんどくさい。

五十音点字やキーボードの配置を覚えるようなものだ。


でもラッキーというか、運がいいことに言語は日本語と変わらない。

どういう意味かっていうとひらがなが星文字に変わっただけで、文法や発音が変わることなく使えるのだ。なんて楽なんだ。


点字やローマ字を覚えるのは早ければ1日で事足りるだろう。

だが英語やロシア語を1から覚えるのは全力を尽くしても漬物になっても数年はかかる。


そういうものだ。


{ねー、クーにぃの文字のほうが面倒くさいよぉ。五十音にも平仮名とカタカナがあってもう100個だし、漢字なんて1000個以上あるんでしょ? しかもこれにさらに外国語があるなんてー無理だよー。}

「いやいや外国語まで覚えなくていいよ。とりあえず平仮名覚えようか。」

{はー。大変だなぁ。}


紙と文字に埋め尽くされた机に顎をのっけて、シャーリーがため息をつく。

やわらかいほっぺたを指でつんつんしながら聞いてみる。


「この国に学校ってないの?」

{んーん。剣術教室や忍術学園はあるけど、学術学校はないよー。}


あるのか、忍術学園。


「そういえば、あの教科書ってどこで手に入れたんだ?」

{んー?おばあちゃんが死んじゃってから、遺書にね、本の隠し場所が書いてあってね、「これがお前の母さんの残した物だよ」って。それで手に入れたんだけど読めなくってね、町で言葉のわかる人探し回ってたの。そしたら火事になって、お兄ちゃんたちが来てくれたんだよ。}


町でききまわってたら教科書の存在に気付いた奴がいるだろう。

それで火をつけて火事を起こしたんだったら合点がいく。

・・・まてまて、この家教科書いくつかあったよな?

そんでシャーリーもいて、男は俺一人だよな。

ここが世紀末なら俺襲われて死ぬんじゃなかろうか。

けっこう危ない物騒な国なんだろうか。


「剣術学校、通おうかなぁ・・・」



ガチャッ


〈ただいまー!〉

{あっ、フレアねえ!おかえりー!}


玄関までシャーリーが走っていく。


〈よう、ただいま。〉

「おかえりなさい。」

〈いいねぇ、家に人がいるって。帰ったらただいまって言っておかえりって言ってくれるの。〉

「あっ、分かりますそれ。すげぇうれしい。」


{あのねフレア姉、すごいんだよクーは!もう文字全部覚えちゃったんだよ!}


シャーリーがフレアの腰に抱き着いて楽しそうにしゃべる。


{でね、でね!私も日本語さしすせそまで書けるようになったよ!}

〈へぇー、すごいねぇ。えらいえらい。〉


フレアがわしゃわしゃとシャーリーの頭を撫でる。


〈で、クーは文字全部覚えたの?〉

「えぇと、読む分には何とか。書くのは完璧じゃないですけど。」


ニヤニヤとフレアが笑う。


〈それは良かった。私が今日徹夜で君に教えることになるかもと思ってたけどね。

先生が良かったのかなー?〉

{わー♪}


フレアがしゃがんでシャーリーのほっぺをうにうにとやさしくつねる。


「で、今日お城で何してきたんですか?」

〈ふふっ、予想ついてるんじゃない?〉


フレアが立ち上がり俺の方を向いて言う。


〈王様と研究者たちに話をしてきた。明日クーの研究者承認試験を行う。〉


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