第ニ章第四話ー2

 それが不気味ではあるけど。

 俺としては、今後もなにも起きないことを祈るばかりだ。


 ――六時間目のLHRが終わり、掃除の時間。

 清掃当番がローテーションし、円芭と諒が一緒の班になった。

 ずっと同じところを一年間やれば良くねと今日ばかりは強く思ってしまう。

 絶対円芭の奴英語の時のこと訊いてくるもん。


「ゴミ残ってるよ」


 お? 訊いてこなかっ――いや、まだ分からないか。


「すまん」

「サボりは良くないぜ、祐殿」

「そういうお前が一番動いてねぇよ」

「……俺は良いんだよ」


 そういうことは目を逸らして言うなよ。

 明らかに非を認めてるじゃないか。

 こういうときは、シラを切り通してほしい。

 諒は、俺の視線に耐えられなくなったのか、背中を向けた。


「祐」


 ちり取りで集めたゴミを拾い、ゴミ箱に捨てた円芭が俺を呼んだ。

 ほら、訊いてくるぞ。


「なんだ?」

「なんかお疲れ」


 なんだよ、お疲れって。

 しかも、苦笑い浮かべてるし。

 こんな対応されるならはっきり訊いてもらった方がマシだ。


「ちょ、そんな哀れんだ目で見るなよ」

「だって川口さんとあたるって凄い確率じゃん」


 円芭の言う通りクラスの人数的に、くじみたいなやり方で川口さんを引くというのは早々ない。

 どうせくじ運を使うなら宝くじに使用したかった。

 ついているのかついてないのかと二択を提示されたとしたら、間違いなくついてないと答えるね。


「まぁな」

「お似合いなんじゃない?」


 始まったよ……。やっぱり言ってきた。

 川口さんみたいなタイプ苦手だって言ったはずなんだけど。

 つか、無表情で言う内容じゃねぇし。


「まったく合わない自信ある」

「確かにぎこちなかったな」


 とそこへ、諒が話しに入ってきた。

 どうやらフォローしてくれたらしい。

 円芭は、嫌な顔してるけど。

 にしても、苦手だとバレないようにしてたんだけど、鈍感な諒でも分かったと言うことは、川口さんにバレてるよな……。

 新事実が発覚し、嫌な汗をかきながら掃除を済ませ、教室へ帰還。


「今日帰りのHR無しだってよ」

「ホントだ」


 黒板を指差す諒に流されるままそれを見ると、『今日の帰りのHRはありません』と丸っこい字で書いてあった。

 俺としては、ラッキーである。

 川口さんと会わなくて済むし。


「さっさと行こうぜ」

「まぁ、そんな焦んなって」

「焦って転んでも助けないから」

「もう準備できたのか」


 つか、今日は一緒に部室に行くんですね、円芭さん。

 いつもは気づいたら部室にいるのに。

 ホント気まぐれさんである。


「当たり前じゃん。教科書なんて持って帰らないし」

「いや、そういうことそんな堂々と言うなよっ」


 無い胸を張って、さも当然のように言う円芭に思わず苦笑してしまう。


「個人の自由だと思う」


 開き直った!

 一応ルールで教科書は持ち帰れということになってるんですけどね。

 もうじき三年になる奴から出る言葉ではない。


「あ、分かった。祐が私の鞄持ってくれたら持って帰るかもしれない」

「なんだその交換条件」


 ただの荷物持ちじゃん。

 そこまでして持って帰ることを強要するのはこちら側にデメリットしかない。


「すまん、俺が悪かった」

「分かればいい。教科書持ち帰れってあくまで必要な量でしょ」

「多分な」

「なぁ、そろそろ行かね?」


 しばらく無言だった諒が待ちきれなくなったか、隙を見て催促してきた。

 気づけば教室内の机には、鞄がかかってない。

 俺としたことが、つい熱くなってしまったようだ。

 急いで部室に行くと、高田先輩が入り口で待っていた。

 飼い主を待ってる犬かっ。

 しかも、待ちくたびれてる様子である。


「遅いよ!」

「すみません……」

「こいつがもたもたしてるからですよ」

「こいつじゃないよ、祐君だよっ」

「は、はい……」


 言われてやんの。

 と言っても、俺もたまに人のことをこいつ呼ばわりしてしまうので、諒のこと笑えないんだけど。

 今から気をつければ問題ない。

 うん、そうに違いない。


「それじゃ、全員揃ったところで新しい部員を紹介します」


 こんな時期に新入部員?

 珍しい人もいるもんだな。


「「……」」


 ん? 気のせいかみんな俺を見てるような。

 どういうこと?


「どうぞ。中に入って」


 不思議に思っていると、顧問が部室の外に合図した。


「ありがとうございます」


 通してくれた顧問に会釈し、一人の少女が部室に入ってきた。

 なにを書くそう入ってきた少女は、川口美沙。

 またの名をクラスメイト(女)

 だからみんな俺のことをチラチラ見てきたのか。

 つか、顧問も顧問でなぜ名を伏せて紹介するんだよ。


「今日から新しく仲間になる川口美沙さんです」

「よろしくお願いします」


 名前紹介するの遅ぇよ。

 変な気を回して川口さんの席俺の隣とかにしないでくれ、顧問!

 顧問から見えなくなるようにパソコンで身を隠す。

 仮に俺の隣に川口さん持ってきたら辞めてやる。

 絶対気まずいもん。


(どうする? 祐の隣だったら)


 ニヤニヤしながら諒が小声で問うてきた。

 面白がりやがって!


(辞める)

(いや、そこまで――まぁ、気まずいか)


 お、諒にしては珍しく鈍感スキル発動しなかった。

 いつもこうであってほしいもんだ。


「えっと、川口さんの席だけど、伊津美君の隣ね」

「……」

「っ! ……」


 なぜ俺を睨むっ。

 睨まれても、睨まれましても!

 怖ぇよ!

 俺は、そんな恐ろしい伊津美から目を逸らし、縮こまっていた。



 ☆☆☆



 入部して二年で過去最高に部活が終わるのが長く感じた。

 それというのも、川口さんのせいだ。

 どうしてあそこまでするのかね?

 帰宅してすぐ妃奈子と円芭に尋問されるしよ。

 もう絶対一生川口さんのこと好きにならない!

 こんな思いをするのはご免だ。

 尋問場所であるリビングの空気がピリピリしている。


「もういい加減にしてくれ。俺はなにも知らなかったんだって」

「それは分かってるよ」


 どの口が言うかっ。

 さっきから俺を責める内容ばかりじゃないか。

 悪気のなさそうな顔がまた腹立つ!


「どう分かってんだよ」

「祐が川口さんが入部してくることを知らなかったこと」


 え、なに?

 そこまで分かっててなんで俺を責めるの?

 ちょっと理解に苦しむんですけど。


「まぁ、正直に言えば川口さんはヤバいって言いたかった」

「だったら、回りくどいことしてねぇでさっさと言えよっ。怒られ損じゃん」

「怒ってないよ」

「怒ってる人がよく言うセリフどうも」

「怒ってるんじゃなくて問い詰めてるの」

「なお悪いわ!」


 しれっとなに言ってんだっ。しかも、笑顔で。

 こんな風に兄として育てた覚えないんだけどな。


「二割冗談だよ」

「八割本気ってことじゃねぇか!」

「うるさいな……」


 抗議した俺の声に不満を口にし、妃奈子が耳を押さえる。

 なんで俺が悪いみたいになってんだよっ。


 ガチャ。「あら、円ちゃん」

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