エピローグ~『少女の言葉は、闇の中に寂しく響いた』


イースフォウは夜の公園のベンチに座っていた。

冬の夜の風は冷たく、肌に突き刺さるようだった。

だがそれでもイースフォウはここ数日、ずっとこの公園に足を運んでいた。

あの、大切なことを教えてくれた少女に会うために。

戦いから3週間が経った。イースフォウは少し遅い冬休みを、それなりにゆっくりと過ごしていた。

あれから、いくつか変わったことがある。

まずは、森野。森野はもともと、ルームメイトの護衛として、護衛対象と共にこの学園に入学した経緯があった。そのため、補習と公開模擬戦が終わると、そちらの仕事を優先すべく、イースフォウたちと行動を共にすることが減った。とは言っても、森野もイースフォウたちをそれなりの仲間と感じてくれているようで、空いた時間などはちょくちょく顔を出してくる。

エリスは補習が終わったというのに、さらに参考書を抱え込んで、勉強を進めているようだ。ヤマノ教師曰く、『もう、二年生のカリキュラムも半分は終わっている』との事であったが、本人は納得しない。きっと新学期が始まって周囲の様子が解るまで、今の状況は続くであろう。

ハノンはというと、よくイースフォウやエリスの部屋に遊びに来る。エリスのルームメイトはまだ戻ってきていないし、イースフォウの部屋はルームメイトがかなり大らかな人物だった為問題は無い。近々、家族も連れて良いかと訪ねられた。どうやらハノンの姉と会うことになりそうだ。

そして、スカイラインはと言うと……。

「未だ……行方不明か」

あのあと、ヴァルリッツァーの本家から連絡があった。

その内容は、イースフォウの勝利を祝う言葉と、スカイラインの所在について心当たりがあるかどうかと言う内容だった。

イースフォウも、流石に自分がきっかけでスカイラインが雲隠れしたことを、本家に謝罪したりもしたのだが、当主のレジエヒールは「戦った上での結果だ」と、特にイースフォウを咎めはしなかった。

そして、あれから3週間が経ったというのに、スカイラインは行方不明のままである。

イースフォウとしても、心配ではあった。しかし、今はどうしようもない。

よしんば自分が探し当てたとしても、どう声をかければ良いのだろうか。まったく解らない。

何を言っても傷つけるか怒りを買うか、そのどちらかであるとイースフォウは確信している。今は、放っておくしかない。

そしてイースフォウは今、一番の心残りを消化する為に公園に居た。

「あの子に、お礼を言わないと」

イースフォウにとても大切なことを気付かせてくれた。彼女を勝利へと導いた。

なのに、イースフォウは自分の名前も満足に伝えられていないのだ。あの子の名前すらわからない。

だから、イースフォウは唯一の可能性、この公園に通うことにした。

まだ会えない。だがそれでもかまわない。

迷わずここで待っていれば、きっと会えるだろうと、そう信じていた。


そして、時は来た。


暗闇の先に、一人の少女が姿を現した。

イースフォウは立ち上がる。街灯に照らされたその姿を見て、確信する。

「こんばんは。この間はどうも」

「………」

イースフォウの声に、その少女はこたえない。

ただじっとイースフォウを見ている。

「貴方に伝えたいことがあったの」

「………」

「貴方のおかげでね、私、勝てたのよ」

「………」

「貴方にあの時会わなかったら、きっと私は今でも迷い続けていた」

「………」

「だから、お礼を言いたかったの。貴方が私を勝たせてくれた、本当に感謝しているわ」

「………」

「出来れば、名前も聞きたいわ。私の名前はイースフォウ・ヴァルリッツァー。この前も名乗ったけど、あれは聞こえた?」

「………」

「だからね、……貴方の名前も、良かったら教えて欲しかったんだけど」

「………」

「………なんで、あなたは伝機を構えているの?」

その問いかけに、伝機を構えた少女は、静かに、しかしはっきりと呟いた。

「イースフォウ・ヴァルリッツァー……悪いけど貴方の『プロダクト・オブ・ヒーロー』と『黒影黒闇石』、頂くわ」

そう呟くと、少女はイースフォウに飛び掛った。












―――――続く。

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