"真説"少女仙機譚~晴天のヴァルリッツァー①~覚醒の章

藤辰

プロローグ 『少女が見つけた、剣を振るう理由』

少女は斬り付ける。ただそれだけを何度繰り返しただろうか。そのたびに少女の汗と夕日色の髪が、日の光に反射して輝いていた。

目の前の相手は、光りのきらめきの如く、少女の攻撃では捉え切れない。

だが、少女に対峙する相手の目は、確かな焦りの色を滲ませている。単調ではあるが、少女のできる限りの無駄を省いた攻撃なのだ。少女としても少しくらいは焦ってくれないと困る。

「はあぁっ!」

攻撃。もはやそれしかない。

少女が得意だった防御は、すでにその役目を終えているのである。今更防戦に徹したところで、何になろうと言うのか。

そう、ただこのまま斬りつければ良い。相手も斬りつけてくるが、ならばそれよりも速く、多く、少女は斬り付けるしかない。

「っく! 調子に乗るなあぁっ!」

少女の相手の、赤毛の少女が吠える。しかしそれは負け犬のそれではない。まだ戦う力がある、猛獣の咆哮であった。

だが、飲み込まれている事は許されない。ここでそれに怯えては、少女はたった一つ作り上げた勝機をなくすことになる。

「――フォウ! 大丈夫よ、こちらの力はまだ余裕がある!――」

少女の手で振るわれる剣から、女性の声が聞こえる。しかし、少女は返事もせずに、攻撃を繰り返す。右から振り込んだ剣を弾かれる。反動で手首がちぎれそうになるが、それを堪えてもう一度。今は自分の出せる手を、全部出すのだ。それには、止まってる時間など無い。

「――おうおう! やっちまえフォウ! たまには何かを手に入れてみろ!――」

同じく、剣から男性の声が聞こえた。

言われるまでもない。今少女は、全く曇り無い心で、自分の到達すべき場所へ駆けあがっていた。

敵は強い。赤毛の少女は、少女が一番認める強者だった。これまで彼女が生きてきた中で、一番憧れた、手に届かなかった存在。

霞んで見えなかった、遠くの存在だ。

だが、それが今、少女の手に届く場所にあった。

何のことは無い、霞んで見えなかっただけで、ほんの一歩でも踏み出せば、手に届くには無理のない場所だったのだ。

「曇天の……っ! 曇天の分際で!」

『曇天』、少女の二つ名を、赤毛の少女が憎たらしげに、はき捨てるように呼んだ。

その言葉に、少女は笑いながら答える。

「ええ、曇っていたわ。私は今まで、灰色の世界でただ立っていた!」

その言葉と同時に、曇天と呼ばれた少女は、迷いのない剣を振り下ろす。

「っく!」

赤毛の少女は、それもしっかりと受け止める。

「だけどね、今はどうしてか、全く曇っていない!」

もう迷わない。もう躊躇わない。何度受け止められても、その剣を振るい続ける。

雲ひとつない晴天のように、本当に全てが迷いなく見えるように……。

自分の進むべき道を、彼女は間違いなく見据えていた。

「……なるほど、もはやあなたは曇天のヴェルリッツァーではないと言うのね!」

不意に、赤毛の少女の目の輝きが変わった。そして、その手に持つ剣を今まで以上の力で振るい、少女を弾き飛ばした。

「……っく!」

少女は数メートル飛ばされる。体勢も崩れるが、なんとか身をひねり片手を付きながら着地をした。ジンジンと痺れる四肢に喝を入れ、剣を構える。

そして、赤毛の少女に向かって叫んだ。

「私は! あなたに勝ちたい! 勝ってみたい!」

「うぬぼれるな! いくら雲が晴れようが、迅雷のヴァルリッツァーを、あなた程度の力で倒せると思うな!」

そう、叫び返し、赤毛の少女は少女に跳びかかる。

今まで以上に恐ろしいスピードであった。少女は一瞬見失う。

だが、迷わない。少女は自分の信じた道を切り開くのだ。

「はぁっ!」

彼女は自分の背後に向かって剣を振るう。

鈍い金属音がした。

「……っく!」

捕えていた。少女の剣は、赤毛の少女の剣と混じり合って火花を散らせていた。

ギリギリと、剣が嫌な音を立てる。それだけ、二人のぶつかり合う力が激しいというのか。

鍔迫り合いをしながら、少女は再度つぶやいた。

「私は……あなたに勝ちたい」

「……このっ!」

やっと、晴渡ったのだ。

意味を見つけられそうなのだ。

だから、今は少し贅沢な目標を持ちたかったのだ。

だから、少女はその剣を振るうことにしたのだった。

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