ひまわり

留那

第1話 待ち合わせ

 今日は特に暑い日だ。お盆休みの最中だから、当たり前か。あと、もう少し。この坂を上れば彼に会える。

 わたしは木陰に隠れるように立ち止まり、木漏れ日を見上げる。夏の日差しと、アスファルト。それだけで、意識が遠のきそうになる。だが、こんなところで休んではいられない。今日は彼との待ち合わせに遅れるわけにはいかないからだ。

 再び歩み出したわたしは、黒い鉄の柵の中へと入り、井戸水を汲む。呼び水はいらなかった。桶を手に取り、花束を右腕に抱え直す。それは、この場所には似つかわしくないひまわり。六列目の一番奥の塀沿いで、彼は眠っている。

「こんにちは。ねぇ、今年も来たよ」

 わたしは持ってきたひまわりを彼に見せる。

「ひまわり、大きいからさ、小さいのを持ってきたよ。ミニひまわり。きれいだね」

 涙がにじみ、視界が揺れる。でも、ここで泣くわけにはいかない。優しい彼が、心配をしてしまうかもしれない。だから、わたしは笑顔を崩さない。他の人から見れば、悲しい笑顔だとしても、今のわたしにはこれが精一杯。

 掃除をしようにも、管理人の手が行き届いているので、目立った汚れはない。柄杓で水を汲み、それを彼の足元にあたる部分にかけてやる。それから、花を供え、お線香に火をつけ、まるで彼に手渡すようにそっと置く。

 そして、立ち去ろうとした。だけど、現実の世界のわたしは、地中深くに根を張る木のように、うつむいたまま動けなくなってしまった。ただ、立ち続けるわたしを不振に思ったのか、それとも気づかってか、男性が「大丈夫ですか」と、声をかけてくれた。返す言葉を探していると、自分でも気づかないうちに泣いていることを知る。

「大丈夫かは分からないけど、ありがとうございます」

「そうですよね。ぼくも今日はお墓参りです。普段はなかなか来られないから、こういう機会は貴重なんです」

「そうだったんですね。わたしも、一年ぶりくらいになるのかもしれません」

 こうして話してみると、まだ若い男性だった。わたしはといえば、気分がいくらか落ち着いて、深呼吸をすることもできる。

「少しずつ、落ち着いてきました。話しかけてくれてありがとう」

 男性の方に向き直って感謝の気持ちを伝えた。すると、何故か目を見開いている。わたしがまばたきをしたら、通常の人の目に戻っている。見間違いだったのかも知れない。

「それじゃあ、ぼくはこれで失礼します」

「はい、わたしもこれで失礼します」

 お互いに会釈だけをして、その場を離れる。人のあたたかさを感じさせる言葉はとても心地が良くて、なんだか眠たくなってしまう。

 今日はこのまま家に帰って、程よく冷めたスープが飲みたいと思った。

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