18話
「バイバイ! またお買い物つれてってねぇ♪」
村長の家にリリルを送り届け、深くため息をつく。
一月前にはお手伝いのおばちゃんが二人程いて、リリルの子守りをしていたはずが、スゴイ人数の守衛と初めて見るメイドさんが何人かいて、おばちゃん達がすごく敬われている。
それに、いつものように村長宅を訪れると、「リリルお嬢様を連れているお前は誰だ?」と誰何すいかされ、ビビるセルジオだったが、守衛隊長らしい人物が出てきて、その守衛を目の前でぶん殴る。
そして、「この者の教育が行き届いて居らず申し訳ありません、後でキツくしかっておきますので何卒ご容赦を!」などと平伏されてしまった。
「後で怒らなくていいから、許してあげて下さい」とオロオロするセルジオに、「寛大なご配慮感謝いたします」などと言いながら、ただ誰何しただけの守衛を両脇に抱え連れ去って行く。
セルジオはその様子を見て「ぜったい説教されるんだろうな・・・・」などと思い見送った。
それにしても、村の様子がおかしい。
セルジオを村八分にし、今まで誰も話しかけもしてこなかった村人達が、気持ち悪いぐらいセルジオに愛想がいい。
いや、愛想がいいでは済まない、娘がいる村人は挙こぞって嫁に貰わないかと言ってくる。
終しまいには話をしていたおばちゃんが、「私が旦那と別れて嫁いでも良い」とまで言ってくる。
めちゃくちゃ迷惑な話だ。
怖く成ったセルジオは逃げるように家路に着くと、今度はセルジオを追う人影が彼の視界に入る。
人通りが少なくなると商人風の人物が次々と現れ、揉み手をしながら、セルジオの家付近で商売をさせてくれと嘆願たんがんしてくるのだ。
何故かその商人達の目の全てが、血走っているので怖い。
商売の話は分からないからニーニャさんを通すようにと言うと急に暗い顔になり、なんとか引き留めようとする商人達を振り切ると、今度は執事風の紳士の集団が駆け寄って来る。
なんとなく拙い話になりそうだと、走り出すと、男たちも必死に追ってくる。
追ってくる人たちの顔が、また怖い。
みんな必死さがにじみ出て、転んでケガしても平気で起き上がり、また走ってくるのは当たり前。
ひどいのは、こけた人を助けもせず、踏み越えてくるあたりがヤバイのである。
一人の青年を十云人もの、執事風のおじさん、メイド長風のおばさん、が全力で追いかけている。
その執事の集団に先ほどの商人の集団も加わり、猟犬に追われるウサギの様な心持のセルジオは、もう半べそかきながら、必至の形相で逃げるのだった。
・・・・
セルジオはやっとの思いで、自分の家に逃げ込むが身震いが止まらない。
彼の喉はカラカラに乾き、ヒューヒューと変な呼吸音をたてる。
水桶の水を飲み、一息つくが今度は足が鼓動に合わせてナワナワ震える。
やはり落ち着かない。
セルジオはなんだか人恋しくなり、いつもは顔を出さないニーニャのお店に向かう事にした。
カランカラン
戸を開けると、ドアベルが上品な音を奏でる。
「まだ、営業時間ではないのですが、どちら様ですか?」
奥からニーニャが顔をだす。
「あ、セルジオさんどうしたの?」
「いや、その・・・・村に入ったら追っかけられて・・・・逃げてきました」
「アハハハ、そうでしょうねセルジオさん人気者だから」
「・・・・なんでですか?」
「? あなた、大金持ちなんですよ?」
「俺が?」
「えぇ、そうよ」
「なんで? 借金だらけなんですよ?」
「ちょっと前までね♪」
「????」
「それに、もう此処一帯はあなたの土地よ? もともとあなたの両親の物だったんでしょ?」
「え? はい、でも、そんなお金無いですよ俺」
「あら、村長なにも話してないの?」
「はい、何も聞いてません」
「そう? 『夕方になったら話すつもりだったのかしら』」
ニーニャは少し小首を傾げ、頷く。
「そうね、ならお店であなたが幽霊にもらった物がどう売れて行くか見て行く?」
「はぁ・・・・見たら解りますか?」
「えぇ、バッチリ」
「では、見て行きます」
「では、そこの商談室からなら、こちらも見えるからゆっくりして行ってくださいねぇ」
そう言うと、建て増しされて広く成ったお店の、カウンターに一番近い商談室に通した。
タタタタタタ
程なくして、軽い足音が聞こえてくる。
「あ、レェブラーシカさん、おはようございます」
「おはようございますセルジオさん。 何か食べますか?」
少し赤い顔をしてセルジオを、ちらちら見る。
「いいえ、先ほどクレープ食べてきましたから」
「そうですか、美味しかったですか?」
「はい、初めてあんなに甘い物食べました」
「そうですか、では、何か飲み物でも、いかがですか?」
「お水でもいただけますか?」
「暖かい物もありますよ?」
「・・・・解らないのでお任せします」
「はい!」
タタタタタタタ
小気味よい足音を立てて去って行く。
「レラの食事、人気なのよ? 何か食べればいいのに」
カウンター周りを整理しながら、ニーニャが話しかけてくる。
「いいえ、お邪魔してて申し訳ないですから・・・・」
ニーニャと、たわいもない話をしていると従業員出入り口から、何人もの人が奥の部屋に入ってくる。
「「「おはようございます!」」」
「おはよう、今日もよろしくね!」
「「「はい!」」」
「では、本日分の鑑定はそこのテーブルに置いてありますから慎重に作業してください」
「「「はい!」」」
魔導士風の男女が互いに分業しながら鑑定作業して行く。
「店長!おはようございます!」覇気のある声の男性が数名の部下を引き連れて正面入り口から顔をみせる。
「おはよう!今日もよろしくね!
最近ごねる人も減ってきたけど、時々へんなのも来るからケガしないようにね?」
「おうよ! 野郎ども気張るぞ!」「「「「へい」」」」
『・・・・俺の知らないうちに、なんか凄い事になってるなぁ』
人の多さにビビるセルジオだった。
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