18、ゼレキン、アルマ、ジャギルス
「まったく何を言い出すかと思えば……」
ヴァルタン医師が出て行った部屋の扉を酔った目で見つめながら、
「筋力が増大して、地下牢のあの太い鎖を人間が引きちぎるなどと……」
酒に
「本当です!」
妻のアルマが、あいづちを打つ。
「まったく毎回、毎回、適当な報告をするだけで、本気でザックを治療しようという意志が見えません。主治医として充分な報酬を支払っているというのに……これだから田舎医者は嫌なのです。……
「アルマ……忘れたのか? 帝国はもうこの世には存在しないのだぞ。噂によると
当然のことを言われ、しばらくアルマはグッと唇を噛んで夫を
妻は、書斎を出た直後に振りかえり、かつて
* * *
書斎から廊下に出た
居間の扉を開け、てっきり誰も居ないと思っていた部屋の中に人の気配を感じて、一瞬ぎょっとする。
赤々と燃える暖炉の前、この屋敷の
サイドテーブルには、勝手に戸棚から出したと
そして、厚い筋肉の胸板を覆う軽装
「ジャ……ジャギルス……驚かさないでください」
言いながら、アルマは何かを予感したのか、後ろ手に居間の扉を閉め、カチリと鍵をかけた。
「その椅子は、
そう叱りつける口調は妙に形式的で、アルマらしい鋭さが無い。
無礼にも無断で夫の椅子に座る警備兵士団団長の方へ、
「それは、それは……ご無礼いたしました……
自分の方へ近づいてくるアルマを見上げながら、ジャギルスが
「どうりで、フカフカとして座り心地が良いわけだ……しかし、この一年間、酒浸りで頭ん中がふやけちまって、満足に公務も出来ないような男に見つかったとしても、もはやこのジャギルス様にとっては、どうという事もない、な」
いきなり、ジャギルスが、アルマの手首を
「あっ!」
アルマは軽く叫んで、バランスを崩し、座っているジャギルスの太ももの上に尻を乗せるようにして倒れこんだ。
警備兵士団の団長は、自分の体の上に倒れた
ジャギルスの顔とアルマの顔が、互いの息が掛かるくらいの距離に近づいた。
「ゼレキンは、もう終わりだ……頃合いを見て始末し、このカールン州は俺が頂く……安心しろ、アルマ……お前を悪いようにはしないさ」
ジャギルスの、酒と性欲で充血した視線がアルマの顔の上を這う。
「この一年間ずっと飲んだくれていたせいで、
ジャギルスは強引にアルマの唇を吸った。
アルマは、抵抗するどころかジャギルスの背中に両手を回し、その
その夜、
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