第11部:我、其を求めたり

#00

 

皇国暦1563年6月30日―――


 皇都惑星キヨウの衛星軌道上に、おびただしい数の宇宙艦が集結している。ミョルジ家が決戦地に設定している、セッツー宙域のアクダーヴァン星系攻略に向かう大宇宙艦隊の威容である。

 ウォーダ軍八個艦隊、トクルガル軍二個艦隊。そして皇国側に寝返ったマツァルナルガ軍一個艦隊と、お飾りとはいえ新星帥皇ジョシュア・キーラレイ=アスルーガ率いる、皇国直轄軍一個艦隊の合計千隻以上の進攻軍だ。この他にも後詰めとして、アーザイル軍やジョシュア側についた独立管領の艦隊が、ヤヴァルト星系内に展開している。


 彼等が目指すアクダーヴァン星系には、敵側のミョルジ家も戦力を集結させており、ここまでの戦いで早目の撤退を行って温存していた艦隊も、全てが集められている。


「第13戦隊、出航致します」


 総旗艦『ヒテン』艦橋の司令官席に座る、狐の仮面を被ったは、艦隊参謀の報告に頷く。先陣を切っての出航を仰せつかったのは、トゥ・キーツ=キノッサ麾下の重巡第13戦隊であった。


 ところが第13戦隊の旗艦『ヘイルヴェルン』に、司令官のキノッサの姿は見当たらない。戦隊の指揮を執っているのは、参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックである。自らが指揮を執るのは、ミノネリラ軍にいた時以来だが、実績的には本来の司令官のキノッサ以上であるから、問題は無さそうだ。



そのキノッサがいる場所は―――




「お初にお目にかかります。ウォーダ家に仕えさせて頂いております、トゥ・キーツ=キノッサにございます」


 人目を避けるためグレーのスーツを着込んだものの、ウォーダ家の紫紺の軍装以上に似合わないいで立ちのキノッサは、こちらは濃緑色のスーツを見事に着こなした、恰幅の良い男に慇懃に頭を下げた。


 ソファーに座って向かい合う二人のいる場所は、どこかの応接室のようだが、広さと調度品の豪華さには、眼を見張るものがある。特に壁に掛けられた絵画は、二千年ほど前にキヨウの画家アイオウリス=ベーカーによって描かれた、花束を持つ女性の油彩で、皇国中央博物館に収蔵されていてもおかしくない作品だ。


「お噂はかねがね…」


 恰幅の良い男は五十代半ばぐらい。穏やかな笑顔を浮かべる。キノッサがノヴァルナから全権大使の任を与えられて訪れたここは、強大な経済力を持つ自治星系のザーカ・イー。そしてキノッサが面会しているのは、そのザーカ・イー星系の経済界の大物、イーマイア造船代表取締役のソークン=イーマイアであった………




▶#01につづく

 

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