#07

 

 しかし躊躇している時間は無いのも確かである。ノヴァルナ達はカーズマルスがまず、すぐにコンテナの裏側へ入り込んだ。ノヴァルナ達が見守る先で、一つ目のコンテナと二つ目の間を、するりと抜ける。一つ目と二つ目は倉庫の端の方であるため、誰かに見られる可能性は低い。


 次に二つ目と三つ目めのコンテナの間。カーズマルスが通過しようとした瞬間、近づく作業員の靴音が聞こえて来た。音を殺して、背中を二つ目のコンテナに張り付け、気配を消すカーズマルス。靴音はものの十秒ほどで立ち去り、カーズマルスは同じ秒数だけ待って、三つ目のコンテナの裏側へ移動する。


 さらにタイミングを見て、カーズマルスは四つ目のコンテナの裏側へ。それに合わせ、ノヴァルナ達も先のコンテナの裏側へ、次々に移りだした。


 そして問題のスクラップの山。コンテナの陰から見たところ、倉庫の中には五人の『アクレイド傭兵団』と、四人のピーグル星人が作業中で、位置的に全員の視界に入る恐れがある。そこをカーズマルスは、全員の視線が離れた隙に、見事な素早さで音も無くヘッドスライディング。それほどの高さはないスクラップの山に、上手く身を隠し、一拍置いてその先にある、五つ目のコンテナの裏側へ進んだ。


 そうなると五つ目と六つ目の間は、また倉庫の端の方となり、比較的に移動も楽なものである。このカーズマルスの動きは、ノヴァルナ達の良い手本となった。ノアも含めて皆、身体能力は高く、スクラップの山も見つかる事無くクリアする。


 ところがメイアに続いたノアが五つ目から、最後の六つ目のコンテナの裏側へ移動しようとした時、思わぬ事態が発生した。

 ふと、コンテナの表面に貼ってあるステッカーに眼を遣ったノアは、識別番号と共に描かれたロゴを見た刹那、思わず動きを止める。そのロゴは、『ラグネリス・ニューワールド』社。『アクレイド傭兵団』の事実上のグループ企業である、植民惑星開拓企業のもので、ノヴァルナとノアが調査している対象の一つだったのだ。


 立ち止まったノアに接触したのが、彼女の後ろにいたヤスークである。態勢を崩したヤスークは、肩からコンテナにぶつかりに行ってしまう。そして運が悪い事に、コンテナは空っぽの状態であった。倉庫内に除夜の鐘のようなゴーーーン…という、聞き逃しようのない音が響く。思わず身を凍てつかせるノア。しまった!という顔になるノヴァルナ。音のした方を凝視する、傭兵団とピーグル星人。


 するとその直後、何を思ったかヤスークが、コンテナの裏から飛び出した。

 

 飛び出したヤスークは、「ワーーーー!!」と叫んでそのまま走り出す。倉庫内にいた作業員達が、突然の疾走に皇国公用語とピーグル語で驚きの声を上げた。


「なんだこいつは!」


「メハッシャ・モシュ!!」


「どっから入った!?」


 ヤスークを捕えようと、追いかけ始める倉庫内の作業員達。この光景に、なんてことを!…と、自分も飛び出しかけたノアをメイアが制止し、先へ進むよう肩を強く押す。作業員の眼を自分が引き付けようという、ヤスークの決心を汲み取っての行動だ。ここでノアまで飛び出しては、全部がぶち壊しになる。


 するとヤスークは、自分を捕えようと駆け寄り、次々に飛び掛かって来る作業員達を、軽快なステップワークで回避していく。その軽快な動きはまるで、ラグビーの一流チームで活躍するトッププレイヤーだ。

 そしてタッチダウンの代わりに、ヤスークは倉庫の端まで達し、壁の照明スイッチを平手で叩いた。明かりの電源が落ち、各重要箇所を照らす非常灯だけが光る、暗闇となる倉庫内。その非常灯の明かりを頼りに、ノヴァルナ達はヤスーク以外の全員が、騒然としている倉庫の奥で、一気に目的の扉まで辿り着いた。


 あとはヤスークを…と思うノヴァルナだが、手立てを考える前に倉庫内の照明が再点灯する。逃げ回る姿があからさまになるヤスークは、開いたままの倉庫の正面出入口から、外へ出て行こうとしていた。


 そこへ現れたのが、上のプラットフォームから降りて来た、ドン・マグードだ。


 倉庫の様子を見に戻って来たドン・マグードと、正面から鉢合わせしそうになったヤスークは、不意に眼の前に立ち塞がった、二メートルを超えるピーグル星人の巨躯に驚いて、動きが止まる。次の刹那、ドン・マグードが蹴り出した右脚が、ヤスークの腹を抉った。巨体に似合わぬ反射神経と蹴りの速さだった。みぞおちに強烈な蹴りを入れられたヤスークは、苦しそうな呻き声を漏らして、前のめりに床へ崩れ落ちて意識を失う。


 この光景に、難しい判断を迫られるノヴァルナ。


 もしドン・マグードが、意識を失ったヤスークにとどめを刺そうとしたなら、どうすべきか…ヤスークが家臣であるなら、本来の目的のために、非道を忍んで見捨てるのも星大名家当主としての在り方だが、彼はただの協力者なのだ。


 くそっ!…と、舌打ちしそうになるノヴァルナ。ところがドン・マグードは、ノヴァルナが思っていた以上に冷静であった。傍らの手下に命じる。


「“おい。このガキを閉じ込めておけ。仲間がいるか、あとで聞き出す!”」





▶#08につづく

 

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