#10
皇国暦1560年3月24日―――
ノヴァルナは、カルツェの支持派であった家臣を全て追放し、スェルモル城及びフルンタール城の廃城を宣言する。これで惑星ラゴンにあるウォーダ家の拠点は、アイティ大陸にある本拠地のキオ・スー城と、惑星を挟んで裏側のヤディル大陸にあるナグヤ城の、二つだけとなった。
かつてのイル・ワークラン=ウォーダ家の本拠地であった、惑星ラゴルのイル・ワークラン城も廃棄されており、ノヴァルナはこの機にウォーダ家の中央集権体制を、強化しようと考えたのだ。それもすべて、イマーガラ家の上洛軍襲来に備えての事である。
そしてこの日、ノヴァルナは執務室でトゥ・キーツ=キノッサを待っていた。カルツェの部下の陸戦隊に捕われ、肋骨三本骨折と打撲傷多数の重傷を負ったキノッサだったが、進んだ医療技術は一週間での回復を可能にしている。この日はキノッサの現場復帰を前に、告げておくべき事がノヴァルナにはあったのだ。
「トゥ・キーツ=キノッサ。参上致しました!」
執務室の扉の前でインターホンに向け、大声で申告するキノッサ。それに対し、「おう。
「この度はわたくしの不手際で、ノヴァルナ様をはじめ、皆様にご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ございません!」
「おう…そいつはまぁいい。で、体の具合はどうなんだ?」
「はい。あちこちがまだ少々痛みますが、問題なくお仕えできます」
キノッサは主君の問いに神妙に答える。ノヴァルナの質問の口調にいつもとは違う“硬さ”を感じ取って、普段のような馴れ馴れしさは控えていた。一つ頷いたノヴァルナは短く告げる。
「わかった。なら明後日から来い」
これを聞き、キノッサは「え?」と首を傾げた。最初の話では、明日から出仕する事になっていたはずである。
「出仕は明日からのはずじゃ…」
それに対しノヴァルナは、思いがけない事を言う。
「明日は来なくていい。ネイミアを見送ってやれ」
意味不明のノヴァルナの言葉に眼を白黒させ、キノッサは問い掛けた。
「ネイミアを見送るって…どういう事ッスか!?」
するとノヴァルナは、事も無げに言い放った。
「あいつはさっきクビにした。明日にはここを出て、
ネイミアの解雇という言葉に、キノッサは「げえっ!?」と驚きの声を上げる。左眼を失ったネイミアは、クローン技術による再生治療が施されており、それと同時にノヴァルナ暗殺に関わった関係で謹慎を受け、あの日以来キノッサは、一度も顔を合わせていなかった。そこへ突然、明日には中立宙域にある故郷の惑星、ザーランダへ帰らされると聞いたのだから、青天の霹靂というものだ。
「なっ!…なんでネイが、クビなんスか!?」
当然ながら声を上擦らせて問い質すキノッサ。一方のノヴァルナも当然といった表情で応じる。
「当たりめーだろ。俺に毒を盛ったんだからな」
「それは、クラード=トゥズークに脅されたからで、ノヴァルナ様もご無事だったですし―――」
「んなもん、ノアが予め教えてくれたからの、結果論じゃねーか」
「ですがネイは!…ネイは、ノヴァルナ様に毒を盛ったあと、責任を取って死のうと思い、わざとノア様に銃を向けてメイア殿に撃たれたんでしょ。たまたまメイア殿の銃が“麻痺モード”だったから助かっただけで、赦してやってもいいんじゃないですか!!??」
キノッサは自分がキオ・スー港の倉庫街に捕らえられている間に、城で起きた事を、事情徴収を受けたネイミアの供述と合わせササーラから聞いていた。その中にはノヴァルナに毒を盛ったネイミアが、メイアに撃たれるためわざとノアに銃を向けたという事も含まれている。
キノッサはネイミアが、人質の自分を助けるために脅迫通りに毒を盛って、ネイミアが自身はカレンガミノ姉妹もしくはランに撃たれる事によって、自分を裁こうとしたのだと理解していた。そしてそれが理解できるがゆえに、必死にネイミアを擁護しているのである。
だがそれはノヴァルナの不興を買うだけであった。「ああ?」という、遠雷を思わせる苛立たし気な声を漏らしたノヴァルナは、傲然と胸を反らして真正面からキノッサを見据える。
「てめーに、赦す赦さないを、訊いてるんじゃねーんだよ…」
普段のキノッサなら、ノヴァルナがこういう唸るような声で物言いをする時は、すぐさま引き下がる分別を持っているのだが、今回はそれも忘れて、なおも食い下がろうとした。
「それは分かっております!! しかし!…しかし!―――」
右手でバン!…と机を叩いてキノッサの訴えを遮り、ガタン!…と椅子を蹴って立ち上がると、途端に発せられる割れんばかりのノヴァルナの怒号。
「てめぇ、何様のつもりだ!! ふざけんな!!!!」
▶#11につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます