第21部:野心、矜持、覚悟…
#00
皇国暦1560年3月17日―――
スルガルム宙域某所の宇宙空間。彼方に紫色と紺色の星雲が大きく広がり、生まれたばかりと思われる恒星が幾つか、自らの誕生を祝福するかのように、強く白く瞬いている。
それを背景に視界の全てを覆う大小の宇宙艦。イマーガラ家の宇宙艦隊24個。さらに従属するミ・ガーワ宙域星大名、トクルガル家の宇宙艦隊が6個。合計30個艦隊約2600隻の大部隊だ。この大部隊の全てが、皇都惑星キヨウへ向かう上洛軍であり、しかもイマーガラ家には留守居の艦隊がまだ、4個も残るのである。
この日はおよそ二ヵ月後を予定している、上洛軍の進発に備えての総火力演習が行われていた。目標は敵艦隊に見立てた小惑星群で、砕けた自由浮遊惑星のなれの果てである。
帯状となった三千個以上ある岩塊に向け、壁のように並んだイマーガラ家の宇宙艦が、主砲を一斉射撃する。続けさまに砕け散る小惑星。すると今度はその破片を敵のBSIユニットに見立て、1万機ほどのBSIユニットやASGUL、そして攻撃艇が仕掛ける。
本格戦闘さながらの実弾演習に、真空の宇宙空間であっても、イマーガラ家の兵達が放つ熱量が伝わって来そうだった。
そんな中で、イマーガラ家宇宙艦隊総旗艦『ギョウビャク』の甲板上に、巨大なBSHOが艦内から、専用と思われるエレベーターに乗って出現した。身長が30メートル以上と、ノヴァルナの『センクウNX』など、標準型BSHOの倍ほどもある機体だ。
「『サモンジSV』起動完了。全システム異常なし」
機関士の報告に頷くのは、イマーガラ家当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラである。三座式のコクピットにはギィゲルトと機関士、さらにパイロットがいた。ギィゲルトの専用BSHO『サモンジSV』は、三人で機体を制御する方式なのだ。
機体の操縦はパイロットの役目。五つも搭載した小型対消滅反応炉の、出力制御は機関士の役目。そしてギィゲルトの役目といえば“射手”であった。
「よろしい。『D‐ストライカー』による狙撃を行う」
ギィゲルトがそう告げると、パイロットと機関士は「御意」と声を合わせ、所定の行動を取る。それに合わせ『サモンジSV』はバックパックから、機体のサイズに比例した、超大型ライフルを掴み取って構える。
「目標。左15度、上方3度。距離4万5千の小惑星」
スコープ式の射撃照準センサー画面に顔を押し当て、ギィゲルトは諸元を入力していく。距離4万5千といえば戦艦の主砲並みの射程で、通常のBSIユニットが狙撃を行えるような距離ではない。だがギィゲルトは当たり前の口調で告げた。
「照準よし。発射」
次の瞬間、銃口の先に発射光が輝く。だが銃弾が飛び出した様子は無い。ところがその直後、4千5百万キロ離れた小惑星は、大爆発を起こしたのである。
「目標を完全破壊」
パイロットの報告に頷いたギィゲルトは、何の感慨も感じさせない声で「次の目標を設定」と告げ、銃口を別の小惑星に向ける。それがギィゲルト自慢の『サモンジSV』が有する必殺兵器、超空間狙撃砲『ディメンション・ストライカー』の威力であった………
▶#01につづく
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