#12
パイロット達が奮戦している間隙を突き、ノヴァルナ軍の全艦隊は、『ウキノー星雲』の“傘”の部分へ進入した。本格化する砲撃戦の間で、双方のBSI部隊が火花を散らす。
総旗艦『ヒテン』の四隻の直掩戦艦を引き連れて戦場へ乗り込むと、猛然と主砲射撃を開始した。味方の重巡に激しく砲撃していた敵戦艦が、立て続けに主砲弾を喰らって舷側を破られ、破片と火花を散らせながら、紫の雲塊が林立する星間ガスの谷間に沈んでいく。
艦の数はいまだイル・ワークラン側の方が多いが、ノヴァルナ軍との最初の戦闘で、基幹艦隊とそれを構成する各戦隊の旗艦の大半が喪失、または大損害を被っており、数的有利を活かせなくなっていた。また一隻、イル・ワークラン側の戦艦が小爆発を繰り返し、戦場に漂い始める。
一方のノヴァルナはカダールの命で集中攻撃を仕掛けて来る、敵のBSI部隊に対し、久々に総員が出撃した親衛隊の『ホロウシュ』が、主君の周囲を二重に固めて、敵機を寄せ付けない。
ショウ=イクマの操縦する電子戦特化型の『シデンSC-E』が、他の『ホロウシュ』の機体とを繋いで展開した、巨大な電子妨害フィールド。その中に飛び込んで来る敵の機体は、著しくセンサーや通信機器に障害を受けて性能が低下。そこを二重陣形を組んだ『ホロウシュ』の、外側にいる『シデンSC』に狙い撃たれる。
それでもカダールの集中攻撃の命令に律義に従い、数にものを言わせて突破して来る敵機もあるが、それとて二重陣形の内側を守る『シデンSC』に、格闘戦を挑まれて潰え去る。
ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』は若者揃いだが、主君に従って前線での戦いを重ね、その技量は年々高まっていた。したがってノヴァルナのもとまで辿り着く敵機は皆無で、『センクウNX』の左右背後を守る『ホロウシュ』、ナルマルザ=ササーラ、ラン・マリュウ=フォレスタ、ヨヴェ=カージェスにも出番は回って来ない状況だ。ノヴァルナのする事と言えば、時折遠距離から放たれる艦砲による狙撃を回避するぐらいである。無論、それとて油断できない代物ではあるが。
このような光景を眺めつつ、ノヴァルナは『センクウNX』のコクピット内で、ふん…と、小さく鼻を鳴らした。
“ろくに実戦も経験していねぇ、イル・ワークランの連中相手ならこの程度だが、このさき相手にする奴等は、こんなもんじゃねぇからな…”
内心でそう自分を戒めるノヴァルナ。その想いの通りで、星帥皇テルーザと共に目指すと誓った、銀河皇国の秩序の回復のためには、イル・ワークラン家より遥かに強大な相手と対峙して行かなければならないのだ。言い方は悪いがこのようなところで、イル・ワークラン程度に後れをとっている場合ではない。
そしてノヴァルナに見下される形となったカダール=ウォーダは、座乗する総旗艦『キョクコウ』の中で、ますますいきり立っている。
「ええい、何をしている! ノヴァルナのBSHOに集中攻撃しろと、命じたはずだろう!! なんだあのザマは。むしろ各個撃破されているではないか!!??」
興奮のあまり口走った集中攻撃の命令を、家臣達がまともに受領しているかどうかも怪しいところだが、確かに光学映像も戦術状況ホログラムの表示も、味方機がバラバラのタイミングで、『センクウNX』目掛けて突っ込んで行っては、それを取り囲む『ホロウシュ』の二重防御陣に、阻止されている光景ばかりを映し出していた。
「突撃を仕掛けた機体は、みな敵機が形成する電子妨害フィールドの干渉を受け、センサーの取得緒元に異常値が与えられた事で、僚機との正確な戦術情報の共有が不可能になっていると思われます。ですから連携攻撃が―――」
「言い訳などよい! なんとかしろ!!」
状況の説明に来た女性の機動兵器戦参謀の言葉を、怒声で遮ったカダールは、さらにその女性参謀の肩を激しく突き飛ばす。家臣に対する攻撃的な態度は、相手が女性であっても変わらないらしい。「きゃ!…」と小さな悲鳴を上げて倒れそうになる女性参謀を、参謀長が背後から支えてカダールに意見する。
「部下への乱暴は、おやめください!」
「なんだと貴様! 俺に歯向かうつもりか!!」
「冷静におなり下さいと、申し上げているのです。現在、電子戦科が対抗プログラムを作成中です。それが完成すれば、ノヴァルナ様への―――」
「何度言えば分かる! あんな奴に“様”など付けるな!」
不毛だ―――
…と、参謀長は思った。家臣とは主君に忠義を尽くすものである。だがその主君の方にも、家臣からの忠義を得るに相応しい、人格というものが必要であるはず。だが、この主君はどうであろう…自分達が命を懸けて尽くすだけの価値が、果たしてあるのだろうか。
翻って参謀長は、ノヴァルナの『センクウNX』の光学映像を見る。その周囲を固める親衛隊の『シデンSC』からは、スクリーン越しであっても搭乗者の、“命に代えても我が主君を守り抜く!”という、鉄壁の意志が伝わって来た。彼等の姿を見れば、世間が噂するノヴァルナの悪評が、実際は偽りである事が知れる。そんな参謀長の背後で、カダールは再び怒声を上げていた。
「どいつもこいつも、使えん奴等だ!!!!」
▶#13につづく
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