#21

 

 四隻の無人駆逐艦を遠隔操作するシャトルを操縦するキノッサは、ノヴァルナの命令を聞き、副操縦士席に座るネイミアを振り向いた。いつもどこかとぼけたような表情をしているキノッサだが、この時ばかりは真剣な眼差しだ。


「ネイは救命ポッドの中に入ってるッス!」


「やだ!」


 間髪入れず拒否するネイミア。


「やっ!…なに言ってるッスか。聞き分けるッス!」


「やだったら、や! 説得してるヒマなんてないよ、早く操縦して!」


 ネイミアは戦闘に関しては全くの素人だが、このタイミングで下されたノヴァルナからの命令と、キノッサの真剣な眼差しが、相当な危険を伴う任務である事を察知したのだった。

 そして説得している時間が無いのもまた、ネイミアの言う通りである。キノッサはシャトルのスロットルに手を掛けて、ネイミアに告げる。


「死んでも恨みっこ無しッスよ!!」


 その言葉と共にキノッサのシャトルは四隻の駆逐艦を引き連れ、ラフ・ザスの三隻の戦艦へ向けて急加速を開始した………




 キノッサのシャトルと無人駆逐艦群が、事前の打ち合わせに従って動き出したのを確認し、ノヴァルナは敵艦攻撃の度合いを強めた。また三隻の戦艦の方も、密集陣形から『センクウNX』へ迎撃砲火を集中する。


 槍ぶすまを思わせるビームの火箭が、上下左右から『センクウNX』を狙う。それを躱す『センクウNX』の機動には、三秒以上の直線の動きが一つもない。目まぐるしく位置を変えながら、超電磁ライフルから『ゴルワン』に、対艦徹甲弾を叩き込む。しかしその『センクウNX』の機体も、集中する迎撃砲火に対する激しい回避運動で、ベグン=ドフとの戦いの後に受けた、内部機構の応急修理箇所ほぼ全てが、再び機能不全を起こしていた。

 そのうえコアシリンダーを一基停止して、その分を残り二基で賄っているため、機体の稼働時間はあと十分強しか無い。


「ハッチ、モ・リーラ。あの邪魔な戦艦をやれ!」


 ノヴァルナは小刻みでランダムな上下運動を加えた旋回を行いながら、『ホロウシュ』の二人に命じた。二人に狙わせたのは、『ゴルワン』の艦尾で盾の代わりをしている戦艦である。ノヴァルナとしては『ゴルワン』の艦尾にある重力子ノズルにダメージを与え、航行能力を奪うか低下させたい。そのため超電磁ライフルより威力のある対艦誘導弾ランチャーは、まだ未使用で温存していた。


 ノヴァルナの命令に「了解」と応じたハッチとモ・リーラは、『シデンSC』を左右から二手に分けて襲撃行動に入る。この戦艦は宇宙魚雷をすでに三本喰らっており、かなり行動力を低下させていた。二機の『シデンSC』が放つ対艦徹甲弾が次々と重力子ノズルに命中し、たちまち速度が落ち始める。

 

 好機とばかりに『センクウNX』で突撃を掛けるノヴァルナ。だがラフ・ザスも実戦経験豊富な司令官らしく、ノヴァルナの突破点を読んでいた。味方戦艦が遅れ始めると同時に、『ゴルワン』の艦橋内の戦術状況ホログラムへ、楕円状の迎撃砲火の集中照準箇所を自ら表示して命じる。


「ここだ。ここに防御火箭を集中せよ!」


 ラフ・ザスの命令に従って三隻の戦艦が、予想範囲の空間に迎撃砲火を集中させる。これまで以上に密度の濃いビームの嵐に飛び込んでしまうと、今の機体の損傷状況からして、如何な『センクウNX』でも宇宙の塵だ。


 ところが実戦経験においては、ノヴァルナもベテラン武将と遜色ない。


 敵の射撃が集中する突破点直前の宇宙空間で、『センクウNX』は稲妻のような機動を行って迂回コースを取った。無数のビームが『センクウNX』のいない虚空を貫く。ただノヴァルナもギリギリのタイミングでコース変更を行ったため、幾つかのビームに『センクウNX』の両脚の外殻を削り取られた。さらに当然の如く、コースを変更した『センクウNX』を、大量のビームが追って来る。


「踏ん張れ、センクウ!!」


 ノヴァルナは声に出して『センクウNX』のスロットルを上げた。機体はすでにボロボロ、数ヵ所をビームに削られた両脚から、細かな破片や部品を撒き散らしながら飛んでいる。おまけにコアシリンダー接続部の破損を原因とした、稼働時間の低下により、動ける時間は10分を切っているとなると、機体に声を掛けたくなるのも無理はない。


 ただその努力は正しく報われた。


 体当たりも視野に入れて突進して来た、『ゴルワン』のアクティブシールドを紙一重でやり過ごすと、視界の先に目標の重力子ノズルがある。だが接近した事が逆に作用し、両者が高速機動している状況で相対位置的に攻撃が可能な時間は、僅か五秒だ。それでもすでに抜け目なく、回避行動中に対艦誘導弾ランチャーを構えている。ノヴァルナが『ゴルワン』の三基ある重力子ノズルを見据えると、NNLを通して照準ホログラムが立ち上がり、イルミネーターが三つのノズル全てをロックオンする。


「しゃあッ!!」


 躊躇なくトリガーを引くノヴァルナにとって、五秒は充分な時間だ。即座に撃ち出された誘導弾が、三本のノズルの全てに穴を穿つ。続いて起こるノズルの爆発。


「むぅあッ!」


 後ろから突き飛ばされるような衝撃が、『ゴルワン』の艦橋にいる参謀達をよろめかせ、声を上げさせる。そこに追い討ちをかけるようなオペレーターの報告。


「重力子ノズル全基破損! 速力20パーセントに低下!」


 一見すると勝負あったように見える状況。だがラフ・ザスにはまだ手があった。姿勢を正したラフ・ザスは砲術長に命じる。


「主砲を惑星ザーランダに向けよ。そろそろ艦砲射撃圏内だ」






▶#23につづく

 

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