#03
「なっ!…なんだこれは!?」
感情を表に出す事の少ないラフ・ザスも、敵の家紋が一斉に、オ・ワーリ宙域星大名ウォーダ家を示す、『流星揚羽蝶』へ切り替わって行くのを目の当たりにし、動揺を隠せなかった。隣にいるベグン=ドフも呆気に取られている。
そしてそれに続いて、通信参謀が頬を引き攣らせて駆け寄って来た。
「司令…いえ、首領。キ…キオ・スー=ウォーダ家の、ノヴァルナ殿下から通信が入っております!」
「ノヴァルナ殿だと?」
幾分気持ちを落ち着かせた様子のラフ・ザスは、「繋げ」と命じる。それを受けて通信ホログラムスクリーンが展開されると、早速不敵な笑みのノヴァルナが姿を現す。それを見たラフ・ザスは腑に落ちたような眼をする。バグル=シルの交易ステーションのショーパブで、モルタナから“弟分”だと紹介された、眼光の鋭い若者だったからである。
「ラフ・ザス=ヴァンドルデン。俺はキオ・スー=ウォーダ家の当主、ノヴァルナだ。いつぞやは失礼したな」
「ノヴァルナ殿下」
内心の困惑を隠し、ラフ・ザスは軽く頭を下げて敬意を払った。対するノヴァルナは小さく頷いて答礼すると、真剣な眼差しで告げる。
「悪いが、あんたらを潰させてもらう」
「解せませんな。この辺りは銀河皇国直轄の中立宙域。殿下のご料地ではないはずにて、我等と戦わねばならぬ理由は、無いと思うのですが?」
「あるさ」
「ほう…どのような?」
ラフ・ザスの問いにノヴァルナは、厳粛さを感じさせる声で宣した。
「星大名…星を統べる者として、恐怖を統治の手段にするあんたを、野放しにしておくわけにはいかないんでな」
それはこの戦いがノヴァルナにとって、もはや単に惑星ザーランダの臨時行政府からの、依頼ではなくなった事を示していた。そしてその言葉の意味は、ラフ・ザスも理解したようである。
「なるほど…それが理由ならば、我等も殿下を打倒せねばなりますまい」
ラフ・ザスがそう答えると、ノヴァルナは通信ホログラムスクリーンの中で、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「そういうこった。お互い、遠慮は無しにしようぜ。じゃあな!」
そこで通信を一方的に切ったノヴァルナを、ラフ・ザスは噂通りの傍若無人な若者だと感じ取る。そこでここまで口をつぐんでいたドフが、「バッハハハ!」と大きな笑い声を上げた。そして拳を握り締め、ラフ・ザスに振り向く。
「これはチャンスですぞ、首領! ノヴァルナといえば、周囲を敵に囲まれた状況に陥っていると聞く。ヤツの首級を上げ、いずれかの星大名へ献上すれば、大きな報酬と
ノヴァルナがラフ・ザスと交信している間にも、両軍の距離はさらに詰まっていた。そして通信が終わると同時に、本格的に戦端が開かれる。
「『クーギス党』は全艦散開し、各個に敵を撃破!」
ラフ・ザスとの通信回線を切るとすぐさま、ノヴァルナは全艦隊に下令した。ただ本格戦闘開始と同時に艦隊を解くのは、およそセオリーに反した命令である。しかしながら『クーギス党』は宇宙海賊であるため、各個単独での襲撃行動はお手のものだ。
「野郎ども、やっちまいな!」
モルタナは自身が座乗する輸送艦『プリティ・ドーター』から、海賊船―――元は宇宙魚雷を搭載した宙雷艇を発進させながら命じる。そうしてさらに配下の軽巡二隻と駆逐艦六隻に発破をかけた。
「気ぃつけんのは、戦艦の主砲だけだ! ビビんじゃないよ!」
「合点でさ。お嬢!」
モルタナの煽りに呼応して、『クーギス党』の配下が答える。散開した軽巡航艦や駆逐艦は、目まぐるしく針路を変更させながら、『ヴァンドルデン・フォース』の艦隊との距離を詰めて行った。敵戦艦の砲撃がエネルギーシールドを掠め、
「魚雷装填!」
「装填完了!」
「照準よし!」
「よっしゃ、撃てぇッ!」
敵艦隊に肉薄し、息を合わせて放った宇宙魚雷が、敵駆逐艦二隻のどてっ腹を食い破る。ただ『ヴァンドルデン・フォース』も、元は精強を誇った銀河皇国第24恒星間防衛艦隊である。統制の取れた三隻の戦艦による、主砲の一斉射撃で、それ以上『クーギス党』の宙雷戦隊を近寄らせない。一隻の軽巡と二隻の駆逐艦が、主砲弾を喰らい、破片を宇宙空間に撒き散らせて退避行動に移る。
「損害は!?」
尋ねるモルタナに、オペレーターの男が応じた。
「大丈夫。どれもかすり傷でさ!」
「よし! 続いて行くよ!!」
軽巡と駆逐艦の宙雷戦隊が退避すると、それと入れ替わって宙雷艇が二十隻、突撃を開始した。目標はこちらの軽巡と駆逐艦の第一波攻撃で迎撃のため前進した、敵宙雷戦隊である。二十隻の宙雷艇は十隻ずつが、二段構えの態勢で距離を詰めて行った。ここで脅威なのはやはり戦艦、そしてさらに二隻いる重巡航艦だ。これらの主砲射撃を喰らうと、エネルギーシールドごと宇宙の塵となってしまう。
その『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦と二隻の重巡には、ノヴァルナの『クォルガルード』と、惑星ザーランダの兵が運用する三隻の軽巡航艦が単縦陣を組んで、遠距離砲戦による援護射撃を行った。威力は戦艦や重巡には及ばないものの、速射性能は上である。砲身も裂けよとばかりにつるべ撃ちを浴びせると、アクティブシールドがたちまちプラズマオーバフロー状態となり、逆に主砲射撃の際の照準センサーに障害を発生させた。
▶#04につづく
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