#09

 

 一斉に動き出す陸戦仕様『ミツルギ』に、ノヴァルナは怯むどころか奮い立つ。


「待ってましたの、お約束!!」


 敵は一機がすでに行動不能となっており、残りは九機だ。ノヴァルナは不敵な笑みを浮かべたまま、斜め後方の『サイウンCN』に乗るノアに声を掛ける。


「ノア。六、三でどうだ?」


 操縦桿を握るノアが応じる。


「当然、私が六よね」


「はぁ? 言ってろ!」


 強気な態度のノアに、ノヴァルナは不敵な笑みを苦笑いに変えた。ノアの実力を考えれば、実際そうなり兼ねないから困るところだ。


「じゃ、早いもの勝ちね。でも殺しちゃ駄目よ」


「わかってるって!」


 言うが早いか、ノヴァルナの『センクウNX』とノアの『サイウンCN』は、背中合わせになって超電磁ライフルを撃ち放った。二機の陸戦仕様『ミツルギ』が、片腕を吹っ飛ばされる。片方の『ミツルギ』はその衝撃で、仰向けに転倒。もう一機は丘陵部の剥き出しになった岩肌に、背中のバックパックを打ち付けた。ちぎれた片腕がアルーマ川の支流に落下し、水飛沫を上げる。


「怯むな。地上ならBSIと、BSHOの差は少ないぞ!」


 傭兵団隊長のウォドルが通信機に叫ぶ。確かに重力下の地上戦の場合、本来は宇宙戦闘用のBSHOに対して、陸戦仕様のBSIユニットならば、その性能差は宇宙空間におけるBSIとBSHOほどではない。そうであるならこの戦力差でも、勝算はあるとウォドルは踏んだのであった。

 しかしそれも、機体を操縦するパイロットの腕に差があっては、如何ともし難いものである。


「ノア。銃を使うのはここまでだ!」


 銃撃戦を続けては、AESDが防御している天光閣はともかく、他の旅館の建物に被害が出る。ノヴァルナは『センクウNX』のポジトロンパイクを起動して、ノアに告げた。「了解」と応えたノアは、『サイウンCN』にもポジトロンパイクを起動させ、両手に握らせる。

 そして別々の方向に駆け出す『センクウNX』と『サイウンCN』。機体は反転重力子のフォースフィールドに包まれているため、地上を駆けても実重量から来るほどの衝撃は起こらない。

 ノヴァルナの目指す敵の一機が超電磁ライフルを放つ。だがその一弾は、『センクウNX』が盾代わりにかざしたパイクの刃に弾かれた。間合いを詰めて振り抜かれる、『センクウNX』のポジトロンパイクが、相手のライフルの銃身を真っ二つに両断する。さらに踏み込んで返し刀でもう一閃。敵機の頭部が斬り飛ばされ、そこに『センクウNX』の前蹴りを振部へ喰らって、雑木林の中に転倒した。


「く! こっちも格闘戦だ」


 そう言ってウォドルも機体にポジトロンパイクを構えさせる。こちらは建物の被害より、包囲陣形をとったため、銃撃による同士討ちが出るのを恐れたからだ。地響きを立てて『センクウNX』に駆け寄っていく、傭兵団の『ミツルギ』。その機体が右下段から振り抜くポジトロンパイクの刃を、『センクウNX』のパイクの刃が受け止める。


ギャギィイイイイイン!!!!


 真空の宇宙空間では聞こえない、刃と刃がぶつかり合う凄まじい金属音が、峡谷にこだまし、その轟音に天光閣の中にいるエテルナ達も耳を塞ぐ。

 斬り結んだ二機。だがBSHOの『センクウNX』はパワーも違う。力任せに振りほどくパイクの威力に、後退した敵機の隙をノヴァルナは見逃さない。


「おおら、よッ!」


 パイクの柄を握る『センクウNX』の指の力を、サイバーリンクで僅かに緩めて柄の端まで掴む位置をずらし、目一杯伸び切ったパイクを振り下ろすノヴァルナ。その一撃は見事、敵機が後退した位置にピタリと的中。左の肩口がらざくりと胸板を切り裂き、その刃は腹部にあるコクピットの、天井部にまで達した。


「ひいいいい!!」


 『センクウNX』のパイクの刃に天井を突き破られた、『ミツルギ』のコクピット内では、裂け目から滝のように滴り落ちる火花に、パイロットの傭兵が頭を抱えて、哀れな悲鳴を上げる。

 その間に『センクウNX』の後ろから突っ込んで来る、別の『ミツルギ』。近接警戒警報がノヴァルナのヘルメットに鳴る。しかしノヴァルナに動揺はない。近づく相手に背中を向けたまま、前面の敵機に食い込ませたポジトロンパイクの柄を手放し、腰のクァンタムブレードを引き抜いて起動した。

 そして腰を低くして機体を半回転。瞬時に自分から間合いを詰めると、横一文字に一閃されたブレードが、今まさにポジトロンパイクを上段から振り下ろそうとしていた、『ミツルギ』の左脛を両断する。


「うぁああああっ!!」


 叫び声を上げるパイロット。横転しかける機体。だがその方向には、ノヴァルナ達が悪ふざけをした河原の露天温泉が!


「バカ! そっちじゃ、ねぇんだよ!!」


 そう声を上げたノヴァルナは倒れかけていた『ミツルギ』を、『センクウNX』で思い切り蹴り飛ばした。蹴られた機体は向きが変わり、大量の水飛沫を上げて川の中へ仰向けに転倒する。この無茶苦茶に、パイロットは失神してしまった。


 すると今度はノヴァルナのポジトロンパイクに、コクピットの天井まで切り裂かれていた『ミツルギ』が、パイロットが気を取り直したのか、自分の機体に食い込んでいた『センクウNX』のパイクを引き抜き、それを振りかざして襲って来る。


「めんどくせぇ事、すんな!」


 身を翻して瞬時にQブレードを振るうノヴァルナ。襲い掛かって来た機体は、こちらも片脚を両断され、川の中に仰向けに倒れていた僚機の上へ、うつ伏せに倒れ込んだ。




▶#10につづく

 

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