#07
ノヴァルナの言葉に応じるように、第1艦隊の参謀達が指示を出す。
「艦隊針路058マイナス11!」
「全艦、砲雷撃戦用意!」
「艦載機、発進準備急げ!」
「第1艦隊、一斉右回頭!」
命令を受け、第1艦隊に属する全ての艦77隻が、一度に右へ舵を切る。よく訓練された見事な艦隊運動だ。
「敵艦隊との距離、約四万。戦艦主砲、射程圏内です」
参謀の報告を聞いてノヴァルナは、即座に射撃開始を命じる。
「戦艦戦隊、主砲。撃ち方はじめ!!」
ノヴァルナの『ヒテン』を先頭に、11隻の戦艦が主砲塔を右旋回、照準もそこそこに撃ち放った。敵の二個艦隊を牽制するためである。
案の定、ギルターツ軍の二個艦隊は後退を始める。ルヴィーロの艦隊が撤退して来たフーマ艦隊を護衛して離脱。そしてノヴァルナの第1艦隊が、足止め部隊と思われていたブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊と、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊へ参戦した事で、足止めの目的が達成出来たと判断したのだ。
ただその判断は些か甘かった。ドルグ=ホルタの撤退第二陣の安全確保のため、ノヴァルナは本気で相手を潰しに掛かっていたからだ。若き主君の覇気に刺激を受け、ブルーノの第4艦隊とサンザーの第6艦隊の攻撃も激しさを増す。三つに増えたキオ・スー艦隊がギアを上げて来た事で、ギルターツ軍の二個艦隊の後退行動が返って被害を大きくし始めたのだ。
「チィ! ノヴァルナ軍め、なにをムキになっているんだ!?」
イースキー家第8艦隊を指揮する武将シン・スー=キーシスは、連続して撃破の憂き目に遭う配下の前衛に、舌打ち混じりに罵り声を上げる。もう一方の第7艦隊を指揮する女性武将、ドリュー=ガイナーが硬い表情で通信を入れて来た。
「キーシス殿。このままでは駄目だ。ここはBSI部隊を全部出して、敵の動きを鈍らせよう」
「う、うむ。致し方あるまい」
ギルターツ軍の二個艦隊は、足止め目的であったために半数を温存していた、BSI部隊を緊急発進させる。そうでなければノヴァルナ艦隊の肉迫を、防げないと考えたからだ。何よりノヴァルナ側にはカーナル・サンザー=フォレスタ率いる、宇宙空母打撃群が主力の第6艦隊がおり、それがここに来て全搭載機―――千五百近い数の機体を出撃させたからに他ならない。
さらにノヴァルナ軍第6艦隊司令にして、BSI部隊総監のサンザー自身もBSHO『レイメイFS』で旗艦から発進した。右手に握る特性の大型十文字ポジトロンランスが、遠くの恒星の光を反射する。
「はん。俺の先を越しやがって。張り切ってるじゃねーか、サンザー!」
総旗艦『ヒテン』の脇を、自身の中隊を率いて通過して行くサンザーに、ノヴァルナは不敵な笑みで声を掛けた。コクピットで振り返りながら、サンザーも攻撃的な笑みを浮かべて応じる。
「若殿が“出し惜しみは無しだ”と仰せになりましたからな。それに私もドゥ・ザン殿へ
「おう。頼むぜ!」
ノヴァルナがそう告げると、「御意!」と返答するや否や、サンザーは超電磁ライフルを放った。立ち向かって来ようとしていた攻撃艇が二機、瞬時に撃ち砕かれる。さらに加速を掛け、十文字ポジトロンランスを振り抜くと、人型に変型した直後の敵ASGULに、武器を構える隙も与えず両断した。それを皮切りに当たるを幸い、敵機を次々に薙ぎ払っていく。
総監自らの出撃で勢いづいたノヴァルナ軍BSI部隊は、もともと全力出撃をかけても数で不利な、ギルターツ軍二個艦隊のBSI部隊を圧倒していった。
「無理だ。撤退するしかない!」
キーシスの言葉に、ガイナーも「くそ…」と罵りながら、同意する以外に方法がないのを認める。後退と撤退は違う。距離を開けて自分達の態勢を立て直すのと、戦いの場から逃げ出すのは、全く別の話だ。
すると程なくして、ガイナーの座乗艦のオペレーターが声を上げた。
「複数の超空間転移反応あり。右舷方向!」
「なに?」
まさか敵か!?…と目を向けるガイナー。艦橋の窓の外、たなびく白と紫のベールのような『ナグァルラワン暗黒星団域』のガス雲を背に、幾つもの白い光が輝いて中から大小、様々な宇宙艦が飛び出して来る。ドルグ=ホルタの第二陣が、ノヴァルナ艦隊と合流するために引き上げて来たのだ。
「来たか!」
報告を聞いて、ノヴァルナは席から立ち上がった。『ヒテン』の艦橋中央に展開された巨大な戦術状況ホログラムに、次々とドゥ・ザン軍の宇宙艦が表示され始める。ただ統制DFドライヴではなく、個艦でDFドライヴを行ったため、やはり転移位置は不規則である。ノヴァルナはこの状況に、間髪入れず指示を出した。
「それぞれ近くにいる艦、三隻以上で救援に向かえ!」
転移のタイミングもバラバラで、位置もバラバラ。運が悪い艦はギルターツ軍の艦隊の間近に転移してしまい、たちまち集中攻撃を喰らう。それを救援するため、ノヴァルナ艦隊も数隻ずつが突出し、辺りは大乱戦となった。
▶#08につづく
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