第18部:陰と陽と

#00

 



ミ・ガーワ宙域首都惑星、ヴァルネーダ―――




 トクルガル家本拠地オルガザルキ城では、トクルガル家の重臣達が血相を変えていた。


 玉座には昨日到着したばかりの新当主イェルサス=トクルガルが、肩をすぼめてちょこんと座っている。いや、重臣達が血相を変えているのは、イェルサスの態度ではない。その傍らに立っているイマーガラ家の女性家臣、シェイヤ=サヒナンの発した言葉に対してである。


「イェルサス様をイマーガラ家へですと!!?? なぜそのような!!??」


 重臣の一人、オークボランが声を荒げる。それに対しシェイヤは、極めて事務的な口調で応じた。


「イェルサス殿を我がイマーガラ家で、星大名に相応しいお方になって頂くための、教育を施すのです。いわば留学と…お考え下さい」


「そのような事、御家の手を煩わさずとも、我等でお教え奉る!」


 と言ったのは同じく重臣のサークルツだ。しかしシェイヤは冷めた目で言葉を返す。


「我がイマーガラ家は星帥皇室の流れを汲む血筋、礼儀作法、武人の心得、全てにおいて土豪上がりの御家とは比べるべくもありません。イェルサス殿をより大成させたいのであれば、どちらを選択すべきかは瞭然たるものでしょう」


「うぬ!…」


 聞き捨てならん!…と叫びそうになる重臣達。するとイェルサスはそんな重臣達を制するように、シェイヤに尋ねた。


「いつ、向かわなければならないのですか?」


「イェルサス殿の家督継承の儀を、終えられてからにございます」


 シェイヤは立場上、上になるイェルサスに対しては恭しい態度で応える。イェルサスは小さく頷いて「わかりました」と返した。


「イェルサス様…」


 と重臣達。若輩であっても主君が了承してしまえば、納得せざるを得ない。


 運命の悪戯とはこういったものであろうか。二年に及ぶウォーダ家の人質生活を終え、トクルガル家に帰還したかと思えば、待っていたのはイマーガラ家への人質同然の留学…しかも今度はノヴァルナのように、自分を身内として扱ってくれる者がいるかも分からない、イマーガラ家での暮らしだった。


 ただ今のイェルサスには、ウォーダ家に捕らえられた時のような孤独と悲壮感はない。別れの間際にノヴァルナと誓ったからだ。




強くなって、いつか再会すると―――





▶#01につづく

 

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