#13

 

 ケーシー=ユノーは、二人の部下にオーク=オーガーに囚われていた女性達を加え、惑星アデロンからノヴァルナ達の工作艦『デラルガート』で脱出に同行した後、マーシャルと合流した際に女性達と共にダンティス軍の艦隊に収容されたのだった。


 元々BSIパイロットであったユノーと二人の部下は、そこで自分達もこのズリーザラ球状星団会戦に参加する事を要望し、臨時編成されたマーシャル直属の随行部隊に、二人の部下と合わせて、軽空母艦載機の『ショウキ』パイロットとして配属されていたのである。そしてアッシナ家BSI親衛隊の足止めをどうにか振り切って駆け付け、ノヴァルナのピンチに間に合ったというわけだ。


「ユノー。あんたか!」


 クィンガの『シラツユGG』と距離を取りながらノヴァルナは、こちらに急行して来る『ショウキ』に目を遣った。ユノーの『ショウキ』は、後方に攻撃艇形態をしたASGULの『グラーザック』を二機従えている。


「ノヴァルナ殿、助太刀致します。マルロ、ランクス、仕掛けるぞ!」


 ユノーの『ショウキ』と二人の部下のASGULは、超電磁ライフルとビーム砲を連射しながらクィンガに突進した。


「小賢しいわ!!」


 そう叫んだクィンガの操縦技術は高く、巨大なポジトロンパイクの刃を盾に超電磁ライフルの弾丸を跳ね返しながら、急旋回を繰り返してビームを回避すると、自らもユノー達三機に向かう。相手の瞬発力に驚いたユノー達が、散開しようとするところへ飛び込んだ『シラツユGG』は、ポジトロンパイクを一閃すると同時に、両脇の伸縮式Qダガーアームを素早く突き伸ばした。


 クィンガが一度に三方向へ放った斬撃を、ユノーの『ショウキ』は咄嗟の回避でかろうじてかわしたが、あとに続いていたASGULの二機は、機動性が限定される攻撃艇形態であった事もあり、旋回能力を超える一撃を浴びて機体を引き裂かれた。赤いプラズマが弾けて、破片が飛び散る。

 ただ幸いだったのは刃の短いQダガーナイフであったために、二機とも機体を両断されるまでには至らず、コクピットにも被害が及ばなかった事だ。


「二人とも無事か!?」


 そう尋ねるユノーに、二人の部下は「ど、どうにか」「ですが出力が上がりません!」と応じる。だがユノーも部下の心配をしている場合ではなかった。クィンガの『シラツユGG』が返す刀で迫って来たからだ。


「くっ!!」


 一気に間合いを詰めて来た『シラツユGG』に圧倒され、ポジトロンパイクを構えるのが遅れたユノーは、手にしていた超電磁ライフルの銃身で反射的に身を守った。そしてその間にバックパックのパイクをもう片手で掴もうとする。しかしクィンガの放った斬撃は、超電磁ライフルの銃身を真っ二つにして、手にした直後で構えもしていないユノーのパイクまで宇宙の彼方へ弾き飛ばした。やはり量産型BSIと将官用BSHOが一対一では、勝負にならない。さらに斬撃を加えようとするクィンガ。とそこへ、ノヴァルナの『センクウNX』が、ポジトロンパイクで背後から斬り込んで来た。


「見えておるわ!!」


 クィンガはユノーに浴びせようとしていたパイクの切っ先をクルリと返し、ノヴァルナからの斬撃を打ち防ぐ。その間に慌てて後退するユノー。さらにノヴァルナも咄嗟に機体を退かせる。するとその直後、飛び退いた『センクウNX』の腹部があった位置を、『シラツユGG』の二本のQダガーアームが交差した。危うくコクピットを両側から刺し貫かれるところだったのだ。


「クソッ!」


 歯噛みしたノヴァルナは超電磁ライフルを手に取り、至近距離からクィンガ機を撃とうとトリガーを引く。だがその一弾は再びクィンガが盾代わりにしたポジトロンパイクの、巨大な刃に弾かれた。刃は陽電子フィールドに覆われており、凹みは出来るが、柄などのようにライフル弾で破壊される事はない。しかもノヴァルナの銃撃を跳ね返したクィンガ機は、もう片手でQブレードを起動させており、直後に突き出した量子のブレードで、ライフルの制御中枢を串刺しにした。『センクウNX』が緊急回避にライフルを放り出すと、小さな爆発が起きて、銃身の超電磁コイルが機能を停止する。


「貴様らにアッシナ家を滅ぼさせはせん!!!!」


 己の執念を言葉に乗せたクィンガのパイクが、ノヴァルナに迫る。


「ノヴァルナ様!」


 背後から援護しようとQブレードを抜くユノー。しかしクィンガは、両脇の伸縮式Qダガーアームを後ろ向きに伸ばしてユノー機と切り結び、接近を許さない。しかもその一方でノヴァルナを、両手に握るポジトロンパイクとQブレードの二刀流で追い詰める。


「チッ! あのナイフ付きのアーム…機体自身の自律制御か!?」


 苦々しく独り言ちるノヴァルナ。


 ノヴァルナは『シラツユGG』のQダガーアームが、操縦者のクィンガのNNLによる意識制御ではなく、『シラツユGG』自体のメインコンピューターが、自立思考によって制御している事を見抜いた。いわゆる“自動防衛システム”の一種だ。


 NNL(ニューロネットライン)による機体制御は、機体が人型である事によって、四肢を動かす神経とNNLがリンクして、搭乗者の身体能力がそのまま反映される。ただその一方で搭乗者は自分の手足を使って、操縦桿やフットペダルを動かし、武器の選択やトリガーを引く(誤射を防ぐため、トリガー類はNNLで制御出来ない)事や、センサーの切り替え、重力子ジェネレーターをはじめとする各出力の調整などを行う。


 このような複雑な操縦形態で、さらにQダガーアームのような兵器を、無駄なくパイクやQブレードと並行操作する事は極めて困難だった。そこでノヴァルナは『シラツユGG』の、二刀流を使いつつQダガーアームが滑らかな動きをするところから、機体自身が自分で“考えて”、Qダガーアームを動かしているはずだと考えたのだ。


“ヤベぇな。マーシャルを逃がせた以上、俺もズラかりたいところだが、機体の性能差で逃げ切れそうにもねぇし、第一、俺が逃げたら今度はユノー達が…”


 休む事無く繰り出して来る『シラツユGG』のパイクとブレードの斬撃に、ノヴァルナは防戦一方で表情を険しくした。マーシャルを狙って放たれていた誘導弾が途絶えたのは、残して来たノアが、誘導弾を撃っていた戦艦相手に上手くやったと考えたいが、そうならそうで、いつまでも帰らない自分を心配して『サイウンCN』で飛んで来るに違いない。


 ノアまで来させて巻き込むのは、甲斐性がねぇってもんだが―――とそう思った瞬間、転機が訪れた。悪い方にだ。


「おのれ! クィンガ!!」


 クィンガの『シラツユGG』の背後で、Qダガーアームと刃を打ち合っていたユノーが業を煮やし、強引に斬り込もうとして逆にQブレードをダガーに弾かれ、斬撃は免れたものの機体を伸縮式アームに強く殴打されたのだ。


「うあっっ!!」


 激しい衝撃に包まれたユノーの『ショウキ』は、Qブレードを失って、後ろ向きのまま大きく後退した。それを見たノヴァルナは、どこに隙を見つけたのか、手にしていたポジトロンパイクを、『シラツユGG』に向けて全力で投擲する。


 ノヴァルナが投げつけたポジトロンパイク。しかしそれは脇に逸れ、『シラツユGG』の左脇腹の横を掠めもしないで通り過ぎた。思わぬ結果であったのか、体勢を立て直してQブレードを手にしようとするノヴァルナに、逆に隙が生まれる。


「ふん。死に急ぐか!!」


 好機と見たクィンガはポジトロンパイクを上段に、Qブレードを下段に構えて『センクウNX』に仕掛けた。バックパックに発生させた、重力子のオレンジ色をした光のリングが、爆発的な加速を生む。間合いが詰まると、自動防衛システムである両脇のQダガーアームも、毒蛇のように身構えて『センクウNX』にQダガーナイフを向けた。明らかに『センクウNX』のQブレードは間に合わない。


 ところが先に激しい衝撃を受けたのはクィンガの方であった。しかも背後からである。


「むぅあッ!!?? なんだ!!??」


 被弾警報の光に赤く染まるコクピットの、そこかしこから火花が散る。その中でクィンガの視界に入ったのは後方モニターに映る、自分の『シラツユGG』の左肩からバックパックにかけて突き刺さった、『センクウNX』のポジトロンパイクだった。


 それが背後にいた『ショウキ』が投げたものである事に、クィンガが気付いた一瞬後、今度は前方から体ごとぶつかって来た『センクウNX』のQブレードに、機体の胸部を刺し貫かれる。


「!!!!」


 スパークと爆発がコクピットの頭上で発生し、猛烈な勢いで落下した鋭く尖るパネルの破片が、クィンガの体をパイロットスーツごと深く切り裂いた。致命傷だった。ノヴァルナが『センクウNX』のポジトロンパイクを、『シラツユGG』を逸らせて投げたのは、最初から武器を失ったユノーの『ショウキ』に渡す事が目的であったのだ。そして『シラツユGG』が『センクウNX』と間合いを詰めたため、自動防衛システムであるQダガーアームも『センクウNX』からの反撃に備え、そちらを指向して、『ショウキ』のポジトロンパイク投擲に対応が遅れたのである。


「むぐぅう…アッシナ家を…アッシナ家をぉおおお!!!!…」


 主家の未来を守らねばという執念だけで、クィンガは『シラツユGG』の操縦桿をなおも引こうとした。

 だがその直後、コクピットは閃光に包まれ、ノヴァルナの『センクウNX』が飛びずさった次の瞬間に、大きく爆発して散華する。アッシナ家筆頭家老の最期であった。




▶#14につづく

 

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