#11

 

 マーシャル機だけを狙った誘導弾。それは前回、マーシャルが『ガンロウ』に肉迫した際にも、何処からか発射された誘導弾だった。おそらく『ゲッコウVF』の緒元をスキャニングによって取得し、そのデータを記憶させた『ゲッコウVF』のみを狙う特殊弾だろう。


 マーシャルは機体を翻し、『ガンロウ』に照準しようとしていた超電磁ライフルを、誘導弾に向けて連射した。円筒形の誘導弾は次々と爆発して砕けるが、少数ずつが間断なく飛来してマーシャルを釘付けにする。


「クソッ! 俺を敵の旗艦から引き離す気か!?」


 そうはさせじとマーシャルは誘導弾を破壊しながら、後ろ向きに『ガンロウ』を追跡し始めた。『ガンロウ』からも迎撃のビームが放たれて来るが、マーシャルは驚異的な操縦テクニックを見せ、前後から襲い掛かるビームと誘導弾を悉く回避する。


 だが『ガンロウ』を強引に追跡したため『ゲッコウVF』が、味方のBSI部隊が敵の親衛隊と戦っている位置からかなり離れた事こそ、敵の真の狙いだった。マーシャルの眼下に広がる星間ガスの雲海の中から、連続して超電磁ライフル弾が飛び出して来る。


 直前に鳴ったロックオン警報で咄嗟に機体をローリングさせ、かろうじて被弾を免れたマーシャルの『ゲッコウVF』であったが、さらに銃撃が行われた位置から、三機のBSIユニットに突撃を仕掛けられた。それはノヴァルナが発見したタルガザールの旗艦『シェルギウス』から発進した、アッシナ家筆頭家老ウォルバル=クィンガが搭乗するBSHO『シラツユGG』と2機の親衛隊仕様『シノノメSS』である。『シェルギウス』からの特殊誘導弾の連続発射でマーシャルを孤立させ、そこを急襲する作戦だ。


「野郎!!」


 マーシャルは右手に握るライフルで誘導弾を迎撃しつつ、流れるような動きで『ガンロウ』からのビーム射撃を回避しながら、左手でバックパックのポジトロンパイクを掴み取り、二機の『シノノメSS』からのライフル射撃を、そのパイクを振るった刃で弾き飛ばすという、離れ業をやってのける。

 しかし次の刹那、二機の『シノノメSS』の間を抜け、一直線に吶喊(とっかん)して来た『シラツユGG』が両手に握る、二本の大型ポジトロンパイクの斬撃まではさすがにかわし切れなかった。最初の一本目の斬撃はかろうじて打ち防いだが、二本目に右の手首を切断される。


“マズった!!!!”


 『ゲッコウVF』の右手を失ったマーシャルはほぞをかんだ。それは手首を切断された事への不覚ではなく、敵の総旗艦を前にして、またもや気持ちを馳せられ過ぎた事への後悔である。前回もそれで危険な目に遭ってセシルに救われ、説教を喰らったばかりだというのに!


「アッシナ家筆頭家老ウォルバル=クィンガ。マーシャル=ダンティス殿のお命頂戴!」


 勝負あったとクィンガはここでようやく名乗りを上げ、さらに斬撃を繰り出す。


「そいつは願い下げだ!!」


 叫んだマーシャルは、NNLとのサイバーリンクで誘導弾との間合いを計りながら、相手の斬撃をパイクで薙ぎ払って後退、そして敵の『シラツユGG』の脇をすり抜けて来た、『シェルギウス』の誘導弾を蹴り飛ばした。蹴られた誘導弾は『シラツユGG』に向かい、クィンガは慌てて回避行動を取ろうとするが、左肩に命中して爆発。ショルダーアーマーをもぎ取った。


「むうッ!!」


 コクピットを包む衝撃に呻き声を漏らして、クィンガは『シラツユGG』を『ゲッコウVF』と距離を取らせる。だが敵に隙は無かった。両機が離れたのを見計らって、『シラツユGG』の背後に控えていた2機の『シノノメSS』が、超電磁ライフルを発射したのだ。

 マーシャルは咄嗟にポジトロンパイクの刃を盾代わりにして、ライフル弾を跳ね返し、急速離脱を行うが、それを今度は新たに飛来した三発の誘導弾が追尾する。


「マーシャル様!!」


 主君の危機に気付いたダンティス軍のBSI部隊が、援護に向かおうとするが、前述の通り距離が離れてしまっており、さらに自分達も敵の有力なアッシナ軍親衛隊を相手取っているために、すぐには対応出来ない。しかもこの状況を知ったアッシナ軍親衛隊は、逆にダンティス軍の足止めを行い始める。


 三発の誘導弾に追われながら、それに加えて2機の『シノノメSS』から、狙撃を受けるマーシャルは機体を不規則蛇行させて、かろうじて回避し続けていた。だが超電磁ライフルを右手首ごと喪失しているため、射撃による迎撃も反撃も出来ない窮地だ。

 迫る誘導弾に、マーシャルのヘルメット内でアラーム音が次第に大きくなる。センサーとのサイバーリンクで三発の誘導弾の相対位置と距離を頭の中で描くと、振り向く事なく『ゲッコウVF』を宇宙空間で突然バック転させた

 

 マーシャルの『ゲッコウVF』が不意に空中回転した事で、命中寸前だった誘導弾は目標を見失い、左右から迫っていた二発が鉢合わせして爆発する。そして残った一発は反転して襲い掛かったところを、機体を翻した『ゲッコウVF』のポジトロンパイクによって、両断された。だがそこへすでにクィンガの『シラツユGG』が、距離を詰めて来ている。


「おおおっ!!」


 裂帛の気合と共に、クィンガは両手に握る巨大なポジトロンパイクを振り抜いた。マーシャルは反射的に相手と距離を詰め、左手のポジトロンパイクで片方のパイクと切り結んで、手首から先を失った右腕でもう片方のパイクの柄を打ち防ぐ。


 さらに次の一手。それは偶然にも双方が同じ行動を取った。互いに相手の機体を蹴りつけたのだ。これはマーシャルには良くない。マーシャルは蹴り飛ばして間合いを開け、そこにポジトロンパイクの突きを放つつもりだったのだが、双方が蹴り合った結果、距離が開きすぎてしまった。そして先ほどからロックオン警報が鳴り続けている。クィンガ機の背後で超電磁ライフルを構える、2機の親衛隊仕様『シノノメSS』だ。体勢が崩れた状態で距離が開いては、狙撃のいい的でしかない。




“くそ、しくじったぜ…セシル、あとは上手くダンティス家を―――”


 死を覚悟するマーシャル。とその時、最終の照準補正に入っていた『シノノメSS』の一機が、何かに感づいたらしく右を振り向く動作に入った瞬間、右脇腹から機体を撃ち抜かれて爆発を起こした。そしてもう一機も回避行動を取りかけたところを、バックパックと頭部に銃撃を受けて砕け散る。


「なにっ!!」


 驚愕したクィンガが銃撃の合った方向に目を向けると、星間ガスの雲海を切り裂くように突進して来る機体があった。ノヴァルナの『センクウNX』だ。


「あの機体は!?」


 クィンガは『センクウNX』を知っているのか、眉をひそめた。だがそれも一瞬の事で今はマーシャルを倒す事への執念が、クィンガを突き動かしている。護衛を失って、ええいままよと繰り出したポジトロンパイクが、マーシャルの機体の左側腰部アーマーを切断して、左脚関節部を破壊した。それはマーシャルが咄嗟に機体をひねらせたために、関節部の破壊に留まっただけだ。


「くっ、もうひと太刀!」


 とクィンガは叫ぶが、それより先にノヴァルナがライフルの次弾を放つ。




▶#12につづく

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