銀河戦国記ノヴァルナ

潮崎 晶

第1章:天駆ける風雲児

第1部:死のうは一定

プロローグ

 



 黒いベルベットを思わせる闇が広がる、宇宙の深遠………




 その一面に撒かれた、砂粒のような大小の星々の輝きは、悠久の時を経ても存在し続ける………




 無論それとて、いつの日にか終焉が訪れる。しかしそこへ至るまでの時の永さに比べれば、人間の一生など、一つの星が瞬く刹那にも満たぬ、はかなき短さであると言えよう………







 皇国暦1560年、オ・ワーリ=シーモア星系第八惑星ルグラ公転軌道付近、小惑星群フォルクェ=ザマ。


 虚空に浮かぶ無数の岩塊の群れが、視界の下方で海のように広がっている。


 第七惑星サパル周回軌道上の、我が宇宙要塞マルネーを陥落させた敵…イマーガラ艦隊主力は現在小休止に入り、補給と戦力の再編に取り掛かっているはずだ。


「間もなく目標ポイント到達…全機発進に備え」


 ヘルメットに女性の声で通信が入り、両手の操縦桿を軽く握り直す。15才の初陣以来、何度経験しても指先に熱を感じる瞬間だ。

 とその時、全周囲モニター越しに見る小惑星群の左手奥に、幾つもの閃光が走った。味方の正面攻撃部隊が、敵本陣の直掩部隊と接触したのだ。




 二分、三分と時が過ぎ、やがて待っていた連絡が入る。


「目標ポイント到達。全機発進!発進!発進!発進せよ!!」


 全周囲モニターの映像が、小惑星群からリアルに自分が現在いる船倉に切り替わり、その底が両開きになる光景が映し出された。


 三角形に位置取りして小惑星群外縁を航行する、三隻の中古宇宙タンカーの底が開き、まず後方の二隻から三機ずつ、計六機の人型機動兵器、BSIユニットが岩塊の海の中へ向け発進した。関節駆動部を防御する、外殻オプション装甲に身を包んだその姿は、全高が12メートル強の鎧武者のような姿をしている。

 六機の発進を確認すると、ひと回り大きな自分の機体を、先頭のタンカーから発進させる。全機とも武装は基本装備の超電磁ライフルと陽電子矛(ポジトロンパイク)、量子剣(クァンタムブレード)だ。


「全機ステルスフィールド展開。俺に続け」


 そう命じて機体を加速し、六機の部下を抜き去る。七機のBSIユニットは編隊を組まず、次々と迫り来る小惑星を流れるようにかわしながら、思い思いに敵本陣の閃光に向かってゆく。




人と人は和をもって尊しとし

国と国は武をもって尊しとなす




 人生が一瞬の星の輝きなら如何に輝くか。それこそが群雄割拠の銀河に生きる、彼等のありようであった………




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る