狐小路食堂
無才乙三
第壱皿目 油揚げの袋焼き
ひゅうひゅうと冷たい風が吹き、落ち葉が舞う寒空の下。
電飾や電灯がぎらぎらと照らし、騒がしい人々の声に包まれる繁華街。そこから外れた暗い暗い路地の奥、滅多に人の通らぬ道にその店はある。
都会に似つかわしくない瓦葺きの屋根、淡黄灰色の壁に木目の綺麗な扉。小窓にはまった硝子から外へと暖かな灯りが漏れだしている。
そんな店の店先に架けられた藍染めの暖簾をくぐると――人の形をした狐が迎えてくれるという。
「よう、大将。やってるかい?」
眼窩の下に浅黒い隈を浮かべたサラリーマン風の小太りの男が暖簾をかき分けながら店へと足を踏み入れる。暖房器具のような物は見当たらないが、何故か暖かい不思議な空間に男は首を傾げながらカウンターの奥で食材を切っていた主人に声を掛けた。
「ええ、やっておりますよ」
しゃらんと鈴のような音が鳴った気がした。それくらい清廉な声だった。清廉なのはもちろん声だけではない。身なりは見るからに清潔で、身体も細身。稀代の美青年という言葉がぴったりな、女性のように甘い顔をしているその主人は小麦のような金色の短い髪を靡かせながら笑顔で男を迎え入れた。
「ほう。噂では狐の主人と聞いていたが、美形の人間ではないか」
「人の容姿が動きやすいもので。このような格好で失礼致します」
切れ長の美しい目を人懐っこく細くさせ、口元に柔らかな笑みを浮かべた主人が男に座るように促す。
「さ、お疲れでしょう……こちらをどうぞ」
朱色の座布団が敷かれた木製の椅子に男が腰掛けたのを確認すると、主人は両手でおしぼりを男の眼前に差し出す。おしぼりからは微かに湯気が立ち上っており、男の手を包み込むようにして温めてくれた。
「はぁ……温かい。それじゃまずは一杯、酒でも貰おうか」
「それならば、燗にぴったりの酒がございますが」
「ほう日本酒か。いいねえ……」
二重顎の先っちょに二本の指を添えて、思い出を掘り起こすように上を向き、そして再び口を開く。
「俺は人間の作る酒が好きでな。知り合いの猿が山ぶどうで作った酒も美味かったが、あれより好きだ」
「猿酒ですか。雑味はありますが、あれはあれで美味しいですよね」
「あぁ。あれはあれで美味かった。それで、狐主人が勧めてくれる酒はどんなのだい?」
「はい。食前酒ですので、純米大吟醸のこちらをおすすめいたします」
そう言ってどこからともなく取り出した酒がカウンターに置かれる。一升瓶だ。黒光りした瓶に茶色のラベルが張ってある物々しい見た目のそれは、人の世に紛れて様々な酒を飲んできた男の記憶の中にも存在しない酒だった。
「焼酎のような瓶をしていますが、歴とした日本酒なのです」
「ああ……一瞬、黒霧島でも出されたのかと思ったわ」
「こちらは、白ぶどうのように上品で甘い香味のある日本酒でして。低温でじっくりと熟成させております」
「こ、これを燗で……なぁ狐主人、燗ではなく冷やで呑ませてくれ」
「よろしいので?」
「ああ。よろしい、よろしい。俺の舌が冷やで味わいたいと言っている」
「かしこまりました」
ごくりと生唾を飲み込む男の前に差し出された透明なグラスにとくとくと液体が注がれていく。
「いただくぞ」
「ええ、どうぞ」
「……んくっ……こくっ……んく……」
鼻に抜けるフルーティーな香り。
雑味の全くない洗練された味。確かに白ぶどうのような風味がある。ゆっくりと、ひと口ひと口味わいたいはずなのに、止まらなかった。男は口の中で香味を存分に味わいながら喉を鳴らして、ついには全部飲み干してしまった。
「……ぷはーっ。美味い。美味いぞ、狐主人。これは食欲がさらに増してくるな」
男はその瞼を大きく見開きながら瞳を輝かせる。この後も自分の期待に応えてくれるであろう主人に憧憬のようなものを抱き始めたのだ。
「もう一杯何か呑みたいな。ああ、今度こそ燗だ。おすすめの酒を燗でくれ」
「……そうですね、それならこれは如何でしょうか」
まるで次はこれを出すと決めていたかのように男に答えて、素早くカウンターの下から取り出したのは瓶の上部に限定という文字と共に銘柄名がひらがなで書かれた四合瓶だった。
それを見た男は身を乗り出し、再び目をらんらんと輝かせる。
「おお。これなら知っているぞ。山形の酒だろう!」
「ご明察の通りです。こちら、今では吟醸酒といえば出羽桜、出羽桜といえば吟醸酒と言われるほど有名なお酒となっている山形県の銘酒、出羽桜でございます」
といいつつ、手慣れた様子で徳利の中に酒を注ぎ、猪口を被せると、それを湯を張った鍋の中に優しく置く。もちろん瓶は再びラベルが見えるように男の前へと優しく置き直す。
「だが、俺の知っている出羽桜と何かが違うぞ」
「はい。こちらは吟醸ではなく、本醸造となっております」
「本醸造……だが普通の本醸造ではないのだろう? 見慣れない名が書いてある。枯れ……枯れやま……これは何と読むんだ?」
「枯れた山の水と書いて、かれさんすいと読みます。これはこの時期限定のお酒でして、三年間じっくりと丁寧に熟成された、いわゆる古酒でございます」
「ほう、これが古酒か。噂には聞いた事がある。長年熟成させる事によって色が変わり、味がまろやかになると聞くが……」
男の返しに頷きながら鍋から徳利を取り出し、底に優しく手を当てる。その行動に男が不思議そうに問うと、こうする事で徳利内の温度を正確に測る事が長年の経験により適ったのだと主人は笑った。温度は燗が一番美味しく感じる上燗だ。今なら最高の状態でお客様に提供出来ると主人は確信していた。これも長年の勘である。
「では、注いでいきます」
「おう、頼む」
とくとくとく。二本の指で持ち上げた男の猪口に酒が注がれていく。磁器から指に伝わる温度と共に鮮烈な芳香が鼻をつく。燗酒独特のあの嫌な二級酒の香りではない、言葉では言い表せない不思議な香りだ。色は、というと古酒だという割に普通の日本酒と遜色ないようだ。
「……呑むぞ」
「ええ、お愉しみ下さい」
まずは一口。猪口の端に口をつけて、くいっと傾ける。
「…………」
無言でもう一口。いや、徐々に猪口の角度を上げていき、今度は全て飲み干した。
「……美味い」
「ふふ、それはそれは」
「……ううむ。だが、なんと表現したら良いのか。正直に言って今までの燗酒が何だったのかと思うほどだ。上手く表現出来ない事がもどかしい」
「ふっくらとして柔らかな味わいではありませんか?」
「ああ。だが甘過ぎない。米の旨味が口一杯に広がったよ。古酒というものを初めて口にしたのだが……時が経つことによってこのような旨味が出るとは、なんと日本酒は奥深きことよ」
「ええ、全くです。ささ、冷めないうちにどうぞ」
「ああ……」
話しているうちに少しだけ冷め、ぬる燗程度になった酒を男は自ら注ぎ、また一口、二口と味わっていく。やがて男は枯れた山に清らかな水が再び戻ってくるかのような、そんな表情を顔に浮かべた。そして心が徐々に満たされていくように次第にその顔を変化させていく。
「……実は今日は、ちょっと酔いたい気分だったんだ」
「何か嫌な事でもあったのですか?」
「ああ……人間社会は何かと大変でな。もちろん狐主人の仕事も大変だとは思うが、人間ばかりの社会は何というか……汚い。二級酒の安くて不味い燗を飲めば嫌な事を忘れられると思っていたのだが……」
持っていた猪口をカウンターへと置き、ふぅと男は息を吐く。
「だが、ここの燗酒は美味すぎた。上燗もさることながら、ぬる燗はまた違った風味があって最高だった。もっと味わいたいと思ってしまった。酔うのは勿体無いと思ってしまった」
「酒は酔うものという考えを否定する訳ではありませんが……どうせなら何か、嫌な事を忘れる為ではなく、楽しい事、嬉しい事を考えながら、気持ち良く酔いませんか?」
「ううむ……楽しい事か……」
「そうですね、例えば家族との事とか」
「ああ……家族……そうだ。俺は山で待つ家族の為に人間社会で働いているのだ。俺が弱気になってはいけないな」
「……たまに弱音を吐露するのも大切な事です。ですが、あまり人の姿で居ると戻れなくなってしまいますよ」
「ああ……分かっている。気をつけるよ。なぁ、狐主人。やはり俺は酔いたい。他に無いのか。もっと美味い酒が飲みたいのだ……気持ち良く酔える酒を出してくれ」
「……はい。かしこまりました」
ふっと優しい笑顔を浮かべた主人が次に差し出したのはラベルに赤い達磨の描かれた丸みを帯びたボトルだった。男は驚いた顔で酒と狐主人の顔を往復する。それから生唾をごくりと飲み込み瓶の側面にそっと手を当てた。ラベルには古酒と書かれている。
「茶色い……なんだこれは……さっきの枯山水と同じ古酒なのか? これじゃまるで……まるで……洋酒ではないか」
「こちらは、達磨政宗という銘柄の十年古酒でございます」
「十年……三年と十年でこんなにも色が変わるものなのか」
その酒はグラスに注がずとも分かる洋酒のような色合いをしていた。達磨政宗は、色合いもさることながら、味も日本酒独特の風味と洋酒のようなコクのある甘味を併せ持っている古酒ブームの火付け役とも言われている名酒なのである。
これが不味い訳がない。
男は主人にせがむようにグラスに酒を注がせると嬉々とした表情でグラスに口をつけた。
「くぅ……なんて濃醇な味なんだ。これが日本酒……これが古酒か。味はシェリーや老酒を連想とさせる味だ」
「ええ、そのように仰るお客様は多いですね。以前、来店された日本酒が苦手なお客様にもお出ししたのですが、これならイケると喜んでおられました」
「だろうな。俺も日本酒と言われずに黙って出されたら分からなかったかもしれない。あぁ、これに合うツマミが欲しい。狐主人、何か出してくれないか」
「では、先付をお出しましょう。五種ございますが、おすすめは角煮でございます」
「ほう。角煮とな?」
「はい。お客様が飲んでいるその古酒は、先ほどもお客様自身が仰っていた通り、中国の老酒によく似ております。ですので中華料理などの濃い味付けのお料理とよく合うのです。それにヒントを得て、鰹で角煮を作ってみました」
「カツオか……ふむ、ならばそれをもらおう」
「はい。少々お待ちください」
コンロに置かれた鍋の蓋を開けるとふわりと蒸気が舞う。それから狐とは思えない人間顔負けの器用な箸捌きで、大葉を乗せた小鉢にちょいちょいと角煮を盛り付けていく。一口大のぶつ切りにされた鰹がちょうど良い具合に濃い茶色に染まっていて、それがまた醤油独特の芳しい香りを放っていた。
主人はカウンターに小鉢を置き、左手のひらを差し出してニコリと微笑む。
「はい。どうぞ、お召し上がり下さい」
「んほぉ……こりゃ美味そうだ」
小鉢を受け取った男も、主人と同様に器用に箸でひとつ摘まみ上げ、そして口の中へ放り込む。その瞬間、男の口一杯に濃口醤油と砂糖、そして日本酒で作り上げられた甘辛のタレがじんわりと広がる。それだけではない。奥歯で噛み締める度に、ほろりと崩れた身から凝縮された鰹の旨味が解き放たれるのだ。
「うめぇ……うめぇよこれ……」
「お酒も一緒にどうぞ」
「ああ!」
主人に言われた通りに角煮を一口頬張り、何度か味合うように咀嚼した後、一口酒を飲む。ごくりと飲み込んだ男の顔はこれでもかという程、満面の笑みになっていた。もう先ほどの落ち込んでいた気持ちは男から消えて無くなっていた。主人の料理と美味い酒が彼の心を柔和にしてくれたのである。
「なるほど、これは合う。すこぶる合うぞ!」
「それは良かったです。いいお酒にはそれに合う食事をお出ししたいので」
「……ふむ。最初にお通しを出さなかったのはそういうわけか」
「はい?」
「客の頼む酒に合わせて五種の先付の中から薦めているのだろう? そうじゃなかったら、席についた瞬間にお通しを選ばせるはずだ」
「……さすがはお客様。おっしゃる通りです。淡麗な爽酒には、さっぱりとしたお通しを、濃厚な熟成酒には濃い味付けの先付をお勧めしております」
そう主人が返すと男は自嘲気味に笑い出す。
「はは、さすがだな。奴の勧めた店なだけはある」
「やはり、どなたかのご紹介で?」
「ああ……熊の、熊吾郎。よく来るだろう?」
「熊吾郎さんのご紹介だったのですか。ええ、ええ。よく来られますとも。うちの常連さんでございます」
「都会のあんな裏通りにそんな凄い店がある訳がないと、正直期待はしていなかったんだが、いやはや……俺もまだまだだな」
男は片肘をカウンターに突きながら、ふうっと溜め息を吐く。
「凄い店ではないですが、お褒めに預かり光栄です」
「凄い店だよ正直。なんて言ったって、森一番の食通の熊吾郎が常連なんだ、誇っていい。しかし納得だ。奴に、生きているうちに一度は行けと言われたのが気になって来てみれば……予想を超えたわい」
「それはそれは、ありがとうございます」
「予想を超えたところで、とりあえずこの店のおすすめを貰おうか」
「かしこまりました。少々お待ちを」
そうして主人が厨房の奥に消え、しばしの間、待っていると、料理を片手に主人が再び男の前に現われた。
「お待たせ致しました。こちらが当店のおすすめとなります」
黒と茶のコントラストが美しい備前焼きの板皿に二つ重ねるように乗せられ、その上に南天の葉が添えられた料理が男の目の前に出される。見覚えのある見た目だが、男は聞かずにはいられなかった。
「これは?」
「油揚げの袋焼きでございます」
「油揚げ、ね。なるほどな、狐主人の大好物がこの店のおすすめというわけか」
「……とりあえず一口。召し上がってみてください」
「ああ、そうするよ」
男は再び器用に箸を使い、油揚げを持ち上げる。程よく焦げ目の付いた油揚げの切り口からは野菜や茸のようなものが見えた。それを見ながら大口を開けて、角の方からぱくりと一口噛みちぎる。
その瞬間パリッと心地よい食感が男の口元で軽快に鳴った。
「はふっ……はふ……んむんむ……」
「いかがでしょうか……と聞くまでもなかったですね」
男は自然と顔を綻ばせ、至極幸せそうに顔を緩めている。
「ああ……最高だ。皮はパリッと中はフワッと。閉じ込められた野菜のジューシーな旨味が口の中に
そこまで言うと、黙って二口目、三口目、四口目を口に入れ、最後の一口を飲み込んだ。
「あぁ……あっという間に一個食べ終わってしまった。狐主人、このプチプチした感触は……明太子だな。少し、ほんの少しだけ明太子独特の生臭さが気になるが、キノコと野菜が絡み合ってすごく美味いぞ」
「……ではもう一個は是非こちらを付けて食べてみてください」
主人はカウンターの下から取り出した瓶詰めの蓋を開けると、赤色の何かを菜箸で取り出し、油揚げの上にちょこんと乗せた。
「これは……?」
男は訝しげに油揚げに顔を近付け、凝視する。食べるのを楽しみにしていたもう一個に謎の赤い物体を乗せられ、少し警戒しているようだった。
「こちらは自家製の柚子胡椒でございます。赤唐辛子と柚子で作られておりますので、こんな見た目をしていますが……味は保証します。明太子との相性も抜群ですよ」
「柚子胡椒か……では頂くとしよう」
箸の先で柚子胡椒を油揚げに馴染ませるように広げてから、一口ぱくりと食べ――男の動きが止まった。
「…………」
「いかがでしょうか?」
「……狐主人」
「はい」
「……美味い」
「一個目と二個目、どちらが美味しかったですか?」
「……聞くまでもないだろう。二個目だ」
「それは良かった。お口に合ったようで幸いです」
明太子と柚子胡椒。一見すると、合わないようにも思える。だが、この二つは合わないはずがないのだ。なぜなら両方とも唐辛子を使用している。明太子は唐辛子を主として漬け込んだもの、そして柚子胡椒は唐辛子と柚子を原料にしている調味料。
赤い糸で結ばれているかのように、決してお互いの辛さの邪魔はしないし、柚子胡椒が明太子の臭みを消してくれる。まさに出会うべくして出会った二つなのである。
男は箸を皿に置くと、主人の顔を見て真面目な顔で言い放つ。
「それで、これに合う酒は何を見繕ってくれるんだい?」
「そう来ると思っておりました」
新たに差し出された酒を飲みながら、男は至福のひと時を味わった。
「ああ……たまらない……」
「これで、単に私の好物だから油揚げをお出しした訳ではないという事が分かって頂けたでしょうか?」
「ああ。煮てよし、焼いてよし。油揚げは日本酒飲みの味方だという事が、よぉく分かったよ」
その後、様々な料理と美味い酒を堪能し、男は顔を赤らめるとテーブルに突っ伏し、寝てしまった。まさに夢心地である。
しかし主人は起こそうとはしない。気持ちよく眠る男の背後にまわり、薄手の毛布をふわりと掛ける。
それからカウンターの中に戻り、いそいそと仕込みを開始するのであった。
◇
――トントントン。
包丁でまな板を叩く小気味良い音が男の耳に届いた。
「ん……んぁ……」
男は涎を垂らした口を手の甲で拭いながら、虚ろな目で上体を起す。それに気付いた主人は包丁をまな板に置くと男の方へ向き合った。
「これは申し訳ございません。起してしまいましたか?」
「あ、ああ……すまない……寝るつもりは無かったんだ。つい気持ち良くなって寝てしまった。言っておくが狸寝入りではないぞ。金なら持っている。狐主人、会計を頼む」
そう言って男は立ち上がり、背広に入れていたサイフを手に取る。
「……御代はもう頂きました」
「ほぇ?」
主人のありえない言葉に男はまだ自分が夢の中にいるのではないかと錯覚し、寝ぼけたような声で返事をした。
「え、いや、金ならあるぞ。熊吾郎の薦めた店だからな。少し多めに持ってきている。もしや家族の話を気にしているのか? それも気にしなくていい。これだけ美味い料理と酒に金を払わなかったらそれこそ罰当たりだ」
「いえ、美味い酒と食事に舌鼓を打ち、お客様が笑顔になってくれた。それが最大の御代で御座います。それと次回は是非、ご家族皆さんでお越しください」
「……本当にいいのか?」
「ええ、もちろんです」
「あ、ありがとう……本当に家族で来てもいいのか……?」
「もちろんです。さ、入り口までお送り致します」
主人は腰高まであるカウンタードアから出ると、男を玄関まで見送る。
「今日はありがとう。改めて礼を言う。料理と酒で嫌な事を少しだけ忘れられた気がしたよ」
「それは良かった。是非またいらしてください」
「ありがとう。また来るとするよ」
男が幸せそうな顔で微笑むが、主人は心配げに眉をひそめた。
「ですが、本当に気をつけてくださいね。この店は動物しか入店できない店。人間になってしまったら店を見つけることすら出来なくなってしまいますので」
「ああ。もちろん気をつけるよ。ここの料理と酒を口にすることが出来なくなるなんて辛いからね」
ここは狐小路食堂。美味しい料理と酒を提供する、人間には見えない――動物の為だけの秘密の食堂。
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