弥生

3月1日  豚の日

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 早いもので今年、2017年に入ってから早くも2か月の月日が流れた。すでに一年の内の6分の1が経過したわけだが、諸君らは今日と言う日を大切に過ごしているだろうか。私はと言うと、この小説を書き始め、毎日書いているうちにネタが枯渇し頭を掻きむしる一方だが、私がエタる事を楽しみにしている不届きな連中がいる以上、意地でも続けるつもりである。


 さて、世の中にはベジタリアンと呼ばれる人々がいる。毎日の食生活の中、一切の肉を受け付けない、あるいは卵やミルクですらも絶っている、いわば菜食主義の人々だ。肉料理の好きな私には到底考えられない生活だが、諸君らはどうだろう。もしこれからの人生で、鳥、牛、豚の一種類しか食べれなくなるとしたらどれを選ぶだろうか。私は間違いなく豚を選ぶ。本日、2017年3月1日は『豚の日』である。




 豚の日は1972年、教師であるアメリカのエレン・スタンリーとメアリー・リン・レイブ姉妹が人類にとって最も聡明に飼いならされている豚の正当な地位を認めることを目的に制定し、現在は豚の品評会が行われている一日だ。


 日本ではあまり知られていない一日ではあるが、この記念日が発足したアメリカでは地域ごとに様々な催し事がある。愛鳥週間であるならば、ケンタッキーやファミチキを食べる事は自粛するだろうが、この豚の日の多くは逆に豚を食べる地域が多い。豚肉を多くの人が愛し好んで食べている事がわかるだろう。


 だが、先に挙げたベジタリアンではないが、豚を食べない地域も存在する。それはイスラム教を信仰した地域の事である。イスラム教において、死肉、血、邪心の供え物、そして豚を口にすることを禁止している事は余りにも有名だ。

 うま味調味料、味の素が原料に豚の酵素が入っている事を公表しないままインドネシアで販売してしまい、多くのイスラム教徒の怒りを買い、ついには2001年に現地日本人社長を含む数人が逮捕されてしまった事件もあるほどである。


 イスラム教で豚肉を禁止した理由ははっきりとは明かされていないが、二つの仮説を挙げるならば、まず豚は生では食べられないという事。よく焼肉屋に訪れると、牛は赤くても平気だが豚は駄目だと言わないだろうか。これは事実であり、豚は伝染病を媒介する。故に適切な調理のできない、ましてや気温の高い中東では禁止せざるを得なかったとの仮説である。

 もう一つは豚の生活にある。繁殖力の強い豚は食事をし、寝て、あとは何をして過ごすかと言えば交尾一択である。荷台を引く牛や卵を産む鶏に比べ労働力にならず、禁欲の戒律に厳しいイスラム教には怠惰な動物として捉えられていたのかもしれない。


 日本では太っている人や、醜い人相手に、おまえはブタだと辛辣な言葉が投げかけられてはいるが、実際豚は異性との交遊が盛んなリア充であり、体脂肪率も食用に太らされていたとしても14~18%しかないガッチリ体型である。いつかはブタと言われる事が誉め言葉になるやも知れぬ。




*日本では1日に約4万五千頭。世界では約360万頭。

 70億人の人類の為に、1年間で実に、約13億頭の豚が屠畜されている。普段の何気ない食事も、当然の事ながら一匹の命の上に成り立っている。それを知らない事は罪ではないが、目を逸らすことは悪である。毎日の食事に感謝を。さすれば今宵のとんかつは格段にうまくなるであろう。




 今日は豚の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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