107 酒、木、死人

薄暗く湿った場所だ。壁面にはヌルヌルしたものがへばりつき、通路の中心には汚水がゆれている。下水道で、どこからか話し声が聞こえる。ザラザラした気味の悪い声だ。

「桜の木の下には死体が埋まってるなんていうぜ」

「それはただのお話だ」

「分かってるぜそんぐらい! でもよ、公園に生えてるやつを片っ端から掘れば、1つぐらいあるかもしんねぇよ。そいつはやってみなきゃワカンねぇ」

声のする方へ行くと、ドブ川の汚臭に加えて、鼻を刺す腐臭と、それに混じって酒の匂いが漂ってきた。

「そんな面倒なことするより自分で作った方が早い」

声はすぐ近くから聞こえていた。ボチャン、と、水が弾ける音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る