96 水、毒、ふくらはぎ
水の中に浮かんでいる。目の前で揺らめく光は太陽か?
「この毒取りで死んでも、文句言うなよ」
誰かの言葉を思い出した。若く、自身のある頼もしい男の声だ。その男は今、仲間とともに水の中に浮かんでいる。俺もその一人だ。
岩に打ち付ける波の形が変わった。潮が引き始めた。
「いくぞ」
男と仲間たちは一斉に潮の引く水面を目指した。
動き出したのは俺たちだけではない。水底を這うものたち、巨大なくねるものたち、それらも水面へ駆り立てられる。
赤く棘のあるものが今まさに自ら殿とした時、出んとした時、リーダーの男がそれを掴み、返す手でその毒棘をふくらはぎに刺した。仲間たちもそれに続き、似た生き物を己の身に刺す。俺もだ。太い棘はやすやす皮膚を突き破り、毒が体を回る恐怖が首を掴んだ。
「この毒取りで死んでも、文句言うなよ」
俺はその言葉になんと返したのか。
気づくと岩の上で寝ていた。地の底に貼り付けられ、陽の光は肌を焼き焦がす。
「よお、気がついたか」
彼の声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます