40 着物、水、盗賊

この馬車はよく揺れる。貧乏商人の使い古しで、道も整備されていない、さらに盗賊に追われてなりふり構っていられないとなれば当然か。

「ウドリャァダチャァガレャー!」

「ギャハハハハ!」

獣じみた叫び声笑い声が車輪や蹄の立てる音に紛れて聞こえてくる。荷台から顔を出すと、後からやせ馬に乗って皮の服を着たむさ苦しい男たちが追いかけてきている。顔が毛むくじゃらで、その横には矢筒。

慌てて顔を引っ込めると、すぐ近くで小さな衝撃があった。矢が荷台に刺さって貫通している。

「おいもっと急げ! 追いつかれるぞ!」

「こんなオンボロじゃ無理ですよ!」

無茶振りに御者が悲鳴をあげた。帰ったら解雇だ。こうしている間にも2本目の矢尻が木目から顔を出している。狙いは悪いようだが数が多ければ脅威には違いなかった。

「おい! もっと早くしろ!」

何も返事がない。決死の覚悟で頭を出して御者を見るとそこには誰もいなかった。これまたやせ馬が一頭狂ったように走っているだけだ。

あっけにとられているといきなり馬が消え、体が浮いた。とっさに積荷にしがみついたまま、馬の悲鳴と共に俺は気を失った。


息ができる。いきなり視界が明るくなり、俺は目を覚ました。灯台、床の間、ふすま、畳。どうやらここは誰かの家か。思い出したように体が痛み出した。

「ガァ痛ッ」

とっさに体を見ると、薄い布団がかけられていて、着物も見慣れた一張羅から寝具に変わっている。

痛まないよう静かに体を横たえ、どうにかものを考えようと目を瞑っていると、思考はすぐにまた暗闇に沈んでいった。誰かに助けられたのか? なぜ? 積荷は? 御者は? あいつは?

明かりこそ付いているものの、誰の気配もない。眠りに入る直前に、水の流れる音を聞いた気がした。

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