最後の魔女89 幻想花

「で、あんたはその花を探す為に城を飛び出したって言うのね」


 あの後、気絶していた女の子を宿屋にお持ち帰りした。別に変な意味はないよ。勿論外行きの装いだったから、そのままにはベッドに寝させられないから脱がせはしたけどね。幸いにも広い部屋だったからベッドは空いてたしね。そして朝になって目が覚めた所を質問攻めにしている状況。

 今度は逃げられないように、ベッドにぐるぐると見えない紐で縛っておいた。


「助けて頂いてありがとうございました」

「そうよ、感謝しなさいよね。でなけりゃ、今頃貴女はモンスターのお腹の中よ」


 またそうやってリグはすぐ怯えさせるんだから⋯。

 そういえば、リグは鉱山都市トレランスに来てからその姿を幼女のそれから綺麗なお姉さんに姿を変えている。前回の剣王の一件があったかららしいけど。

 見た目お姉さんくらいの人からお姉様と呼ばれるのは少し変な気もするけど。


 にしても、呪怨か。


 私も長く生きてる身。呪怨にかけられてしまった人を何度か見たことはある。救ってあげたこともある。

 私の治療なら対象を呪怨がかけられる前に戻すのだから聖女様のように治すのとは根本的に仕組みが違う。だけど、必ず治せる訳ではない。過去に一度だけ呪怨自体の力が強すぎて私の魔法を拒絶したことがあった。

 結果は呪怨を解呪する方法を探している内に間に合わずにその子は死んでしまった。今でもその時の無念さはよく覚えてる。


 私が無力だったが為に⋯。


 今回のシルフィの母親の呪怨が私に解けるかどうかは正直分からない。だから『私に任せなさい』なんて無責任なことは言えない。それに、解呪の素材である幻想花。確かに聖女様の言ったことは間違っていない。だけど、幻想花から作られる解呪薬は、万能じゃないんだよ。呪怨の種類によっては効力を発揮しない可能性がある。私の魔法と同じでね。だから、本当の意味で万能薬じゃないと絶対はない。もしかしたら、私もしらない呪怨が存在し、万能薬でも治せない可能性はあるかもしれない。私が呪怨について猛勉強したのは、40年以上も前なのだから。

 それと、幸いにも私は万能薬の材料を持っている。

 私には作れないけど、あの子を呼べば作れないことはない。


 だけど⋯⋯


「お姉様?」


 相変わらず勘がいいんだよねリグは。私の心境の変化を感じとったのかしら。



「リグは、シルフィと一緒に幻想花を探してあげて」

「あれ、お姉様は行かないのですか?」

「私は別にやることがある。代わりにこの子を連れて行って」


 《眷属召喚サモンリリナール


 私の掌の上に可愛らしい花の妖精さんが舞い降りる。

 フリフリの花のドレスを着て、一回転して見せると、お辞儀をして、私のほっぺにキスをする。


「リアちゃん、お久しぶりよ」

「ん、リリナも久し振り」


 彼女は花の妖精をイメージして創造した子。花のことなら彼女に任しておけば大丈夫。きっと、幻想花も見つけてくれると思う。


「じゃあ、リグにリリナ、よろしくね」


 ドアの外まで見送り、部屋の中は私一人になった。

 取り敢えずまずは、朝風呂かな。うん、せっかくいいお風呂があるんだもん、入らないと損よ損。


 湯船に浸かりながら、思案する。


 どうするかなぁ⋯⋯。


 ここまで私が渋っているのには理由がある。

 万能薬を作るには、錬金術師の力が必要になる。私には当然そんな知識はないから作れない。錬金術師の知り合いもいないしね。まぁ、仮に居たとしても無理だろうけどね。万能薬って、たぶん、錬金術師が作れる薬の中でかなり難易度が高いはず。並の術師では間違いなく失敗してしまう。逆にあの子なら間違いなく作れると思う。でもその為にはかなりのリスクを負わねばならない。それは私の身の危険に関わるような相当なリスク。でもそれは私が一人が耐え凌げばいいだけ。それだけで一人の命が救われるかもしれないのならば迷うことはない。


 そうだ、迷うことはないよ。


 身も心も清めた私は、再び召喚を使う。


 《眷属召喚サモンアルナ


 パーっと光り輝き、すぐに収束する。

 直後に柔らかな感触が私を包み込む。


「はぁぁぁ、リア様ぁぁぁあ!」


 うぐぐ、息が⋯⋯。


 私は召喚したアルナの豊満なバストによって窒息死の危機に陥っていた。このままでは本当に息が出来なくて死んでしまうので、思いっきり跳ね除ける。しかし、アルナはびくともしない。

 降参の意味を込めて頭を三度タップする。

 漸く離してくれたかと思えば今度は私に強引にキスを迫る。目にも止まらぬスピードに怪力。私は光速の平手打ちをかますも、簡単に掴まれて唇を奪われた。

 私はされるがままに彼女の気の済むまで無抵抗でいた。いや、抵抗しても意味がないからだ。

 アルナに魔法は効かない。だから、私には成す術がない。


「ぷはぁぁー! 久し振りのリア様、美味しう御座いました」


 はぁはぁと吐息を漏らしながら顔を朱に染め、色っぽい仕草でヒョコンと座り込む。

 倒れたいのは私の方だよ!

 だけど、何とか耐えきった。偉いぞ私。

 こんな姿、リグには見せられないからね。いなくてよかったよ。さて、これだけの身の危険を冒してまで呼んだんだからキッチリ仕事してもらうよ。


「万能薬、作って」

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