最後の魔女83 剣王2

 逃げ帰ったドレイクは、王都カームベルグに緊急要請する。

 それは、対魔消失結界ジャッジメントの要請だ。

 魔なる者の動きを封じることが出来る結界。例え相手が高位悪魔や上級魔族だとしてもその動きをある程度抑制することが可能だった。


「剣王殿。結界ランクは如何程に?」

「そんなもん、出来るだけ高ランクに決まっておろうが」

「そ、それ程までに今回の相手は大物なのですか⋯」

「ああそうじゃ。最低でも六以上で準備せえ」

「え、六ですか? 流石にそこまでのランクになりますと教皇様のお伺いを立てないと⋯」


 対魔消失結界ジャッジメントを展開するには、産出の少ない希少な紅玉結晶と結界師の力が重要となる。

 熟練の結界師が5人集まり、やっと最低ランクの一の発動が可能と言われていた。王都カームベルグはそんな結界師を最も多く召し抱えていた。それでもランク六の結界を張るには単純計算で30人必要で、この数は王都カームベルグにいる結界師の8割近い数字だった。

 悪魔、魔族双方とも自分たちの命が脅かされる可能性のある結界師の存在を疎ましく思い、最優先の抹消ターゲット認定されていた。故にその存在は秘匿され、厳重に警護された施設にて半ば幽閉に近い形で隔離されていた。


「つべこべ言わずに出来るだけ早く準備せい! 結界の媒介に必要な贄は儂の方で準備する。頼んだぞ」


 まったく、現場の苦労を知らん役人連中はこれだから使えんのじゃ。今ここで彼奴らを逃すことがどれだけ我等人族にとっての脅威となるのか、まるで分かっとらん。こちらから仕掛けた以上、いつまでもこの場所に留まるとは思えん。再度仕掛けるならば早い方がいいんじゃ。


 ドレイクは怪我をしたままではあったが、急ぎ冒険者ギルドへと向かった。そこで近隣に住まう厄介なモンスターの生息状況をギルドマスターに確認した。無論結界の媒介に使う為だった。

 結界を構築する際に必要なもう一つの素材は、良質且つ魔素に富んだ固体。今回ドレイクがそれに選んだのはドラゴンだった。


 仕入れた情報は、最近発見されたダンジョンに生息するドラゴンの生息情報。ドラゴンは、この世界に生息するモンスターの中では最上位に分類され、個体差はあるものの最大の強さを誇っていた。

 その話を聞いたドレイクは、念には念を入れ、弟子の一人に連絡を取り、明日の朝共にダンジョン攻略に乗り出すのだった。


 そうして準備に3日を費やしたドレイクは、己が敵である者たちの根城月の都と言う名の宿屋を訪れていた。

 まんまと彼女たちを騙しきり、件の洞窟まで誘い込むことに成功した。



 念入りに準備したんじゃ。何も問題はないじゃろう。

 問題があるとすれば⋯⋯あの少女かの。ただの少女とは思えぬ。あの脅威な強さを持っている悪魔を従えているんじゃ。教皇様も注意するように言うておったしの。


「私たちは何も悪さをしてない。だのにその命を奪うの?」


 確かにそうじゃ。儂はここ数日の姿しか見ておらんが、何も問題となる素行は見られなんだ。もしかすれば、儂らが考えているような危険な存在ではないのかもしれん。じゃが、ここまで来てしまった以上、もうそんなことはどうでもいいんじゃよ。


「うむ。もちょっと残虐非道ならばこちらもやり易いんじゃがな。儂も反対したんじゃぞ? じゃが教皇様の命は絶対なんじゃ、悪く思うな」


 嘘は言うとらん。じゃが、儂自身もお前たちを見逃すことは出来ん。

 儂はこの戦いに命を賭けておる。そうまでしてでも負けられない一戦だと、ここが死地とさえ思っておる。


 ドレイクは、飲めば一時的にその能力を大幅に増加してくれる秘薬を飲んでいた。しかし、その反面。寿命を大幅に削ってしまう諸刃の剣でもあった。

 すでに高齢の身であるドレイクは、死を覚悟していた。


 《さぁ、一緒に地獄へ逝ってもらうぞ!》



 対魔消失結界ジャッジメントのおかげで、警戒していた悪魔は全く身動きすら取れてはおらん。もう一人の眷属は思惑通り、周りの者に相手をさせておけばいい。実力は段違いじゃから多少の時間稼ぎくらいしか出来んじゃろうが、短期決戦狙いなのは寧ろこちらの方じゃ。

 これで、なんの躊躇いもなく悪魔の主と一騎討ち出来よう。


 壮絶な魔法の連打。一撃一撃が即死級の攻撃。


 まさか、悪魔の主の正体が魔女とはの。底が知れんわい。

 秘薬により感知速度や反応速度も向上させてるはずなんじゃが、押しきれん。

 魔女と対峙したのは初めてじゃが、話に聞いていた魔女とは、使える魔法は精々10個以下だったはず。しかし、目の前のこの少女は何じゃ。数多の属性を行使しただけでなく、同時⋯いや、この場合は複合魔法と呼ぶべきじゃろうか、それだけではない。広範囲の魔法を次から次へと放ってくる。おまけに防御においては儂の攻撃を持ってしても傷の一つも与えられんとはの。


 全く、馬鹿げておる。

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