最後の魔女78 共闘

 ここは、シュメルハイツの宿屋の一室。

 私は、リグの壮絶な生い立ちをただ黙って聞いていた。私がこんなにも長く人の話を聞いていたのは初めてかもしれない。

 ていうかリグって前世が神様って何それ。これ、私跪かなくちゃいけないんじゃない? 服従契約結んじゃってるんだけど。神様にそんなことしていいの?


「お姉様?」


 そんな私の心情を知ってか知らずか下から可愛らしく覗き込むリグ。


 はぁ⋯。まぁ、今更もう遅いし、罰が降るならとっくに下されてると思う。


「そういえば、さっきから凄く気になってたんだけど。その姿なに?」


 リグと言えば幼女の姿がデフォルトだったのだけど。今の姿はとっても美人のお姉さんなのだ。

 あの時、剣王を退けた時の姿形だった。悪魔って、人々を惑わす為に色んな姿を取るって聞いたことがあるけど、もしかしてそうゆうことなのだろうか。


「曖昧なんですけど、前世の私の姿みたいです」


 だから近いって。

 顔を引っ付けてくるリグを突き放す。

 幼女が戯れてくるなら世間的にも問題ないのだろうけど、成人したましてや美人さんが戯れてくるのは姿的に駄目だと思う。アウトだよ。


「ずっとそのままの姿?」

「お気に召しません? この通り、自由自在ですよ」


 数秒足らずで大人から子供への逆再生を見させられる。着ている服も身体に合わせて自動調整されてるけど、何その素材。ちょっと欲しいかも。私も変身みたいな魔法は使えるけどそれに近いのかな。でも前世が凄い美人なんて、少しだけ羨ましい。


「誰か来たにゃ」


 駄猫のにゃもが扉に視線を送る。

 規則正しくコツコツと階段を上る音。

 二階は私たちのいる部屋しかない為、他の客ではない。ましてや、外は真っ暗で深夜。宿屋の女将さんのはずもない。


『コンコン』と扉がノックされる。


「⋯⋯私が出ます。お姉様は後ろに」


 リグがいつでも反撃出来る様に警戒しつつ、ドアをゆっくりと開ける。対する私は敵意の類は全く感じ取れないから特段警戒はしていなかった。


 ドアの先にいたのは、見たことがあるお爺ちゃんだった。恐らく、今一番警戒しなければいけないであろう人物が後ろ手に手を組みそこに立っていた。


「邪魔するぞい」


 お爺さんは、さも当たり前のようにズケズケと中へと入る。警戒しているリグなど気にも留めずに。

 そのまま中央のイスへと座る。


「そう怖い顔しなさんな。別に戦いに来た訳ではないんじゃ」


 お爺さんに勧められたので、私もイスに座る。


「ちょ、お姉様! そいつは危険です! 早く離れて下さい」


 確かに危険な相手ではあるけど、敵意を感じないし、何より腰に携えていた剣も持ってきてないみたいだしね。


「なんじゃ、この少女は従者ではなかったのか?」


 リグが『あっやば』みたいな顔して口を手で押さえる。もう遅いよ。どうせ、従者じゃないことは分かっているはず。カマかけられてるだけだよ。


「で、何の用?」

「話が早くて助かるわい。さっきも言うたが、今日は戦いに来た訳ではないんじゃ」


 『バシッ』っとリグが机を叩く。


 うん。軽く叩いたんだろうけど、机ヒビが入ったからね。弁償させられるんだから、お願いだから壊さないでね。


「数日前に殺し合いしておいて、信用出来るわけないでしょ!」


 まぁ、リグの気持ちも分からなくはない。だけど、たぶん大丈夫だと思うよ。


「リグ、大丈夫。仮に何かあっても私は強いから」


 と、リグを安心させる言葉を話してみる。


「やはり、お嬢ちゃんも強者か。そいつは助かるわい」

「そうよ、お姉様は私なんかよりずっとずっと強いんだからっ、アンタなんて一瞬で灰よ!」


 その後なんとかリグを宥めて席へと座らせる。

 お爺さんこと剣王ドレイクは、予想もしないことを喋り出した。


「儂と一緒にモンスター討伐をして欲しいんじゃ」


 てっきり、再戦の果たし合いを要求されるかと思いきや。えっと、何、一緒に戦ってくれ?


「寝言は寝ていいなさい。何でアンタなんかの言うことを聞かなきゃいけないのよ!」

「それも一理あるがな。なに、お前さんたちにとっても悪い話じゃないんじゃ」


 詳しく話を聞くに、ここシュメルハイツから南西五十km程の所にダンジョンが新しく出来たそうな。

 そのダンジョンには、どういった訳か最奥の神殿広間にボスが一体いるだけで他にモンスターがいないと言う。

 噂を聞きつけた冒険者たちが討伐に向かうも誰一人戻って来ることはなかった。原因の調査に向かった調査隊の報告によると、中に入ればボスを倒すまで出ることが出来ない仕組みとなっていたようだ。


 以前、谷底ダンジョンを攻略したことはあったけど、その時のボスは凄く弱かった。ダンジョンマスターは別格だけど。


「お爺さん強いのに私たちの力が必要なの?」


 だって、このお爺さんあれだけ戦えるのにダンジョンくらい余裕なんじゃないの?


「そのボスなんじゃがな、どうやら沸き続ける他のモンスターを全て自分の養分として取り込んでおるようなんじゃ。そのダンジョンが出来てから既に一週間近く経過しておる。儂は相当な強さになっていると見ておる」

「放っておくとどんどん強くなる」

「そういうことじゃ。話が早くて助かるわい」

「アンタ馬鹿じゃない。私たちには全く関係ないじゃない。何が関係あるよ。ここが危ないのなら、ここから離れるだけ。仮にソイツを倒したとしても私たちにメリットはないわ」


 私はリグの目を見る。

 リグもああは言うけど、内心はきっと助けてあげたいと思ってるはず。私には分かる。


「手伝ってあげよ、ね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る