最後の魔女60 十二星

 フラフラの状態のリグ連れて宿屋まで行けないと判断した私は、転移で宿屋の自室へ移動する。


 身体に触れてビックリした。どう見ても40度以上の高熱だったから。


「リグ、死んだら許さないから」


 意識も朦朧としていて、うわ言のようにさっきから何かを呟いている。治癒ヒールを施すも、状態は変わらない。普通の風邪じゃないみたい。

 取り敢えず、ベッドに寝かせて安静にさせる。

 もし、明日になっても容態が回復しないなら聖女様であるサーシャの所に行こう。


 1匹留守番していた駄猫に状況だけ説明して、私は夜通しリグの看病をしていた。


 あぁ、シェリちゃんも復活させておかないとな⋯


 慣れないなぁ⋯


 今まで何度か眷属シャナリオーゼがやられてしまったことはあったけど、今回みたいな悲しいのは初めてだった。それも相まってか、先程から涙が止まらない⋯


 ⋯⋯。


 泣い⋯てる⋯の?  ⋯⋯お姉様?


「⋯えっ?」


 気が付けば朝になっていた。寝ていた実感はない。たぶん、色々考えながらボーッとしてたのか。


 あれ⋯?


「リグ、身体はもういいの?」


 昨夜までの姿とは違い、いつもの少女の姿になっていた。


「はい、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」


 私はリグを抱きしめた。


「え、ちょ、お姉様!」


 リグは恥ずかしいのがジタバタともがく。だけど、私は離さない。私だって恥ずかしいんだから我慢して。


 どれくらい抱き合っていたのか分からない。数分か数時間か。

 気が済んだので、離そうとするけど、今度は逆にリグが力を入れて離そうとしない。


「リグ、怒るよ」

「ううぅ⋯もう少しお姉様の温もりを!」


 まぁ、今日くらいは甘えさせてあげる。今日だけだからね。

 その後、落ち着きを取り戻したリグが、一転真剣な表情になった。


「お姉様、お話したいことがあります」



 それは、リグが悪魔になる前の物語だった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今から500年程前の話。


 当時の私は、十二星と呼ばれる神様の下に位置付ける下位神という存在だった。

 十二星は、牡羊座のクリオス。双子座のヘミニス。蟹座のクレブス。獅子座のレオン。乙女座のパルテノス。天秤座のリブラ。蠍座のスコーピオ。射手座のサジテール。山羊座のカプリコーン。水瓶座のアクエリアス。魚座のピスケス。そして私は牡牛座のシュティア。


 十二星の中では私が新参で一番若かった。


 私たち十二星の主な役目は、それぞれが担当している大地の管轄だった。

 この世界を12個に分け、それをそれぞれの十二星が直轄管理していた。

 十二星の加護は、実り豊かの象徴で平和で豊かな大地を築くには必須だった。その十二星が管理を疎かにすると、たちまちその大地は滅んでしまう。

 そんな十二星唯一の掟は、星そのものの寿命を縮めないこと。それに違反した場合は、即刻処分の対象となってしまうと言うものだった。


 私が担当したのは、当時不毛の大地と呼ばれていたバスカトゥール大陸全域。


 ここは、かつてこの地に住む種族間で内戦が勃発し、終結した場所でもあった。

 勝手に争いを始めた地界の民は、神々の怒りを買ってしまった。結果、この大地から緑が消え、植物が消え、魔物の蔓延る荒廃した大地が拡がってしまった。

 どんなに土地を耕そうが、種を蒔こうが決して芽吹くことはなかった。人々はこれを神の悪戯と呼び、段々とこの大陸から人が離れていく事態となった。誰しもが緑溢れる他の大地が恋しかったのだ。


 神は、その後数百年の間、この大陸に下位神である十二星を配置することはしなかった。

 しかし、その神の悪戯さえも乗り越え、1本の芽が顔を出した。

 この事件に、その地に住まう者は歓喜に胸震わせた。それは同時に私がこの大陸の十二星となった暁だった。神の許しが出た瞬間でもあった。


 神たちの住まう天界の社で育った私は、十二星になるべく幼少の頃より育てられた。

 以降300年もの歳月を経て、十二星への就任が決まった。


 私は、バスカトゥール大陸の十二星専用の住まい星の社を訪れていた。


「想像していたよりも、だいぶ質素ね⋯」


 まぁでもそれは、私がまだこの地に対して何も貢献出来ていない暁だった。

 貢献度によって、十二星の住まいはグレードアップすると言われている。


 さてと、まずはこの大陸の調査からね。


 十二星牡牛座のシュティアとして、私は約1年近く掛けて担当大陸の隅から隅まで自らの足で趣き内情を調査した。

 十二星本来の姿は下界で暮らす人々には見えない為、どうしても接触が必要な際は、義体を使いその姿を晒していた。


 十二星の最初の仕事は、担当大地の調査の他に重要なことがあった。

 それは、その地に住まう精霊たちへの挨拶だ。

 精霊たちは、基本的に何百年も前からその地に住まう、大先輩的な存在で、時には十二星と密に連携を取り、問題解決を図ったりしていた。

 即ち、精霊の怒りを買うと十二星へと知れ渡りそれが天災となり民へと降り注ぐという構図になる。


 さて、困ったなぁ。


 精霊さんって、そこそこ生息してるのかと思ってたけど、この1年、結局遭遇することはなかった。

 最初は、私の探し方が悪いのかとも思ったけど、どうやら何百年も続く不況の影響で何処かへ行ってしまったようだ。

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