最後の魔女22(調査開始)

 軟禁状態から解放された私は、その足である場所へと向かった。


「やあ、キミがあの猫ちゃんの中にいた存在かな?」


 3代前の聖女であるシオン様が創り出した人形。教会の闇を暴く為に知り得た情報の保管の役割を果たしてくれている。


 名前はレイラン。


 シオン様の亡き弟さんと同じ名前。アンの記憶の中や駄猫を通して見たことはあったけど、こうして面と向かうのは初めて。

 雪のように白い肌。感情をまったく感じさせない部分は、何処となく私と似ているのかもしれない。


「ええそうよ」

「キミは魔女なのかい?」


 少しだけ動揺してしまったけれど、今までの行動、言動、駄猫を見られていることからしても容易にそれは推察出来る。

 なので、わざわざ隠す必要もないかな。


「そうだと言ったら?」

「昔ね、シオン様も魔女の知り合いがいたんだ」


 シオン様は確か、生きていれば私とそんなに変わらない歳になるのかな?

 だったらその話も頷ける。


「ボクの作り方もその魔女に教わったんだって。まぁ、こんな話ししても退屈だよね」

「ううん、続けて」


 他でもない魔女の話なら大歓迎。

 魔女の話なんて、恨み辛みはあってもそれ以外を聞くことは滅多にないのだから。

 それに、少なくとも人形の作り方なんて同じ魔女である私は知らない。

 駄猫のような眷属とは違うみたいだし、恐らくそれは単純に魔法だけではないと思う。

 魔法を全て会得した私が言うんだから間違いない。


 レイランは人形を作る手順を話し出した。


 まずは器作り。

 器は、死した術者の親しい存在の体の一部を媒介にして作るそうだ。


 何それ怖い。


 術者本人と親しければ親しいほど、人形の出来栄えや不自然さが変わってくるのだとか。

 続いて、器に魂を吹き込む作業。

 これについては私も知っている魔法だった。

 というか、割と初期の魔法。

 いまいち使い道がなかったからあまり多用した記憶すらないハズれ魔法⋯だと思っていた。


 ハズれ魔法とは、使い道が見出せない魔法のことを私が総称してそう呼んでいる。


 《魂の定着ソウルシンキング


 この魔法は、特定の物に魂を定着させる魔法で、物体に自我を付与することが出来る。

 例えば、コップに使用するとコップが勝手に喋り出す。あの時は正直驚いたのを今でも覚えてる。


 確か、私がやってみた時は⋯


「おい! いつも冷たい物ばかり入れやがって、たまには熱々の物でも飲んだらどうだ! 風邪引くじゃねえか! あとな、こないだ落としただろ! 縁の端の方が欠けたじゃねえか! あぁ!? 大切に使いやがれ全く!」


 と、たらふく文句を言うだけ言って術が解けた。


 一体これ何に使うのさ? って当時は思ったよ。

 いや、今でも思うけど⋯


「で、魂を定着させただけじゃまだ完成じゃないんだ」


 うん、それでそれで? 確かにそれだけだとただ喋るだけの人形。動くなんてことは出来ないはず。


「聖力をありったけ注ぎ込むんだよ」


 聖力って、アンやサーシャ、聖女様が司る大いなる力のことだよね。

 つまりあれかな? あの人形には魔女の魔力と聖女の聖力の両方が混ざりあってるってこと?

 もしそうだとしたら、私が知らないのも無理ないね。そもそも異なる2つの力を混ぜあわせようなんて、考えもしない。

 よく、そんなことをしようと思い付いたものだと素直に敬意を払いたい。


「だいぶ省略したけど、だいたい今のような感じかな」

「すごく勉強になった」


 機会があれば是非試してみたいな。

 それはそれとして、本来の話へと戻る。


 サーシャが何者かに襲われたこと、教会に敵対している勢力がいることを順を追って説明した。


「そうだね。いつの時代も大きな勢力が、理不尽な圧力の前には反発するレジスタンス的な因子は存在するよ」

「彼等の居場所知ってる?」

「ううん、分からないかな。少なくともそういう連中がいると言うのはシオン様も掴んでいたけど、場所までは⋯それにあれからかなりの年月が経っているしね」


 残念。楽しようと思ったのに、結局自分で探さないといけない。

 まぁ、それを見越して駄猫は捕まった捕虜の居場所を探す為に使いに出してるんだけどね。その捕虜と件のレジスタンスとが同じかどうかもまだ分からない。


 私はもう一度レイランに確認しておく必要がある。


 それは、シオン様が成し遂げたかったこと。

 アンが受け継いだこと。

 サーシャが今も頑張っていること。


「教会の闇について、言い逃れの出来ない決定的な証拠を掴んだその暁には、この国の王様に話せば解決するんだよね?」


 しかし、答えは意外と言うか、まぁやっぱりそうだよね的なものだった。


「分からない」


 ただそれだけ。口を閉ざしてしまったレイラン。

 一体この国の上層部のどこまでが共犯なのか現状掴めていない。

 少なくともシオン様は、国王は清廉潔白だと疑っていなかったみたいだけど。

 生憎、他人の情報だけを鵜呑みにする程私も落ちぶれてはいない。私自身の目で確かめる必要がある。


 あの子・・・を使うかな。


 レイランに、また来るとだけ伝えて、秘密の地下室を後にした。


 さて、駄猫の様子でも確認しようか。


(状況報告)

(にゃにゃ! 取り敢えず、囚われている場所は分かったにゃ)

(で?)

(にゃもが駆けつけた時には既に死んでたにゃ)

(は?)


 死んでた?

 確か、警備隊預かりになっていたはず。

 拷問の末に殺した?

 うーん。


(死体は何人?)

(えっとにゃ、ひーふーみー⋯4人にゃ」

(やった犯人を追って)

(無茶にゃ! もう犯人の姿は何処にもないにゃ!)

(方法は色々あるでしょ? 匂いを追うだとか、死人に聞くだとか、目撃者が他にいないかだとか。とにかく探して追って。どんな手を使っても必ず。失敗は許さない)


 さて、お次は⋯


 眷属召喚(サモンミーア)


 私の呼び掛けに一人の妙齢な女性が魔法陣の中から現れた。黒を基調としたスーツを纏い、膝上のミニスカートを履き、インテリ眼鏡を装着している彼女の名前はミーア。

 潜入調査、情報収集に特化した魔法を持つスペシャリスト。


「久し振りねミーア」

「あらぁ、リアちゃんじゃない! もぅ、あんまし呼んでくれないからお姉さん拗ねちゃったぞっ」


 私に抱きつき、その豊満な胸をこれでもかと私の顔に押し付ける。

 喧嘩を売ってる? ねえ、売ってるよね?

 捥いでもいい? ねえ、捥いでもいいよね?

 あーもう! そんな事をする為に呼んだんじゃないんだけどね。


「ミーア、命令よ。この国の王の人となりを調べて」

「んーざっくりとした内容ねぇ、素性を調べればいいのかしら」

「徹底的にお願い。後、側近の素性もお願い」

「リアちゃんの頼みじゃ断れないわねぇ、分かったわぁ、何か分かればすぐに連絡するわねっ」


 もう一度私を強くハグすると、ミーアがその場から消えた。


 はぁ、何だか疲れた。

 でも、こう言うことに関しては彼女の右に出るものはいない。

 それだけに信頼している。

 スキンシップには少々問題ありだけど。


 さて、次は駄猫に頼むつもりだった反教会勢力の居場所を突き止めに行こうかな。


 この広い王都をただ宛もなく探し回るなんて野暮なことはしない。

 実は、既に目星はついている。


 そして私はある場所へと向かった。


「たのもー」


 私の声に反応して、中からゾロゾロと強面の男たちが出てきた。

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