最後の魔女15(教会の闇4)
「アン様には私がいます、大丈夫です」
「何が大丈夫なのよ! 信じていたヤンさんも結局教会側とグルだった。もう教会には、私の味方は誰1人としていないわ!」
そのまま、ただ怒鳴り散らして感情の赴くままに部屋を飛び出てしまった。
すっごく後悔してる。
だって、まさか、これを最後にレイランと二度と会うことが出来ないなんて思わなかったんだもの。
体調の戻った私は、なるべく平静を装い、聖女としての公務に勤しんでいた。
「いやぁ、倒れられたと聞いた時は国民一同心配しましたぞ」
「そうですよ、聖女様はこの国に欠かせない存在なんですから、お身体を大切にして下さいね」
私の治療を求める人々の列。皆さんの掛けてくれる優しい言葉に安堵しつつも、逆に違法な教会の仕打ちに素直に喜べない私がいた。
「はい、ありがとうございます。もう心配いりませんので、また今日から頑張りますね」
勿論、本心ではない。
寧ろ自分自身に言い聞かせていた言葉かもしれない。
そうしてあっという間に1週間が経過した。特に何も起こる事はなく、平穏に過ぎていった。
その間、私はなるべく何も考えないようにしてただ公務を全うする事だけに専念していた。
私の付人をしてくれているヤンさんは、以前と変わらず私に接してくれている。
あの時の衝撃的な一言から私は以降彼女とどう接すればいいのか、分からなかった。
だけどヤンさんは、何事も無かったかのように接してくるので、もしかしたらあれは気が動転していた私の幻聴だったのではないだろうか?
とさえ思うようになっていた。
だから、あの時の意味を彼女に尋ねるのが怖い。本当に怖い。
だから、せめて今のままの関係を壊さないようにこの1週間を過ごして来た。
その日の夜、だいぶ気持ちも落ち着いてきたので、1週間前に喧嘩別れしてしまっていたレイランに会いに行った。
「仲直りしないとね。レイラン怒ってるかな?」
一瞥の不安を抱えながら、ベッドの下の隠し通路を通り、レイランの元へと向かった。
「レイランごめんなさい、私ね⋯」
あれ?
反応がないや。
いつもは、私に気が付き、扉をレイランの方から開けて、私を引っ張り出してくれるのに。
やっぱり、飛び出して行っちゃった私に対して怒ってるのかなぁ。仕方がないので自分で扉を開けて小部屋へと入る。
しかし、小部屋の中には誰もいない。
この部屋には隠れられる場所なんて一つもない。
もしかして、知らない内に拡張工事でもしたのかな? なんて変な事を思ったりもした。
その時だった。
私が通ってきた通路の方から物音が聞こえた。
もしかしてレイランかな? って一瞬思ったけど、話し声からして、どうやら2人以上いるようだった。
私は咄嗟に2号(透明人間さん)の指輪に聖力を注ぎ、姿を隠した。
そして、すぐにこの小部屋の中に2人の人物が入って来た。
私は目を疑った。隠れはしたけど、もしかしたらレイランが仲間を連れて来てくれたのかなって、ちょっぴり期待したんだ。
「いないじゃないか」
「変ですね、寝室に居ないからてっきりこっちにいると思ったんだけどね」
小部屋にやってきたのはヤンさんと私の護衛役を務めているダグラスさんの2人だった。
私は息を殺して、その場に留まる。
「それにしても、1週間前にここを見つけた時は驚いたな」
「ええ、偶然でした。寝室の掃除をしている時にベッドの下がやけにこ綺麗だったので不審に思い調べてみたら、まさか隠し通路があり、この部屋があるとはね」
「ここは前の聖女の寝室だったな。恐らく彼女が有事の際の隠れ家に使っていたんだろう」
なんてこと。
1週間前って言ったら最後にレイランに会った日、そうよ、レイランは何処に行ったの! もしかして⋯
「でも何かを隠している様子は無かったんだろう? この通り、何の変哲も無いただの空間なだけだしな」
「ええ、技師にも確認してもらったけど、何も無かったわ。たぶん身を隠す為だけの目的の場所なんでしょう」
「身を隠すって、俺たちからだよな?」
「ええ、彼女は色々と知り過ぎてしまった。そのままこちら側の人間になれば良かったものの、彼女はシオンは、その私からの誘いを断ったのよ。挙げ句の果てに、王様へと全て暴露すると言い出したわ」
「だから暗殺者を仕掛けたってか」
「秘密を守る為にしょうがなかったわ。私も心が痛いの。あまり思い出させないで」
今目の前での会話のやり取りが、ボンヤリとしか頭に入って来ない。
まるで、夢の中の出来事のように、お芝居を観ているかのように、そんな気さえした。
「今の聖女は大丈夫なんだろうな?」
「私が四六時中監視をしているから大丈夫よ。ミハエルの暴走はちょっと冷や汗をかいたけどね。大丈夫よ。あの子は弱いわ。いくらでも言いくるめるのは簡単よ。それに、仮に秘密を知っても見て見ぬ振りをするだけだわ」
「それならいいが」
その後も何かを話していたが、いたたまれなくなり、物音を立てないように私は小部屋を後にする。
寝室に戻るとすぐに部屋を出た。
適当に時間を潰してから、再び寝室へと戻ってきた。
寝室へ戻る際にヤンさんと出くわした時はちょっとビックリしたけど、私は何食わぬ顔で「少し夜風に当たっていました、お休みなさい」とだけ告げた。
次の日は休みだった為、一日中寝室に閉じ篭ってある事だけを考えていた。
レイランは、一体何処に行ってしまったの?
もしかして、教会側に察知されて消されてしまったの?
いやでも、ヤンさんは知らない感じだった。
私は祈るような気持ちでもう一度だけ例の小部屋に足を運んだ。
だけど、待っていたのはやはり何も無いただの空間だけだった。
やっぱりレイランの姿は何処にも無い。
もうレイランはいない・・
私の唯一の仲間だったレイラン⋯⋯。これから私はどうすればいいの?
私1人で、こんなにも強大な教会の闇と戦うの?
「そんなの、無理だよぉ⋯」
寝室に戻った私は、その日1日布団を被って泣いていた。
こんなに苦しいのなら、もういっそ死んでしまおうかと、何度も考えた。
でも、その度に一人の可憐な少女の姿が私の脳裏に思い浮かぶ。
私とはまた違った力を持つ少女。彼女はこの世界の異端と呼ばれている存在だった。
そう、私の一番の親友であるリア。
魔女である彼女は初めて会った時から他人とは思えなかった。私にとっては掛け替えのない親友。
リアに貰ったペンダントを閉まっている箱を握り締めながらリアの事を思っていた。
リアに助けを求めたい。
たぶん、リアなら私を安全にこの場所から連れ出してくれると思う。
だけど、、、
やっぱりどうしてもリアを巻き込めない。
巻き込む事が出来ない。
だって、これは私の問題なんだから。
でも、ごめんね、リア⋯
「私、もう疲れちゃったよ⋯」
何故自分でもこんな愚かな決断をしてしまったのか、今でも不思議に思ってる。
私は負けたんだと思う、いや、逃げ出したかったのかもしれない、現実から。
でも本当の意味で自分の足で逃げ出す勇気がなくて、結局この方法に頼ってしまった。使うことはないと思っていたこの方法に頼らざるを得なかった。
信じていた人に裏切られ、唯一の仲間を失い、正常な思考など、もはや私にはなかった。
私は自身の指にはめられている指輪を眺める。
そして、徐に3号(まじもう終わりちゃん)に魔力をソッと流す。
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