第46話 引っ越し
※前半、ピロートーク的シーンがあります。苦手な方は、読み飛ばしてください※
翌朝、俺たちは目覚まし時計のアラームで目を覚ました。腰が痺れるように甘く疼いて瞼を開くと、ほぼ同時に開いた鳶色の瞳と目が合った。
俺たちは互いのものを握り込んだまま、朝を迎えていた。それに気付くと、慌てて京は掌を離してしまう。シーツから覗く肌は、何処もかしこも恥じらいの色を見せていた。そんな京に、片頬だけを上げて笑む。
「おはよう、京」
「おは……ぁっ……」
握ったままだった京自身に柔らかく力を加えると、掠れた喘ぎが上がる。
「真一……!」
京が慌てて俺を非難する。今日は朝番だったな、京……。そう思い、俺は京を解放する代わりに、おはようのキスをした。まだ時間は少しある。俺は京に切り出した。
「京、お前、俺んちに住まねぇか?」
「えっ」
京は驚いて目を見開く。
「でも、隣だぞ」
「だから。お前、夜帰っちまうだろ。毎日、こうやって一緒に眠ろうぜ」
再び、京の頬に朱がさす。『こうやって』の意味を悟ったのだろう。大きな瞳が戸惑いに揺れたが、しばらくあってから答えは返ってきた。
「……うん」
俺は嬉しさに、笑いながら京をキツく抱き締めた。
「よし、すぐ引っ越そう!」
「ん……真一苦し……」
京が小さくもがくから、俺は戒めを解いてベッドを出た。クローゼットに向かい部屋着を着る。今日は休みだった。
「京、身の周りのもの持ってこい。服は着替えに帰れば良いから」
「うん」
昨日脱がせたままになっていたジーンズを拾って手渡すと、実感がわいたのか、京も嬉し恥ずかしといった風にはにかんだ。服を着て、着替えに一度部屋を出る。
戻ってきた京は、大きめのトートバッグを提げていた。日常の細々としたものを、詰め込んできたらしい。洗面所に出入りしては、この細やかな『引っ越し』を終わらせた。
「じゃ、真一。曲作り頑張って」
「ああ。気を付けて行ってこい」
「行ってきます」
軽く京の踵が上がり、俺たちは唇を触れ合わせた。京の両掌が、俺の頬を包む。この幸福感を、音符に乗せれば軽く二~三曲は出来るだろう。
名残惜しそうに片手を握り合わせながら、京はバイトに出ていった。
メンバーに電話しなければならないが、まずは髭を整えに洗面所に入る。シェービングクリームを付けて髭を剃りながら京の引っ越し荷物を眺めるも、京は髭が薄いのか、髭剃りは運び込まれていなかった。
代わりに、俺のパープルのカップと歯ブラシの隣に、ホワイトのカップと京の歯ブラシが並んで陽射しを受けていて、その光景に俺は瞳を眇めてひとつ微笑んだ。
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