第44話 ライバル
少年貴族の二人は、Seekerに紹介されると、ベンジャミンが改まって、
「よろしくお願いします」
と胸に手を当てた。圭人の方は、すでに挨拶は済ませたとばかり、相変わらず仏頂面だったが。
「Seeker、どういうつもりだ?」
「言った通りだよぉ。私がプロデュースするのは、どちらか一組だけ。忙しいのは好きじゃないからねぇ」
「Seeker。ひょっとして、引退したのも忙しくなったからですか?」
彼のファンだった京が、思わず訊くと、Seekerは薄い唇で微笑んだ。
「ギターくんは大胆な事を言うねぇ。でも……その通りだよ」
「そんな……あんなに人気だったのに……」
Seekerは、長く整えられた爪の人差し指を一本立てた。
「私は、音楽が好きなだけさ。名声に興味はないんだよぉ」
逸れだした話を、俺が元に戻す。
「具体的に、どうやって決めるんだ?」
「ベースくんは、流石リーダーだけあって、現実的だねぇ」
一人うんうんと頷くと、本題に入った。
話はこうだった。Seekerの名前は出さずに五ヶ所のライヴハウスでそれぞれ対バンを行い、客に投票させ、武道館でデビューする一組を決めるという。Seekerのプロデュースとあれば、いきなり武道館デビューでも、十二分に客が入るだろう。むしろ狭いかもしれない。
計らずも、健吾が言った「武道館を埋める」という言葉が、現実味のある果実となって、目の前にぶら下がっていた。このチャンスを逃すには惜しく、他のメンバーもそうだろうと踏み、Seekerの言われるままの日程を飲む。バイトなんぞ、クビになったって構わねぇ。
そうして俺たちは、
「真一、Seekerのプロデュースでデビュー出来るなら、俺、もっと頑張るよ。曲作るんだろう? 俺サポートするから、真一はそっちに集中して」
「おう。サンキュ、京」
頬を上気させて早口に言うと、いそいそとキッチンへ向かう。さっそく飯を作る気なのだろう。
だが俺は、京の手を握って引き留めた。降ってわいたような好機に、俗にいう「胸がいっぱい」で、不思議と腹は減っていなかった。
「真一?」
「京」
「何?」
小首を傾げる様が、愛らしい。
「お前は飯、食ったのか」
「あ、うん。賄いで食べてきた」
「俺も腹は減ってねぇ。曲は、明日から作る……京」
不思議そうに、京は俺に向き直った。昨夜の痴態が目の前にチラついて、目眩がする。俺は堪らず、欲望を音に乗せた。
「京……スローセックスしようぜ」
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