第138話 ロックンロールと仏陀(ブッダ) 

138話 ロックンロールと仏陀(ブッダ) 


 2018年の4月22日の日曜日。

午後2時。最高気温は27度と真夏のような暑さだ。


 第45回となる、ユニオン・ロックの下北(しもきた)芸術学校の公開授業が、

下北沢南口から歩いて4分、北沢ホール3階のミーティングルームで始まるところだ。


 ユニオン・ロックは、ソーシャル・メディア(SNS)を使った、

インターネット上の全国的な規模のバーチャル学校で、

夢を追う若者やオトナや子どもたちを対象に、

マンガや音楽や小説など、芸術的なこと、広く全般を、

自由に学べる『場』の提供をしている。

そのための経済的な援助、その道のプロとしての育成までの援助も展開している。


 そんな長期的展望のユニオン・ロックは、外食産業のモリカワと、

外食産業最大手のエターナルが、1014年9月に始めた、共同出資の慈善事業だ。


 ユニオン・ロックの活動は、優良企業というイメージや共感を生んで、

モリカワとエターナルの成長に、世間も驚くほどに、寄与(きよ)している。


「きょうは、お集まりいただいて、ありがとうございます。

きょうで、第45回なんですよね。この公開授業も。

毎回、国内や海外の国にも、インターネットで公開していて、

その反響すごいようですけど。まあ批判は1%に満たない、ちょっとで、

大部分は好評のようですけど。あっははは」


 演壇に立つ信也は笑いながら、みんなを見渡した。


 定員72名の満席の会場からは、拍手と歓声が沸わく。


 演壇に近い前列の、3人掛けのテーブルには、

撮影も順調の超大作映画『クラッシュビート』に出演中の、

乃木坂小学校の合唱団の子どもたちが集まっている。

3年生6名、4年生8名、5年生7名、6年生9名の、30人だ。


 その子どもたちの中に、合唱団の先生役の沢口貴奈(きな)もいる。

沢口貴奈は、信也と同じ山梨県の育ちで、信也とは12年くらいの付き合いになる。


 大沢詩織や清原美樹たち、グレイス・ガールズのメンバーや、

信也のバンドのクラッシュ・ビートのメンバーも後ろの席にいる。


 『クラッシュビート』の原作者でマンガ家の青木心菜(ここな)と、

心菜の親友でアシスタントの水沢由紀もいる。


「今回、みなさんにお配(くば)りしてある本は、つい先日に、

ぼくがセブンイレブンで、立ち読みして、あっこれいいな!って、買っちゃった本なんです。

税抜きの本体価格が499円なのには、よくできっている本なので、ちょっと驚きました。

あっははは」


 会場のみんなも明るい声で笑った。


「それでは、この宝島社の『マンガでわかるブッダの教え』をテキストにして、

『ロックンロールと仏陀(ブッダ)』のお話を始めます」


 拍手がわいた。


「こんなに日本では、繁栄して、よく知られている仏教が、なぜ発祥の地のインドでは、

繁栄できなかったのかって、誰もが思いますよね。どうもその原因は、

仏教が、人種差別を身分制度カースト制に断固として反対したからのようです。

国連人権委員会も、インドのカースト制度の差別を、

人種差別の1つであると明記していますからね。

しかし、まあ、カースト制を、断固拒否したからこそ、仏教は世界的な宗教となったんでしょうね」


「さてさて、本題の、ロックンロールとブッダの話に入ります。

えーと、希望(りく)くんは、人生って、なんのためにあると思いますかぁ!?」


 最前列のテーブルに、福田希望(りく)がいる。


 『クラッシュビート』のオーディション選考で、

川口信也がモデルの、主人公の信也の役を射止めた、

福田希望は、小学5年、11歳の少年だ。


「人生って、楽しむためにあると思います!」


 希望(りく)は元気な声で答える。


「うん、それが正解っていえるでしょうね。みなさん、テキストの32ページを見てください。

右下に、ブッダの言葉があります。

ブッダも『自分の変化と成長を楽しめ。もう、外に楽しみを求めるな』って言っています。

これって、非常に的確な人生論なんですよね。

図解にもありますように、外に楽しみを求めることとは、評判や成果や収入を意味します。

評判などの外的要因は、自分の努力でもコントロールできないんですよね。

ですから、そのため、心を乱す原因にもなります。

一方、自分の変化と成長を楽しという、自分の内面を重視する生き方はどうでしょうか?

やりがいや美学や充実感など、その行為を通じて、≪心地よい≫と感じられることを、

続けてゆけば、どんな状況になっても、心は安定するのではないでしょうか?

たのしく生きるための実践法として、ブッダも≪心地よさ≫を追い求めよう!って言っているんですよね。

ブッダ、すなわちお釈迦様は、紀元前250年前後の人ですから、2250年も昔の人なんですよね。

そんな人が、現代人に、生き方を教えられるなんて、天才としかいいようがありませんよね。

あっははは」


 会場のみんなも明るく笑う。


「ええと、じゃあ、希望(りく)くんのお隣りの、いつもかわいい友愛(とあ)ちゃんに、お聞きしますけど。

友愛(とあ)ちゃんが幸せになるには、どうしたらいいんだろうね?どんな答えでもいいんだけど。

あっははは」


 映画の中の11歳の信也の、親友の女子生徒役の永愛(えま)の役の、

白沢友愛(とあ)は、小学4年の10歳。


「自分だけの幸せではなくって、友だちとか、まわりの人の幸せも考えてあげることだと思います!」


 希望(りく)の隣に座っている友愛(とあ)は、

一瞬、目を丸くして、びっくりするけど、オトナの女性っぽい魅惑的な笑顔で答えた。


 希望(りく)と友愛(とあ)には、格別なオーラ、スター的な輝きがある。


「そうですね。さすがだね、友愛(とあ)ちゃんも希望(りく)くんも。

では、みなさん、60ページを見てください。

ブッダは、『幸福は分け与えても、減るということはない。』って言っているんですよね。

図解には、こう書いてありますね。

『幸福を他人に分け与えることは損ではなく、結果的に自分のためになる。』って。

また、『与えることによる2つの利点』として、

その1つは『失うことに対する不安がなくなる』とありますね。

つまり、自分の財産に対する執着が減ったり、自分が困ったときには助けてもらえるという、

期待が生まれて、失うことに対する不安が消える、と。

もう1つは、与えた幸福が、恩返しとして返ってくる、と。

つまり、助けられた人は、自分が幸福になったときに、人を助けようとするんですね。

そうして、幸福の輪が広がり、与えた幸福が返ってくる、ということです」


「さて、ロックンロールのことですけど、あの、ブランキージェットシティの、ベンジーこと、

浅井健一さんも、よくおっしゃってるんですけど。

かっこいいロックンロールを作ったり歌ったりしたいんですよね。

そんな音楽で、元気や楽しみや幸福をもらったりもしているからです。

だから、ベンジーも、そんな音楽で、人に、元気や楽しみや幸福をあげられたらいいなって。

これって、ブッダの教えと同じですよね。あっははは。

ブッダも、マジ、本物のロックンローラーだなあって、おれは思っちゃうんです。あっははは」


 会場も明るい大爆笑になった。


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☆参考文献☆ 『マンガでわかるブッダの教え』 宝島社


≪つづく≫ --- 138話---

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