第186話返る年の二月廿日より(5)

斉信様は

「これから職に参ります、何か伝言などはあるのでしょうか?清少納言様は何時ごろいらっしゃいます?」

などとお聞きになる。

また、その続きで

「まあ、それにしても、昨日は、夜明けを待たずに、事前に連絡を差し上げていたおいたのだから、これは必ず待っておられると思いましてね、月も本当に明るい夜で、西の京から戻って、局の戸を叩いたのですよ」

「それなのに、留守居の方でしょうか、もうね、寝ぼけ眼でようやく起きてこられまして、その返事も気がきかない」とお笑いになり

「ほんとうにがっかりでした、どうして留守居にあんなお方を選ばれたのですか?」

などとおっしゃいます。

確かに、斉信様のお言葉の通りで、がっかりされたのだろうと思うと、その時の斉信様の様子を思い浮かべるにつれて、見たいと思うような興味もわきますし、また少々お気の毒にもなりました。

斉信様は、少しばかりそんなお話をして、お出かけになりました。

傍で見ていれば、斉信様のような美しい方を迎える局の人も、かなり素敵な人なのだろうと、興味がひかれると思うにちがいないでしょうね。

逆に奥の方の人からは、私の後ろ姿を見ているので、斉信様のような素敵なお方が私の前にいるとは思わないでしょうね。


返る年の二月廿日より(6)に続く。

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