第26話 探偵⑸
途中といえど、どの部屋にも玄関がつけられ、1つ1つの部屋になっていた。廊下から見る限り、天井や壁などの内装はほぼほぼ完成しているといる。
ただ、真っ暗。使われてないんだ、電気は当然に通っていない。ケータイのライトを使って歩いていく。
おっ。
ドアの隙間から光が漏れていた。ライトを退けると、よりはっきり漏れているのが確認できた。近づく。中から音が聞こえる。ドアに耳をくっつける——人の声だ。ここで間違いなさそうだ。
「せー……のっ!」ドアを蹴破る……にしては、随分と衝撃が少ない気が。
あっ!——「……鍵かかってねぇじゃん」
俺は部屋の中に歩みを進める。もちろん靴を脱ぐとかそういうことはせず、そのまま土足でお邪魔する。
「そりゃそうだろ。未完成のマンションなんだから」
便利屋も同じく。
「分かってたなら、先に言えっつうのぉ!」
こいつには心遣いってのがないんだよなー……
部屋の中に進むと、流石にリビングやダイニング、寝室にトイレといった部屋の区分はまだされてなかったのが目に入る。また、家具など置かれていないため、だだっ広いワンルームと化している。
唯一あるのは光。部屋にはどこでも買えるような電池式の室内灯をいくつか並べていた。本数は少ないため、照らされているのは窓際の辺りと入り口までの道のみ。だが、その部分は電気が通っているかのように明るい。窓にはダンボールがガムテで荒々しく貼りつけられ、外からは見えにくいように対処していた。応急処置的というのがよくわかる。
その窓際でしゃがんで、コソコソと何かをしていた男たちは、まるで鳩が豆鉄砲食らった顔で俺らを見ていた。
便利屋は左ポケットにある写真を取り出し見比べて「あいつっぽいな」と口にし、確認が取れた俺は「よぉー。探したぞ、マジマ」と声をかける。便利屋は写真を元の場所に突っ込む。その間に俺は、右人差し指でマジマの後ろにいる男たちを数える。
「1、2、3、4……おっ、限金窃盗団勢揃いだな」
オールバックと瘦せ型と、警官服を身にまとった2人だ。
「そのダセー呼び名やめろ」マジマは立ち上がり、こちらを睨み付けてくる。
「じゃあ、なんて呼んでほしいだ?」
「『ジャック・エバー』だ。決まってるだろ」
決まってないと思うけど、まあいいや。
「っんーんっ!」左奥から何か聞こえる。顔を向ける。便利屋も。奥には、暗くて全く気づかなかったが、なんか生真面目そうな感じのメガネ男と少し歳のいった警官が椅子にくくりつけられ口にタオルを挟まれていた。メガネ男はTシャツ1枚に膝上に毛布がかけられており、警官は制服を着用している。あと、警官たちの右隣はまだもう1人。
「なんでお前ここにいんの?」さっきのシザードールだ。警官たちと同じ状態。「知り合いなのか?」便利屋の問いに、「まあな」と返す。今はペラペラと説明してる時じゃない。
「なんで……」
俺はそう言った主であるマジマに体勢を戻す。
「なんでここが分かった?」
俺は左前の床にデンと置かれていた頭を指差した。
「それだよ。お前らが盗んだうさぎの着ぐるみ」
『でもさイッちゃん。何で警官がうさぎの着ぐるみを盗まなきゃいけないの?』
「それはまだ分からん。ただ、今俺が調べている依頼と関連がありそうなのはほぼ間違いないと思う」
『えっ? そうなの?』
「あぁ」
便利屋のに写っていた3人のうちの1人。それがこのオールバックの警官。もう1人は、盗んだと思われる男。つまり、警官と盗んだ男とマジマが同じ写真に、しかも怪しげな格好をして映っているというわけだ。これで関わりがないというほうがおかしい。
「あっ、すまん。キャッチ入ったから切るぞ」
「——その2人がラウンドの監視カメラに映ってたってわけだ」
俺のセリフに合わせて便利屋は写真を見せる。それを見たマジマは目を見開き、勢いよく振り返った。
「小柳ぃ! テメー、監視カメラ忘れてたのか?」
マジマは怒りで声を震わせていた。
「いや、電気はちゃんと落として……」
小柳という警官の服装をしている男は、慌てて弁解しようとする。だが、「馬鹿野郎っ! いつも『念には念を入れて、監視カメラごと壊せって言ってんだろうがぁ!?」というマジマの怒号によって、すべてかき消された。
「す、すいません……」
目線を落とし、そう返答する小柳。俺はポケットに手を突っ込む。
「そんでな、俺の知り合いに刑事に調べてもらったんだ——」
「もしもし?」キャッチの相手は田荘。
『さっき送ってもらった動画にいる警官についてですが——』
「誰だった?」
『それが……分からないんです』
分からない?
「んなわけないだろ。データベースと照合すれば……」
『違うんです。そもそもデータベースに登録されてないんです』
「何?」その瞬間、閃いた。当たり前を取っ払ってみた。
「まさか……」
『はい。その男は……警官なんかじゃありません』
「今の技術は凄いぞ。多少画像が荒くても、そいつが警官かそうじゃないかぐらい分かるんだからな」
今度はその警官を睨み付けた。睨まれた彼は視線をそらし、萎縮する。
さぁ、こっからは謎解きの時間だ。
「そもそもなんでうさぎの着ぐるみを盗まなきゃいけなかったのか? そもそものきっかけはこの写真からも読み取れる通り……」
「2500万ってわけか」
「……あぁ……そうだ」俺は横にいる便利屋の顔を見ながら肯定する。
便利屋、いいところ取んなよ、とメッチャ言いたいけどそれはとりあえず後にして、今はこれを片付けよう。エヘン、と1つ咳払いして、気を取り直す。
「補足すると、お前らの目的はラウンドから2500万を盗み出し、この島から逃げることだった。捜査の手が及ばないうちとかに逃げる予定だったとかだろ。だけども、盗むためには腕利きの金庫破りであるマジマが必要。だからまず、唯一捕まっていたマジマを脱走させなければならなかった。で、無事脱走に成功、その日の深夜に2500万を盗み出すことに成功した」
「その時、写っちまったわけだな」便利屋は持っていた写真をヒラヒラさせる。
「そういうことだ」と便利屋の方を見て答えて、マジマらを見る。
「そのままトンズラしようとしたら、既に橋は封鎖されていた。いくら脱走したからって、まさか警察が窃盗犯1人のためにそこまでするなんてどうせ思ってもみなかったんじゃないのか?」
俺は続ける。
「予想外の事態が起き、とりあえず緊急処置的に西区へ避難した。人目につかないよう潜伏しようにも、中央区と東区は人が多いからそもそも人目につきまくる。監視カメラとかも多いしな。橋を封鎖してる関係上、警備が厳重になってる北区も難しい」
「南区など問答無用で除外だ。そもそもヤクザに喧嘩売ってんだから、わざわざ自分から行くことなんてしねえしな」便利屋が補足。
「結論、西区。じゃあ次に西区のどこにいるのか?——だが、意外にもそれは簡単だ。2500万なんて大金をそう持ち歩けねぇし、第一、脱走犯のマジマがいるんだから、当然人目につきにくいところを選ばなきゃいけない。つまり、ホテルやなんやらは通報されるおそれがある。制約から考えると、途中で建設中止となったこのマンションは絶好の場所だろ」
俺は首の後ろを掻きながら続ける。
「だが、あくまでつきにくいであって、つかないわけじゃねぇ。すぐそばの道は中央区に繋がってるから、近くに住んでいる人はしょっちゅう使う。近くの小・中・高校に通う学生たちもな。それにここは、浮浪者も時々使ってるなんて噂も聞いたことがある」
「だから」俺は再びうさぎの頭を指差し、「それを盗んだ」と言い放った。
「理由はもちろん、世間を賑わせている“シザードール”に扮し、そいつらを追い払うため。捕まえた人を拷問してるとか、そんな噂が出回っていたくらいだからな。“ハサミを持ったうさぎの着ぐるみが走ってくる”の条件さえ揃っていれば多少粗があろうが、皆一目散に逃げ出す。それに、目撃者がいてもシザードールは広く一般的にはあくまでバカげた噂程度にしか思われていない。マスコミさえもそこまで取り上げてないし、警察が本気にすることはあんまない。第一、警官の格好をしてるってことは、被害に遭った人へ1番に接触し、『後はこっちで処理しておきます』とかなんとか言っておけば、全て無かったことにできなくない」
「だ、だから多少は移動したほうがいいってあれほど言ったじゃないですか!」とエセ体育会系マッチョ男がそわそわしていると、マジマは「うるせぇ、黙れ!」と一蹴し、黙らせた。
「お見事だ。よく分かったな。だが、せっかくそこまで分かってんのに、詰めが甘い」
「詰め?」
「さっきお前は『知り合いに刑事がいて』そう言った。そんな言い方をするってことは——」
マジマ含め、5人はおもむろに取り出した。
「オマエら、警官じゃねぇな?」
5つの拳銃を——
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