第15話 健康診断トラブル?! ②
*15*
校内の構造にも随分と慣れて来た。蓼丸が教えてくれた本館から一号館への回り道も、突き抜ける道も、全部覚えた。
見上げると桜はそろそろ葉桜になりかけている。
(入学式から早くも二週間かぁ……えへへ)
萌美にとっての出来事と言えば、蓼丸に告白して……涼風に告白されて……蓼丸にほっぺにちゅー、で涼風と間接ちゅーで、蓼丸と間接ちゅーで……スタァァァプ!
(やめよう。なんだかわたし、破廉恥に思えてくる)
高校生になっても、チューチュー……ここは「キス」と言おう。
入学気分も、もう落ち着く頃合いだ。桜の季節が終われば、今度は竹が青葉を広げる夏の気配が訪れる。
春と夏が美しい篠笹。女子は桜の如くあれ。男子は竹のように伸びよ。でもどちらも青空に向かって、輝いてゆけ――。
確か校歌はそんな歌詞。
葉桜を通り越しての講堂は、作りたての図書館と向かい合っていて、まだ本を積んだトラックが二台止まっていた。その横に、救急車風味の大きな車と、腕章を嵌めた蓼丸が係り医者と会話していた。邪魔はいけないと思いつつ、大手を振る。
「たでまるーっ」
萌美に気がつくと、蓼丸は「ハッ」とした表情をして、「次は1Cか」とにっこりと笑う。
一瞬夢の蓼丸を思い出して、萌美は足を止めたが、当の蓼丸は今日も優しい微笑みを向けて来た。
(うん、あれはわたしの罪悪感だ。そうだよ、マコなんかめり込んでればいいんだ。おでことキス返せ! 蓼丸にはしらを切ろう)
でないと、「そうか」とにっこり笑って眼帯を毟り取り、夢のように言われそうだ。
(嫌だな……なんか)
蓼丸はぽん、と落ち込んだ萌美の頭を叩くと、小型マイクで「――1C女子、入りますがOKですか」。どうやら報告をしているらしい。つくづく生徒会役員は大変だ。
「――え? ……副会長、それはどういう……」
蓼丸は顔色を変えながら、萌美の頭を撫でたりする。蓼丸は小柄な萌美の頭をよく撫でる。勝ち気なくせに、蓼丸に撫でられると嬉しい。
猫の気分はこれなのかな。喉を「うるる」とか鳴らしたくなる気持ち、分かるよ。
猫の気持ちを味わう前で、蓼丸は一層険しい声音になった。
「わかりました。はい、見つけ次第報告します。……続行で良いですね。でないと全員受けさせられないでしょうし」
話を聞いている間に、雫たちが追いついて来た。「こらぁ、桃!」怒られてみんなの環に戻った。
「まとめての移動だからね! クラブハウスに行くよ!」
蓼丸は再度確認を取り、女子たちを案内してくれた。しっかり萌美の耳元で、「また時間作るから」と囁いて来る。ほわぁ~と萌美の顔をしたハートが飛んで行った。
(はい、是非お時間をお願いしますっ)
今度こそ、二人きり。そうすれば涼風との――……思い出してはまた落ち込んだ。
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