第78話 街の視察

 風呂バルネアでひと悶着あったけど、記憶から飛ばしてしまったので俺は何も知らぬ存ぜぬ省みぬ。というわけで絶賛建築中のローマの視察だ。


 東西南北にアスファルトで出来た大通りがあり、中央に広場。広場付近には村長家とベリサリウスの家がある。俺の家はそこから少し離れた地点になる。

 アスファルト舗装はまだこの大通りだけだけど、一度ボコボコになり目も当てれなかった……どうにかローラーを使って、雨水が流れるように傾斜をつけてと工夫した結果、ようやく舗装が安定した!

 ライチとティモタのお陰だな。

 この二人はさらに、アスファルトの舗装の両脇に溝を作り、雨水用の下水道まで作り上げたんだ。下水道は西側にあるため池まで流れていく。ため池は「浄化」のオパールが入っており、常に清浄さを保っている。

 ローマ郊外には汚水用の大きな穴があり、ここも「浄化」のオパールで処理を行っている。


 東側は職人エリアにしようと考えており、現在は鍛冶・縫製・日用品・革・食料品加工など軒を連ねている。現在は小鬼の人達が作業を行っているけど、他の種族でもやりたいって人がいれば挑戦してもらうつもりと小鬼の人達にも話を通している。

 住居は全てレンガとモルタルで建築されており、例外は風呂バルネアだけだ。今後外観に拘る余裕が出てくれば、レンガ以外の家も生まれて来ると思う。


 ローマに外壁は存在しないけど、入口として想定しているのは大通りとつながった東西南北の通路の端だ。俺は、南側の大通りの端から中央に移動し、順番に施設を見学していっている。

 しかし……ティンの視線がさきほどから痛い……いや、痛いというのは語弊があるな。悲しそうな切なそうな目で俺を後ろから見ているといえばいいか……


 鍛冶棟の前を通過したとき、俺は我慢しきれずにティンの方を振り向いた。


「どうしたのですか? ピウス様?」


 俺が無言で彼女の手を握ると、とたんに彼女は嬉しそうな表情に変わる。そうか……さっきのことがあるから、手だけでもつなぎたかったんだな……


「ティン。二人きりの時は我慢せず自分を出してくれ……」


「わ、私からピウス様の手を握るなんて。できません!」


 ティンが俺を敬ってくれるのは有難いことなんだけど、ローマには身分の上下はない。俺自身は村長やベリサリウス、エリスに敬語を使っているから人の事は言えないけど、俺にはもっと気さくに接して欲しいなあ……

 カチュアとかエルライン、ロロロやマッスルブなんかは気さくに俺に接してくれて、知人・友人を失った俺にとって癒しになってるんだよ。

 いや、ティンが癒しになっていないわけじゃない。彼女にはすごく癒されている。でもいつも頑張り屋な彼女には、俺といる時くらい自分を出してリラックスして欲しいってのが本音だ。


「ティン。もっと気楽に接してくれていいんだよ。エルやカチュアみたいに」


「えええ。そんなこと出来ません! だって私……憧れのピウス様にそんなこと……」


 後半は声が小さ過ぎて聞き取れなかったけど……だいたい予想がつく。


「言葉遣いとかは別に真似しなくも……ま、まあいい。俺も何言ってるかわからなくなってきた! 行こうか」


「はい!」


 まだ敷地内がスカスカのローマだけど、今後建物が増えていくことだろう。広場の中央には噴水もつくりたいなあ。俺はティンと手を繋ぎ、並んで歩きながら中央広場を通過し北へと歩を進める。

 北側の郊外ではキャッサバ畑が広がっている。元々自生していただけあり、木を切り倒して整地し、キャッサバの茎を植えるだけで繁茂した。育つか不安だったけど、さすが最も育てやすいと言われるだけはある。

 予定では草食竜やデイノニクスの牧場を建てる予定だったけど、リザードマンの集落に集約した方が良いという結論になり、牧場建築は中止になった。

 その代わりといってはなんだが、リザードマンの集落とローマをアスファルトの道路で繋ぐ工事は既に着工していて、完成すればデイノニクスが引っ張る馬車で半日もかからずローマとリザードマンの村はつながれることになるだろう。

 道路と言えば同じく、南側に鉱山へ繋がる道や東側にアスファルト湖に繋がる道も建設途中になっている。


――全ての道はローマへ続くだ。


 そうそう飛龍の住処はいずれ移動させるつもりだけど、俺の家からすぐのところに仮厩舎を建築している。ローマの住人が増えてきたら厩舎も郊外へと移動すると思う。


「ティン。ローマの街も発展してきたなあ」


「そうですね! 皆さんの頑張りのお陰です!」


 俺達は郊外からローマの街に向きなおり、街全体を眺める。ほんの半年前にはここには何もなかったんだ。それが街になった。これからさらに発展していく。

 街を眺めていると感慨深いものがあるなあ……よく頑張ったよ。俺達。



◇◇◇◇◇



 飛龍に乗ってラヴェンナへ降り立った俺とティンは街の視察を開始する。

 ラヴェンナはローマと違い、家は全て木材とモルタルで建築されている。元々あった小鬼村のスペースだけでは農地まで確保できなかったから、木を切り倒す必要があった。

 どうせなら、切り倒した木を無駄にせず使おうってことから木造住宅になった。



 ラヴェンナはローマと違い、街の周囲を簡易的な柵で囲っている。街の入口は南側……つまり人間がやって来る方角だ。

 入口から中へ入ると、ローマと同じく大きな道があるが、ローマと違い南北に一本大通りがあるだけのつくりになっている。ここで行商人がバザーを開けるよう配慮し、道幅は広めのスペースをとっている。

 具体的には馬車がすれ違い、さらに外側にバザーが開けるくらいの道幅を取っている。ローマの大通りよりは狭いけど、これでも十分な道幅だと思う。


 道の左右には家が立ち並び、馬車と馬も一緒に宿泊できる宿や食事処、酒場などを建築した。といっても、酒場や食事処を営業する人材はいない……いずれ外部から来た人がやってくれればと思ってる。

 ついでに冒険者の宿風の建物もつくっておいた。ここで人間の街と同じように冒険者ギルドの人達が営業してくれれば、冒険者もここに集まって来るかなあ。

 元々冒険者は魔の森へそこそこ入って来るから、ちょうど宿泊施設としてラヴェンナを使ってくれるとは思ってるけどね。


 ラヴェンナには上下水道も汚物処理施設も今のところ存在しない。悪意を持った人間が訪れる可能性があるので、なるべく低い技術水準に見せておいたほうがよいとの判断だ。

 道はコンクリートなんだけどな……コンクリートはすでに聖教騎士団に見られてるから今更隠すこともないだろうと皆と相談して採用を決めた。


 無人の住居もいくつか建てたし、俺達が来た場合に備えて宿屋とは別の宿泊施設まで建築済みという、尋常じゃない速さで建築が進んだ。恐るべし犬耳族とオーク。


「もういつでも受け入れできそうだなー」


「凄いです! こんな短期間でここまで!」


「犬耳族とオークの仕事量は人間の倍以上はあるな……」


「そうなんですか! 人間は魔法を使うからもっとすごいと思ってました!」


「あー魔法かあ。ティン、言い直すよ。俺の世界の人間の倍以上ってことにしておいてくれ」


「はい!」


 分かってるのか分かってないのか不明だけど、ティンは満面の笑みで俺に頷いた。手を繋いでからというもの、彼女はずっと笑顔でご機嫌だった……

 こんなんだったら、最初から手を繋いでおけばよかったよ!


 さあて視察も終わったし、明日は人間の街フランケルに繰り出すか。

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