第68話 ラヴェンナ
人間の街で金を得る手段はある。既に織物にしているあれだ。そう、絹だよ。ティモタ曰く、絹は高く売れるらしいから絹をお金に換えればオパールが買えると思う。
しかし魔の森の端までは飛竜で問題無いけど、そこから人間の街まで徒歩でどんだけかかるんだ?
以前聖教騎士団との戦いの際に調べた結果、およそ一日半はかかる計算だった。
飛竜なら日帰り出来る距離なんだが……
まだローマの街から長期間離れることは難しいからどうしたものかな。
人間の街で暮らしていたことのあるティモタに少し聞いてみるか。
俺は道路工事に勤しむティモタを見つけると彼に問いかける。
「ティモタ。アスファルトの様子はどうだ?」
「ローラーで押し固めるとうまくいきそうですよ。数日アスファルトの強度実験を行う予定です」
ティモタは笑顔でアスファルトの様子が順調だと教えてくれた。さすがの二人だ。
「上手くいきそうでよかったよ! あとは雨水かあ」
「路の左右に溝は作ります。等間隔に穴を開けて地下に流し、地下に水の通り道を作っておきます」
「水の通り道――下水道は傾斜をつけるのかな」
「はい。先日の話し合いの通り下水道には傾斜をつけ、溜池に流します。溜池も今作ってますので」
「は、速いな。相変わらず……」
「オークと犬耳族の工事がとても速いんですよ」
「彼らほど工事の速い人たちはこの世界にいないと俺は思う」
俺の言葉にティモタも笑顔で深く頷くのだった。
「ピウスさん、他に何かあったんじゃ?」
さすがティモタ。よく分かっている。
うーん、顔に出てたかな?
「そんな聞きたそうな顔をしてた? 俺?」
「はい。かなり……」
ティモタは苦笑する。や、やはり顔に出てたのか! 俺は少し顔を赤らめ、照れ隠しに頭をガシガシ掻き毟る。
「えっと、絹織物を人間の街に持って行って、お金にしたいんだよ」
「なるほど。なら私が行って来ましょうか?」
「いやいや、ティモタに行ってもらうのは無しだ。アスファルトの事があるし」
「そうですか。街で取引するならガイア達を頼るのはどうですか?」
「うん。彼らは毎週魔の森に街の様子を報告しに来てるから、街で落ち合えると思うんだけど聞きたいのは別の事なんだよ」
「何でしょう?」
「飛竜で街まで行っても平気かな?」
「……」
絶句するティモタに、俺は取り繕う。
「い、いや聞いてみただけだよ。大騒ぎになるよな」
「いえ、ピウスさんがビーストテイマーだと言えば大丈夫と思いますけど」
「けど?」
「非常に目立ちますよ」
「ふうむ。目立ちはするけど、受け入れはしてくれるのかなあ?」
「そうですね。飛竜で行くのでしたら、最初だけでも私がついていきますよ」
「ありがとう。ベリサリウス様に相談してみる」
俺は手を振り、ティモタと別れるとベリサリウスの元へ向かう。
ビーストテイマーとは何の事か全く不明だけど、名乗ればいいだけなら問題はないだろう。多分……
街で注目を集めるのなら、開きなおってこの機会に魔の森へ商人を呼び込むのも良いんじゃないだろうか。いきなりローマに人間の商人を入れるのは危険だから、旧小鬼村にローマの出先機関を作ると良いだろう。
いずれ人間と取引する予定だったわけで、聖教騎士団も手酷い目にあったばかりだからすぐに攻めても来ないはずだ。
しかし、次攻めて来るとすれば兵力が前回の倍以上に膨れ上がると想定される。
聖教騎士団第一団とか彼らは言っていたから、第二以降もあるだろうし、パルミラ聖王国の軍が出て来ることも想定される。
一年先か二年先か分からないが、目立つことも厭わずローマの発展に全力を尽くすべきじゃないのか?
商人だけでなく、農業が出来る人たちを移住させたいし、俺たちが目立てば、パルミラ聖王国や聖教騎士団と敵対する勢力からの接触もあるかもしれない。そういった勢力と連携するか、吸収出来ればローマの兵力を増強できることだろう。
ああ、兵力と言えば、魔の森に味方になってくれそうな亜人は他に居ないものだろうか? 魔の森全体の調査は近くやる必要があるな。
ローマの建築だけでなく、やる事は山積みだなあ。俺が外へ周遊に行ける日はいつの事やら。
考え事をしているうちにベリサリウス邸に到着したぞ。幸い今日は家に彼が居たのですぐ話をする事ができた。
ぶりっ子エリスに案内されてテーブルに着くと、俺はさっそく対面に座るベリサリウスに相談を持ちかける。
「ベリサリウス様、一つ相談があるんです」
「ほう。どんな事だ?」
「飛竜で人間の街へ出てみようと思ってます。幸い人間達の中にもビーストテイマーなる飛竜を操る者が居るとのことでしたので」
「ふむ。プロコピウスの事だからただ出るわけではないのだろう?」
「はい。幾つか目論見があります。飛竜は人間の街で非常に目立つそうです。まず軍事的に懸念点を説明します」
俺はベリサリウスに、飛竜が非常に目立つので、聖教騎士団やパルミラ聖王国を刺激する可能性がある事を伝える。
「攻めて来るなら来れば良いのだ。問題は無い」
ベリサリウスは獰猛な笑みを浮かべとても、それはとても楽しそうに俺に言い放った。うわー。相変わらずとことん好戦的だー。
これは今後ベリサリウスへ相談する前に、敵情調査を出来るならやったほうがいいな。今回はある意味時間との勝負と俺は見ているから、彼が応と言うなら言う事は何も無い。
「しかし、得られる利益も大きいと思ってます」
俺はベリサリウスに目立つ事のメリットを説明する。
注目を集めることで商人を呼び込み、農家を誘致出来るかもしれないこと。人間との取引によって、様々な品物を取得出来るだろうこと。
「さすがプロコピウスよ。一を見せて十を得る。私に異存はない。ぜひ行うべきだ」
ベリサリウスは満足そうに頷き、俺を褒める。
少し照れながらも、俺は商人との取引場所について説明を行う。
「ベリサリウス様。人間の商人とは旧小鬼村に宿泊施設も整備し、ここで取引しようと考えてます」
「ふむ。そのほうが望ましいだろう」
「旧小鬼村がいずれ人間と亜人の共存する村になれば、ローマにも呼べましょう」
「人間も呼び込めれば、街はさらなる発展をするだろう。私に言う事は何もないぞ。一つだけ、お前に提案がある」
「何でしょうか?」
「いつまでも旧小鬼村では、格好が悪いだろう。どうだ、村の名前を決めては?」
「そうですね。ではベリサリウス様に決めていただけますか?」
「そうだな。ラヴェンナはどうだ?」
「ラヴェンナですか……なるほど」
ラヴェンナは俺の生きていた時代で言うと、イタリア北部の人口十五万ほどの小規模な街だ。
しかし、ベリサリウスの時代では重要な街だった。当時イタリア半島を支配していた東ゴート王国の首都がラヴェンナで、ローマによる東ゴート王国征服後にも首府が置かれた重要な都市だった。
民族の合流って観点からはいい名前だと思う。
「では、ラヴェンナの整備、人間の街への訪問は任せたぞ」
「はい。ありがとうございます!」
「人材は自由に選ぶが良い。引き抜く前に村長にも話を通しておけ」
「分かりました」
まさか風呂に入りたいことがきっかけで、ラヴェンナの整備を行うことになろうとは、だ、誰にも言えない。
ラヴェンナの整備については、大まかな指示を出す必要があるけど、オークと犬耳族の半数をラヴェンナに割り振り、リザードマンの一部に協力してもらうか。リーダーはライチに任そう。
ローマの道整備の方は、ティモタとマッスルブに任せる。
いずれにしても実行するのは、アスファルトの実験が終わってからだな。
飛竜で街に行くメンバーはどうしようか……人間の街訪問についてだが、最初はガイア達と待ち合わせした方が無難だろうな。次に彼らが来た時に調整しよう。
さあ、誰と行こうかな。何気に初めて訪れる人間の街が楽しみなんだよなー。
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