第52話 準備会議
俺達三人は来た道を戻る。十字路にある集会所へ向かうためだ。緊急事態があった時には、主だったメンバーが集会所へ集まり対応を協議するようになっている。きっとベリサリウスはすでにそこへ移動しているはずだ。
集会所は建築されたばかりの建物で、ローマ中央十字路に隣接して立つ大きな正方形の建物になる。集会所へ向かう最中にエルラインが俺に興味津々といった風に話かけてくる。
「僅かな期間でよくここまで警戒網を作ったね」
「俺が作ったわけじゃないさ。ハーピーとエリスさんのお陰だよ」
「ふうん。君のありようは面白い。異界出身だからこそかな」
何に興味を持ったのかわからないけど、エルラインはクスクスと笑い声をあげている。
「ベリサリウス様ならば、亜人の特性を生かした戦い方を既に構築しているはずだよ」
「それは楽しみだ」
「ちょっとしゃべってないで早く行くわよ!」
エリスのお叱りを受けた俺達は口をつぐむ。走りながらしゃべってたんだけどな......
◇◇◇◇◇
集会所へ着くと既に小鬼の村長とベリサリウスが会話を交わしているようだった。ベリサリウスは俺に気が付くと椅子から立ち上がり、俺を手招きする。
彼らの他にも数名既に駆けつけているようだ。
集会所の中はまだ簡素な四角いテーブルと椅子が十脚ほど置いている寂しいものであったが、会議を行うにはそれで事足りる。
「お待たせいたしました」
「プロコピウス。エリス。ご苦労だった」
ベリサリウスはまず俺とエリスを労う。
が! エリスがトリップしかけてるぞ。「ご苦労」だけであっちの世界に行かれたら困るんだけど......
「人間の数は百と聞きましたが事実ですかな?」
村長がエリスに目をやり、確認を取る。
「はい。事実ですわ。村長さん。敵はパルミラ聖王国の聖教騎士団百名です」
エリスの言葉にざわめくベリサリウス以外の群衆。
ざわめく群衆にベリサリウスは手を上げると、とたんに静まり返る。皆彼の言葉を待っているのだ。彼らも俺も信じている。ベリサリウスならばなんとかしてくれると。
ベリサリウスは群衆が静まった事を確認すると、一人ひとりに目をやり口を開く。
「今回は私と猫耳族十名に加え、プロコピウスは空から目の役を行え。お前とエリス、残りはティンでよかろう。それだけで充分だ」
再びざわつく群衆。見かねた村長がベリサリウスへ懸念の声をあげる。
「ベリサリウス殿。人間百人に対し、いささか少なすぎやしませんか?」
「何をおっしゃいます。村長殿。猫耳族ならば十名で充分です。彼らと私で殲滅してみせましょう」
ベリサリウスは来ていた猫耳族の男性へ目をやると、彼は感極まったように震えた後「はい!」と返事をする。
それでも不安そうな村長達へベリサリウスは今回の作戦内容を説明することにしたようだ。
「村長殿。そして皆の者。今回の戦は戦にもならないのですぞ」
「一体どういうことなのです?」
村長の言葉にベリサリウスは応じる。
「考えてみてください。奴らは何処を攻めれば良いのです?」
このベリサリウスの言葉でようやく俺は気が付いた。確かに戦争にさえならないなこれは。
「プロコピウス、お前の方が説明が上手いだろう。皆に説明してやってくれ」
「了解しました。ベリサリウス様」
良かった。このタイミングで。最初に説明しろと言われていたら分からなかったぞ!
「ではご説明します。敵はこちらの拠点を知りません。ですので、我々がどこにいるのか当てもなく捜すことになるでしょう」
続いて俺は説明を続ける。百名いる聖教騎士団は、亜人の拠点を捜索するために少数に別れて探索を始めるはずで、そうなれば各個撃破が可能となる。
空からの監視で俺達には彼らが何処にいるのか筒抜けになり、エリスの風の精霊術でオンタイムでベリサリウスに位置情報が伝わるわけだ。
「......というわけです。後はベリサリウス様と猫耳族が狩れば終了です」
「なるほど。ベリサリウス殿の真眼恐れ入った」
村長が感服したように言葉を漏らす。
「村長殿。私自身十名程度に囲まれてもどうということはありません。そして猫耳族には樹上に潜み奇襲をかけてもらいます。これは彼らにしか出来ないことですぞ!」
なるほど。ベリサリウスがデイノニクスに騎乗し、俺とエリスが上空から確認した情報を元に聖教騎士団へベリサリウスが襲撃をかけ、猫耳族の元へ誘引する。罠に入った聖教騎士団へ樹上から猫耳族が奇襲をかける。
見事な手だ。航空機を使った偵察に無線を利用した情報伝達を中世の人間であるベリサリウスが躊躇なく使うとは、彼の発想は驚異的過ぎる! 優勢な敵に対し、情報戦で勝りゲリラ戦を仕掛けると。
本当に現代人的な発想だよ。よく思いつくわ......
「では、ベリサリウス殿。残りの者はいかようにしますか?」
村長が問うとベリサリウスは再度群衆を見渡した後、驚愕の事実を告げる。
「村長殿。皆の者。此度の敵は偵察部隊に過ぎぬのです」
これにはベリサリウスを信じる彼らにも刺激が強すぎたようで、ざわめきが今までで一番大きくこだまする。
相手だって馬鹿ではない。敵の拠点も分からず闇雲に森へ入ることに少し疑問を感じていたが、彼ら百名が威力偵察を行い、撃滅すべき敵の情報を持ち帰るというなら筋は通る。
俺としてはこちらを舐めきって、百名いれば場所が分からずとも余裕で殲滅できるとか思ってくれてたほうがいいんだけど。考え無しに突っ込んで来ている可能性もある。
ただ、この百名が威力偵察で、本隊が控えている事を考慮して動いておくことは必須だろう。百名でさえ、人間の戦闘能力を考慮すると良くて五分だ。それが百名がただの偵察部隊となると、本隊の数は......想像したくもない。
「皆さん。ベリサリウス様は可能性を考慮されているのです」
余りに落ち着きが無くなってしまった彼らを安心させるように俺は彼らを見渡し、意識して穏やかな声を出した。
「一体どういうことですかな? プロコピウス殿」
「ご説明します。聖教騎士団が闇雲に魔の森へ入ることを良しとしない場合、彼らの本隊が森の外へ控えているかもしれないということです」
「ふむ」
「森から出ぬよう、空からの偵察はもちろん行います。しかしながら、備えておくのは早いに越したことはありません」
「なるほど。理解できましたぞ。プロコピウス殿」
村長は不安な顔のままだったが、とりあえず頷いてくれた。
「状況の調査が済み次第、皆さんに指示を出させていただきます。ベリサリウス様。それでよろしいですか?」
「うむ。指示はエリスを通じ、パオラにいつでも伝えることが出来る。指示は早ければ早い方が望ましいからな。風の精霊術は誠優秀だ」
俺の言葉に満足したようにベリサリウスは頷く。
「皆さん。一丸となりこの危機を乗り切りましょう!」
俺の締めの言葉に全員が歓声をあげ、会議は閉会となる。
俺の言葉を待ってからベリサリウスは戦に準備に取り掛かると一礼し、猫耳族を連れて足早に集会場を出ていく。俺も彼らに一礼した後、集会場をエリスとエルラインを連れ後にした。
さっそく戦の準備に取り掛からないと。しかし風の精霊術は卑怯なほど便利だ。電気さえ無いこの地域で携帯電話が使えるようなものだものな。情報伝達がゼロタイムで出来るのは本当大きなアドバンテージだよ。
いや、待てよ。エルラインに確認したいことがある。魔法のことだ......
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